INC事務局長ジョディー・マサー・フィリップ氏

2023年11月13日〜19日の期間、ケニアのナイロビで、国際プラスチック条約の内容を決めるための3回目の政府間会合(INC-3)が開催されました。プラ条約にはどのような進展があり、日本はどんな姿勢を示したのでしょうか。INC-4までに私たちにできることを考えます。

プラスチックが世界を埋め尽くす前に

世界では、今この時もプラスチックが恐ろしい勢いで生産され続けています。悪化の一途をたどるプラ問題の解決のため、国連は法的拘束力をもつ「国際プラスチック条約(以下、プラ条約)」の制定を決めました。

現在、地球環境の行く末を大きく左右するプラ条約の内容を決めるための話し合いが重ねられています。プラ条約は2025年までに制定される予定です。


INC-3に参加したグリーンピースのメンバー
INC-3に参加したグリーンピースのメンバー。グリーンピース・ジャパンからシニア政策渉外担当の小池宏隆とグリーンピース・アフリカのプラスチックキャンペーナー(2023年11月)

これまで2回の政府間会合(INC-1〜2)が開催されていますが、2023年11月13日〜19日の期間、ケニアのナイロビで3回目の政府間会合(INC-3)が開催されました。交渉のために約150カ国から集った交渉担当者の一員として、グリーンピース・ジャパンからもINC2に続き、スタッフが参加しています。

最も重要な争点は避けられないはずの「プラ生産の規制」

プラ条約が、非常に重要な役割を持つと考えられているのは、条約によって一次プラスチックポリマーの製造や供給を規制できる可能性があるからです。

世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるためには、プラスチックの生産量を少なくとも現在の75%に減らさなくてはならないことがわかっています。

世界共通のプラスチックに関する義務的措置が行われた場合とそうでない場合のプラスチック生産量
世界共通のプラスチックに関する義務的措置が行われた場合とそうでない場合のプラスチック生産量 (出典:SYSTEMIQ Towards Ending Plastic Pollution by 2040

現実は深刻です。一定の生産規制が行われた場合でも、プラスチック生産量は横ばい、規制がなされない場合には、増加の一途をたどると見込まれています。何も対策を講じなければ、2050年までにさらに3倍近く増加してしまうという予測も発表されています*持続可能な未来のためには、条約によるプラ生産の規制が不可欠であることはすでに多くの研究で明らかになっています。

リサイクルを強化するだけではプラスチックによる環境汚染はより悪化し、壊滅的な気候危機を回避することもできません。

交渉難航、生産規制をめぐる各国と企業の思惑

9月4日、INC-3を前に国連環境計画(UNEP)が公表した「ゼロ・ドラフト(条約草案)」では、プラスチックの生産を削減する必要性について触れられてはいたものの、真に効力のある上流規制を導入できるかは不透明であり、その点の具体化が注視されていました。

そして、INC-3では、この生産規制を含む主要な分野を、専門的知見に基づいて議論する土台をつくる作業が行われるはずでした。懸念される化学物質やポリマー、一次プラスチックの規制等の論点について、化学や技術、財政について、専門家の声を取り入れる会合間作業です。

タイのワンナパ・ビーチで、グリーンピースのボランティアに回収されたプラスチックゴミ
タイのワンナパ・ビーチで、グリーンピースのボランティアに回収されたプラスチックゴミ(2020年9月)

しかし、産油国の反対を受け、妥協を模索する欧州やその他の国に、一次ポリマーの生産規制をテーマから外して作業を進めようとする動きがあり、交渉は暗礁に乗り上げます。野心的な条約に賛同するアフリカ諸国や島嶼国などが、彼らの声が反映されていないと作業の前提に合意せず、他にも一部の国が資金に関して強行な立場を取ったことから、結果的に会合間作業自体を実施することができませんでした。

INC-3、14日のオブザーバー・ミーティングの様子
INC-3、14日のオブザーバー・ミーティングの様子(2023年11月)Photo by IISD/ENB | Ahmed Nayim Yussuf

一週間の会期中に渡り、ほぼ連日夜間まで会合や議論が続きました。産油国を中心とした国々の要望を受け、まとめるはずだった条約草案は、各国の意見がそのまま加えられ、100ページを超えて肥大化してしまいました。

明らかになった日本の消極的な立ち位置

日本はプラスチック汚染対策の条約策定交渉に関する高野心連合(HAC)に参加しており、2023年11月3日には、一次プラスチックの削減などを呼びかけるHAC共同大臣声明にも賛同しています。

このように、実効的なプラ条約の実現に積極性を示す動きもあった日本ですが、INC-3での姿勢はそれに反するものでした。

INC-3開催にあわせて現地で開催されたプラスチック汚染に反対するデモ
INC-3開催にあわせて現地で開催されたプラスチック汚染に反対するデモ(2023年11月)Photo by IISD/ENB

INC-3において、特に南米、アフリカ、島嶼国などプラスチック汚染の影響を大きくうける国々は、一次プラスチックポリマーの規制を含む野心的な条約内容に積極的な姿勢を見せています。

一方で、日本は「これからのプラ生産の必要性が増加する可能性のある途上国への配慮」などを理由に、一次プラスチックポリマーの削減においても「具体的な世界目標を掲げない」選択肢に賛成し、いくつかの東南アジア諸国よりもむしろ後ろ向きでした。これから発展する国々の代表格である東南アジアの国々が、一次プラスチックポリマーの規制に賛成している中、このような主張は、自国の後ろ向きな姿勢の責任を他国に押し付ける姿勢で、批判されるべきものです。

産油国など一部の大国の影に隠れ、野心的な条約内容にブレーキをかける保身的な姿勢のままでは、国際社会でリードを取ることは難しいでしょう。

2024年4月カナダで開催されるINC-4までにできること

次の国際会合は来年の4月からカナダのオタワで開催されます。INC-3では、前述の通りINC-4での交渉の土台とするはずだった主要分野における科学的、資金的な情報の収集と共有のための作業ができませんでした。

INC-3では、後ろ向きな姿勢が目立っていた日本の役割は小さくありません。プラスチック汚染問題を抱える国や地域の声にこそ耳を傾け、プラスチック汚染を発生源から終わらせる条約実現に向けて、より積極的な発言や行動が求められます。

各国各地からINC-3に参加したグリーンピースのメンバー
各国各地からINC-3に参加したグリーンピースのメンバー(2023年11月)

プラ条約の誕生まではあと約1年です。私たちがどれだけ大きな声をリーダーたちに声を届けることができるかが大きく影響します。

署名は最も効果的な手段の一つです。グリーンピースと一緒に真に有効なプラスチック条約の実現を求めましょう。