国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは(東京都新宿区、以下グリーンピース)は本日、放射線調査報告書『終わらない汚染 福島県浪江町、大熊町、福島市、阿武隈川河川区域および楢葉町における東電原発事故放射線調査』(注1)を発表しました。今回の調査では、台風に伴う大雨後に、時間とともに放射能が減少していく「放射性崩壊」だけでは説明がつかないほどに、放射線レベルが大幅に下がりました。一方、雨水が流れ着く先にホットスポットが形成されていたことが明らかになりました。一度除染が行われた場所であっても、再度汚染が起こっています。こうした調査結果を踏まえ、グリーンピースは政府に対し、避難指示を解除した地域では定期的な放射能の除染とモニタリングを続けるとともに、大雨などの後に再除染が確認された場合、速やかに除染を行うことなどを提言しました。

■調査結果概要

放射線調査は、2019年10月16日から11月5日にかけて実施。飯舘村、浪江町の帰還困難区域と避難指示が解除された地域、大熊町、阿武隈川河川区域、オリンピックで競技が行われる福島市、および聖火リレーの出発地点のJヴィレッジ周辺で放射線量を測定した(注2)

  • 2017年から毎年、経年変化を調査してきた浪江町の民家では、特徴別に区割りした計9区画のうち、7区画の平均の放射線量が2018年の毎時1.3マイクロシーベルトから、2019年は毎時0.9マイクロシーベルトへと大きく減少した。大雨が表面の放射性物質を洗い流したと考えられ、雨水が流れ込んだ敷地外の窪地で再汚染(ホットスポット)が確認された。
  • 2015年から調査を続けている飯舘村の民家では、調査を実施した12区画すべてで放射線量の減少が見られた。平均の放射線量は2018年の毎時0.7マイクロシーベルトから29%減の毎時0.5マイクロシーベルトと大きく低下した。
  • 浪江町の避難指示が解除された区域にある小学校周辺では、道路脇の近くの森から流れ出たとみられる泥つきの葉や枝が溜まっており、ホットスポットとなっていた。
  • 聖火リレーの出発地点のJヴィレッジでは、地表面付近で最大毎時71マイクロシーベルトの非常にリスクの高いホットスポットが見つかった(注3)。グリーンピースが環境省に通報したことを受け、東京電力は2019年12月に局所的な除染を実施。グリーンピースはその後の12月13、14日に再調査を行い、別の複数のホットスポットを確認した。(次ページに続く)

グリーンピース・ジャパン、エネルギー担当の鈴木かずえは、「気象状況により放射能が移動し、放射線が大幅に減少するところがある一方で、新たなホットスポットも形成されています。気象災害が甚大化する昨今、憂慮される事態です。除染に『完了』はありません。政府の復興政策の影で、今も苦しんでいる被害者が多くいます。このような中、国連人権理事会の特別報告者が訪日調査受け入れを日本政府に申請しています。実情を見てもらい、状況改善につなげるため、グリーンピースは日本政府あてに、国連特別報告者の訪日調査実現を求める署名を行っています(注4)」と述べています。

また、兵庫県に避難中の浪江町住民で、今回の調査協力者でもある菅野みずえ氏は、「世界の人々に福島県の実情を知ってもらいたいです。大雨で放射能が山々から流れ出し、除染された地域に流れ込みました。私の自宅周辺で見つかった放射能レベルは、これまでにないほど高いものでした。いったん原発事故が起きるとこのようになってしまう。そして、間もなくオリンピックが開催されようとしているのに、何も問題ないふりをしている。それは間違っていると知ってください」と話しています。

(注1)『終わらない汚染 福島県浪江町、大熊町、福島市、阿武隈川河川区域および楢葉町における東電原発事故放射線調査』

(注2)参考:政府の除染の目安は、毎時0.23マイクロシーベルト。事故後、政府が年間1ミリシーベルト(公衆被ばく限度)から設定した

(注3)グリーンピースプレスリリース
『福島県のJヴィレッジ周辺で放射能ホットスポットを確認ーー政府に速やかな除染を要請』 (2019年12月4日)
『Jヴィレッジで再度ホットスポット確認 ーー恒久的な除染とモニタリングを』(2019年12月17日)

(注4)グリーンピース署名ページ 

写真と動画はこちらからご利用ください
https://media.greenpeace.org/collection/27MZIFJ83GQWL

※報告書の一部に以下の誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします(3月9日17:30)
6ページ 表1.1
誤:帰還困難区域 浪江町 菅野氏宅  2019年平均値  0.6  (μSv/h)
正:帰還困難区域 浪江町 菅野氏宅  2019年平均値  0.9  (μSv/h)