Earth as seen from space. Image courtesy of NASA

今年は、1987年に「オゾン破壊物質を規制するモントリオール議定書」が調印されてから、ちょうど10周年にあたる節目の年です。「国連オゾン層保護デー」である9月16日には、カナダのモントリオールで「モントリオール議定書10周年祝賀特別式典」の開催が予定されています。

この式典で、オゾン層保護に傑出した貢献を果たした23の個人・団体が、国連環境計画(UNEP)から「オゾン層保護賞」を授与されます。グリーンピース・インターナショナルも受賞しました。UNEPは、グリーンピースの受賞理由を以下のように述べています。

「グリーンピース・インターナショナルは、各国政府に対しオゾン破壊物質の段階的廃止の必要性を認識させる上で重要な役割を果たした。また、それに満足することなく、オゾン破壊物質を全く使用しない冷蔵庫システムを開発した。このグリーンフリーズシステムはどの企業でも自由に商品化することが可能で、現在欧州の大メーカー数社より市場化されている。さらに、中国の大手数社も炭化水素冷媒使用への移行を検討中である。グリーンフリーズによって、グリーンピースはオゾン層保護に重要で建設的な貢献をした」(UNEPプレスリリース”1997 Ozone Award Presented to 23 Leaders who Made a Difference”より)

グリーンフリーズ技術とは

グリーンピースは、家庭用冷蔵庫の「グリーンフリーズ」技術によって、業界や先進国政府が不可能だと主張していた代替フロンからの脱却=代替フロンを使用しない技術が可能であることを証明しようとしてきました。

家庭用冷蔵庫用にはもともと、冷媒には特定フロン12(CFC12)が、断熱材の発泡剤として特定フロン11(CFC11)が使用されていました。

この代替として世界の冷蔵庫メーカーは、冷媒用には代替フロンHFC134a(注1)を、発泡剤には代替フロンHCFC141b(注2)を採用し、これ以外の代替は存在しないと主張していました。しかし、HFC134aは温室効果が高く、HCFC141bはオゾン破壊規制物質です。

対して、グリーンピースは企業と研究所に委託し、1992年にオゾンを破壊せず、また温室効果も無視できる程度である炭化水素(注3)を使用した家庭用冷蔵庫用の技術「グリーンフリーズ」を開発。各国の企業や政府に代替フロンからの脱却を呼びかけるキャンペーンを展開してきました。

家庭用冷蔵庫の冷媒、発泡使用としての炭化水素の利用は、途上国への技術移転のために設立された「モントリオール議定書多国間基金」執行委員会によって承認されています。

グリーンピースは、ドイツの企業と研究所に委託費を出してこの技術を開発しましたが、この技術を使用した冷蔵庫の販売等による利益にはまったく関わっていません。このキャンペーンの目的はあくまでも、代替フロンからの脱却を世界に促し、実現することにあります。また、ドイツ政府は炭化水素冷蔵庫技術を途上国に積極的に利用するよう促しています。

このグリーンフリーズ技術がきっかけとなり、他の冷媒分野でも特に欧州を中心に自然冷媒の技術開発が加速されました。

グリーンフリーズモデルが欧州で普及。他地域でも広がる兆し

1997年7月現在、グリーンフリーズ技術を採用した冷蔵庫は、ドイツの市場でほぼ100%を占めており、欧州市場でもすでに1400万台が存在しています。これは冷蔵庫欧州市場全体の25%にあたります。英国のカラー・ガス社の情報によれば、この割合は今後5年間で90%まで上がると予測されています。

市場には100を超えるグリーンフリーズモデルが存在し、欧州のほとんどの国で販売されています。製造メーカーには、ボッシュ・シーメンス、エレクトロラクス、AEG、リプファー、ミーレ、クエレ、フェストフロスト、ワープール、バウクニヒトなどの大手メーカーが名を連ねます。

また、中国最大の冷蔵庫メーカーのひとつケロン社は、1997年中に最大70万ユニットを生産する予定。その他、アルゼンチン、キューバ、トルコ、ロシアのメーカーもグリーンフリーズの生産を決定しています。

グリーンフリーズモデルの今後と、日本での動き

欧州連合(EU)は1996年11月29日、EUのエコラベルの基準改定を行い、家庭用冷蔵庫の冷媒、発泡に関して、地球温暖化係数がGWP15以下のもののみエコラベルの対象とすることを決定しました。これによって、HFC、HCFCを使用する冷蔵庫はエコラベルの対象外となります。

炭化水素は可燃性ガスです。日本のメーカーはこの可燃性を理由にHFC使用を主張しています。しかし、冷媒量は炭化水素の場合従来のフロンの40%から50%の充填量で済みます(350リットル級で従来のフロンの場合平均150g)。また、ドイツでは安全規格であるTUV規格で認定されてもいます。国際基準では家庭用冷蔵庫に関しては現在150gまで炭化水素冷媒の使用が安全基準として合意されているものです。

炭化水素冷媒のエネルギー効率は、従来のフロンや代替フロンよりも良いことが立証されています。

日本では、松下、シャープ、三菱が断熱発泡剤として炭化水素(シクロペンタン)使用に切り替えて発売しています(ただし冷媒はHFCを使用)。また、鹿島建設とコープ神戸が空気・水冷媒の冷蔵庫の開発に取り組んでいます。

デロンギ・ジャパンは今年から炭化水素冷媒を使用した除湿機を日本で販売。前川製作所は、安全性の高い、効率の良いアンモニアの冷凍機を製造しています。

注1)HFC134a:オゾン破壊係数はゼロ、地球温暖化係数は同重量あたりで二酸化炭素の1,300~3,300倍。(国連・気候変動に関する政府間パネル報告書より)

注2)HCFC141b:オゾン破壊係数はCFCを1とすると0.11。モントリオール議定書の規制物質で2020年全廃が決定している。

注3)冷媒にはプロパン・ブタンの混合、またはイソブタン、発泡用にはシクロペンタンを使用