工業化された農業は、急成長する人口に対応できる万能薬と思われてきました。化学肥料、農薬を大量に使用し、農業生産は3倍以上に増え、安価な食料が豊富になりました。しかし当初の期待とは反対に、数十年にわたる工業的農業は環境に大きな負担をかけ、食糧生産の持続可能性の深刻な懸念の原因となっています。

国連環境計画(UNEP)の「10 things you should know about industrial farming」より、工業型農業について知っておきたい10の事実を、いくつかのデータを追加してご紹介します。

1. 実はコストが高い

温室効果ガスを排出し、大気や水を汚染し、野生動物の生息地を破壊する工業化された農業は、毎年約3兆ドルの環境コストをかけているとの試算があります。

汚染された飲料水の浄化や栄養不良による病気の治療など、外部化されたコストは産業では計算に含まれていません。

つまり、地域社会や納税者が気づかないうちにツケを払わされている可能性があります。

2. 動物から人へのウイルスの感染

動物は遺伝的多様性によって自然な病気への抵抗力を得ますが、畜産では近い遺伝子の範囲での遺伝の交配が繰り返されます。そのため、病原体に対する抵抗力が弱くなります

また工業型畜産では近接して過密飼育しているため、ウイルスは容易に拡散します。野生動物から家畜へ、そして人間へと病原体が伝播する橋渡しの役割を、工業型畜産業がしてしまう可能性は大きくあります。

3. 人獣共通感染症を引き起こす

農業のための土地を確保するために森林を伐採し、野生動物の生息地を狭めたり、農場を都市の中心部に近づけることは、野生動物の間で循環するウイルスから人間を守る自然の緩衝材を破壊することになります。

UNEPの最近の評価では、動物性タンパク質の需要の増加持続不可能な農業集約化気候変動が人獣共通感染症の発生に影響を与える人的要因の一つであるとされています。

4. 薬剤耐性を助長する

抗菌剤は病気の予防や治療だけでなく、家畜動物の成長を促進させるためにもよく使われます。

世界で投与される抗生物質の4分の3が家畜動物に使われています。

抗菌剤は時間が経つと微生物が耐性を獲得し、薬としての効果が薄れていきます。抗生物質への耐性をもつ細菌が増え、治療も拡散の抑制もしにくい伝染病が発生する可能性があります。

実際に毎年約70万人が耐性菌による感染症で亡くなっています。2050年には、それらの病気による死亡者数ががんを上回るかもしれません。

世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性は「現代医学の成果を脅かす可能性がある」と指摘しています。

5. 農薬の使用により、健康に悪影響を及ぼす可能性がある

農業の収穫量を増やすために大量の化学肥料や農薬が使用されており、食品を通じて毒性のある農薬を体内に取り込む可能性があります。

農薬の中には、内分泌かく乱物質として作用し、生殖機能に影響を与える可能性があるものや乳がんの発生率を高めるもの、子どもの成長発達の遅れを引き起こすもの、免疫機能を変化させるものなどがあることが証明されています。

6. 水や土壌を汚染し、人の健康に影響を与える

工業型の農業は、農薬、大量の家畜糞尿、化学物質、抗生物質、成長ホルモンを水源に放出し、環境を汚染する大きな原因の一つとなっています。

水や土壌の汚染は、水生生態系と人間の健康の両方にリスクをもたらします。農業で最も一般的な化学汚染物質である硝酸塩は、乳児の死につながる「ブルーベイビー症候群」を引き起こす可能性があります。

7. 肥満と慢性疾患の蔓延を引き起こしている

工業型農業は主要穀物の生産量を飛躍的に伸ばし、安価に購入できるようになりました。現在、食事に含まれるエネルギーの60%は、米、トウモロコシ、小麦の3種類の穀物から摂られるようになっています。

飢餓に苦しむ人々の割合は効果的に減少しましたが、果物、野菜、豆類の摂取など、栄養面での推奨事項を満たさず、パスタやピザなどを中心とする食事をする人も増えています。また安価にたくさんの食べ物を食べられるようになったことで、必要以上にカロリーを摂取する人も増えています。

肥満人口は世界的に増加しており、心臓病、脳卒中、糖尿病、一部のがんなど、食生活に関連する予防可能な疾病に多くの人が苦しんでいます。

8. 非効率的に膨大な土地面積を使用する

1970年から2011年の間に、家畜は世界中で73億頭から242億頭へと増加し、全農地の約60%が放牧に利用されています。畜産業は拡大し続けるばかりです。

穀類の生産は、人間の食用より家畜の飼料やバイオ燃料に重点が置かれるようになりました。食肉需要を満たすために多くの家畜飼料が必要となり、森林を伐採して広大な農地を使用しています。

肉はとても多くの資源を必要とする食べ物で、1kgのステーキに約25kgの穀物が必要です。例えば牛肉は与えられたエサのカロリーの3%分しかお肉として還元されません。

人が直接、穀物を食べることができれば多くの土地を森林として再生できる可能性があり、世界が植物性の食へとシフトした場合、農地の75%以上を削減できるとの指摘もあります。*

9. 格差や不平等を定着させる

小規模農家は全農家の72%を占めていますが、農地全体のわずか8%しか占めていません。

一方、大規模農家は世界の農家の1%に過ぎないにも関わらず、農地の65%を占めています。

このため、大規模農家は不釣り合いな支配力を持ち、途上国を含む資源の乏しい小規模農家は異常に安い単価で大量に生産しなければ生活費も稼げません。

また、貧困層が購入できる安い食料はカロリーは高いかもしれませんが、常に栄養価が低いものです。貧しい人々は、生産者としても消費者としても、不利な立場に置かれています。

10. 根本的に地球環境の健康に反する

20世紀初頭に登場した、非常に高い温度と圧力で空気中の窒素を抽出し、水素と結合させてアンモニアを製造するハーバー・ボッシュ法という技術は、近代農業を一変させました。これは現在、化学肥料産業の基礎となっているものです。

その結果、自然界に存在する肥料(太陽、健康な微生物土壌、輪作)は、あまり使用されなくなり、化学肥料が大量に使用されるようになりました。今日、アンモニアの生産は世界の総エネルギー供給の1〜2%を消費し、世界の総二酸化炭素排出量の約1.5%を占めています。

食と自然を守り気候変動を抑える生態系農業

有機農業や自然農法などの生態系農業は、 自然と生物多様性を大切にし、古くからの知恵と最先端の農業技術をかけあわせた農法です。 巨大企業を中心とした「工業型農業」ではなく、人々と農家、つまり消費者と生産者を中心におき、コミュニティのつながりを深めます。

食と農業の未来像 〜エコロジカル農業(生態系農業)〜