使い捨てより、リユースの方が環境にいいだろうと思うけど、企業がカップを貸し出すサービスは日本ではまだ利用できる店舗が少ないし、リユースカップをつくるのにも環境負担はあるはず……。気になるリユースカップシステムの実際の環境影響をグリーンピースが使い捨てと詳細に比較。規模や使用頻度を細かく設定し、16の項目別に環境への負荷を調査しました。気になる結果は?

リユース VS 使い捨て、カップの環境影響を比較調査

グリーンピース・ジャパンは、リユースカップと使い捨てカップの仕組みの環境影響を比較する調査を行い、2023年11月17日に報告書リユースが拓く未来ーー東アジアにおけるリユースカップシステムと使い捨てカップシステムの環境パフォーマンスに関するライフサイクル比較評価」を発表しました。

調査では、今や当たり前になってしまっている使い捨てカップの仕組みと、近年日本でもサービス展開がひろがり始めている何度も使えるリユースカップの仕組みの環境影響を、「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」という手法を用いて比較。両者の16項目にわたる環境への影響を算出しました。調査によって、どんなことがわかったのでしょうか。

リユースのタンブラーと使い捨てのカップ

「リユースカップって本当に環境にいいの?」

今回の調査では、使い捨てカップとリユースカップのシステムを、資源採取や原料生産から、流通、消費、廃棄やリサイクルに至るまでのライフサイクルの全体においての環境負荷を数値化して評価を行いました。カップ自体の環境影響だけでなく、リユースカップや使い捨てカップのシステムに付随する様々な工程なども含め、カップが私たちの手に渡り、廃棄されるところまで、必要なプロセスを全体的に調べた、少なくとも東アジアでは初めてとなる調査です。

リユースシステムのイメージイラスト

原料の採掘や製造、洗浄で使う水、カップの配送に使われる資材といった環境負荷も網羅しているので、「リユースカップって本当に環境にいいのかな?」と不安があったという方も調査結果にその答えが見つけられるはずです。調査の項目としては、気候変動への影響をはじめ、健康を害する可能性のある物質の排出や、海や川の汚染物質など、多角的に設定しています。

調査の項目
温室効果ガス/化石燃料の消費/オゾン層の破壊/人体への毒性物質/粒子物質の排出/光化学オキシダントの生成/放射性核種の排出/水の消費/淡水の生態毒性/海水の生態毒性/淡水の富栄養化/海水の富栄養化/金属消費/自然の土地の占有や農地への転換/陸域の酸性化/陸域の生態毒性

そのうえで、東アジア地域の4都市(東京、釜山、台北、香港)でリユースカップ・サービスを提供する5つの事業者、香港のCircular City、台北のGood to GoBlue Ocean Vision、釜山のGreenup、そして日本からは主に東京を中心に展開しているRe&Goという5つのリユース事業者のサービスから実際のデータを提供してもらい、分析モデルを作りました。 

リユースシステムの前提条件としては、
3年間で1万個のリユースカップが、40カ所の店で使われる
洗浄設備とリユースシステム提供業者が各1カ所ある
カップの紛失や破損に伴う損失率7%
などを設定しています。

また、使った頻度での違いも比較できるよう、1人あたりの使用頻度も「低頻度(年間20回)」、「中頻度(40回以内)」、「高頻度(60回以内)」と3パターンの条件で数値を出しました。

リユースカップの仕組みは、小規模でも使い捨てより優れている

現状、日本ではリユースカップ提供を実施しているお店はまだまだ少ないです。しかし、グリーンピースの調査の結果、リユースシステムの環境への影響は、まだ規模が小さくて、さらなる効率化の余地が大きい現時点においても、温室効果ガスの排出を含むほとんどの影響項目で使い捨てカップシステムより優れていることがわかりました。

リユースカップシステムの環境パフォーマンス1
リユースカップシステムの環境パフォーマンス2

図表中のうすい緑色のマスは、すべてリユースカップシステムの環境パフォーマンスが使い捨てを上回ったという結果を示します。東アジア全体、釜山、香港、台北、東京といった地域や、使用頻度にかかわらず、ほとんどの項目において使い捨てカップのシステムよりもリユースカップシステムの環境パフォーマンスの方が高かったということがわかります。

調査内容を詳しく見ていきましょう。

リユースの仕組みは使うほど環境貢献度が上がる

注目すべき点は、前述の通り、小規模段階かつ低頻度の利用においてもすでにほとんどの場合、リユースカップの仕組みが使い捨てカップの仕組みより優れているということです。さらに、今回の調査では、より多くの人がリユースカップを使えば使うほど、リユースカップの仕組みが大きく広がれば広がるほど、環境負荷は低くなるということがわかっています。

台湾のリユースカップシステムを利用する人
台湾のリユースカップシステム(2023年5月)

グリーンピースの調査では、すでに存在する小規模なリユースカップのシステムをもとにしていますが、この分野では多くのイノベーションが期待されています。今後、新たに多くのリユースの仕組みが登場し、資源を使い捨てない仕組みが社会全体に広がっていく中で、様々なイノベーションが生まれ、リユースシステムの環境優位性が大きく向上していくことも期待できます。そのためには、私たち市民がリユースの推進を求めていくことが大きく役立ちます。

日本のカフェ、ファーストフードチェーン、コンビニエンスストアでは年間39億個の使い捨てカップが消費されています。仮にこれらすべてをリユースカップのシステムに置き換えた場合、270万本の成木が1年間に吸収するCO2の量に匹敵する6,030万キロ以上のCO2を削減することができます。また、オリンピックのプール212杯分以上の水と、石油9,400バレル以上の消費を抑えることができます。

現時点でリユースカップシステムの環境負荷が高かった項目について

16の調査項目のうち、少数ながらリユースカップシステムの方が環境負荷が高かった項目もありました。こうした結果の多くは、今回の調査で現状の社会の状況に即した条件設定を採用していることが影響しています。

<東アジア>
例えば東アジア全体では、「光化学オキシダントの生成」や「淡水の富栄養化」において、リユースカップシステムの方が環境負荷が高い結果となりました。

東アジアにおける項目別使い捨てカップシステムと比較したリユースカップシステムの環境パフォーマンス

カップの輸送に、内燃エンジンのスクーターを使用する条件で比較を行いましたが、今後、実際の社会で内燃エンジンからEVへの移行が適切に実現すれば「光化学オキシダントの生成」での環境負荷は解消されると予測されます。また、リユースカップの洗浄プロセスにおいて、よりエコフレンドリーな洗剤を使用するようになれば、「淡水の富栄養化」が改善されるでしょう。

<東京>
東京の分析においては、「化石燃料の枯渇(化石燃料の使用量)」の項目の低頻度と中頻度において、使い捨てに比べてリユースカップシステムの環境負荷の方が高いという結果が出ていることがわかります。

東京における項目別使い捨てカップシステムと比較したリユースカップシステムの環境パフォーマンス

この結果にも調査の前提条件が大きく関わっています。台北と韓国においては、「使い捨てカップにリサイクル素材を使ってはいけない」という法律があるため、全て新規に作られたプラスチック素材である前提で試算しています。その結果、リユースカップの環境負荷は東京、香港より低く算出されました。

一方で、東京と香港においては使い捨てカップのPET素材は100%リサイクルであることが前提になっています。そのため、東京では「化石燃料の枯渇(化石燃料の使用量)」の項目で、使い捨てにおける化石燃料の使用量が低くなり、リユースを上回る結果が出ています。しかし実際には、リサイクル素材を使用した使い捨てカップが100%になる状況は今後も考えづらく、リサイクル素材を100%と想定した今回の調査はリユース分析にとってはとても控えめに設定されていると言えます。さらに、使用頻度が高くなれば、リサイクル素材100%であっても環境影響が使い捨てを上回ることがわかっています。

深刻化するプラスチック問題を解決するために

今、地球上ではプラスチックの量がどんどん増え続けています。このままでは、プラスチックによる環境の破壊と汚染が大幅に悪化してしまう可能性が専門家によって指摘されています。プラスチックによる環境破壊は、数年前まで私たちが想定していたよりもずっと深刻なものであることがさまざまな調査から明らかとなってきました。

フィリピンのバーデ島の海に流出した使い捨てプラスチックカップの中に入ったカニ
フィリピンのバーデ島の海に流出した使い捨てプラスチックカップの中に入ったカニ(2019年3月)

生産を規制して、プラスチックの生産量を減らしていく必要があります。グリーンピースは、壊滅的な気候危機を避けるために2040年までに、少なくとも75%のプラスチック生産を削減することを世界的な目標として掲げることを呼びかけています。

今私たちが暮らしているのは使い捨てが当たり前の社会。日本で暮らしていれば、カフェで、コンビニで、スーパーで、カップや容器を使い捨てすることは日常です。目標値を実現させるためには、リユースのシステムを拡大させて、使い捨ての代わりに、リユースを「当たり前」に定着させていく必要があります。

今回の調査では、リユースカップの仕組みは、小規模でも使い捨てより優れていること、使えば使うほどより環境への貢献度が高くなることがわかりました。ぜひ私たちと一緒に、企業に向けてリユースの仕組みを取り入れるよう声を届けましょう。個人の努力だけに頼らなくても、仕組みから変えることで地球に優しい暮らし方は実現できます。