国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区)は本日、4月に就任したトヨタ自動車の佐藤恒治新社長について評価した『トヨタ自動車 佐藤社長就任100日ーーEV専門家による現状分析と評価』と、トヨタ車オーナー1000人を対象にオンラインで実施した『トヨタ車オーナーのブランド・EV戦略・気候変動に関する意識調査』を発表しました。

1. トヨタ自動車 佐藤社長:就任100日

<概要>

7月上旬に佐藤新社長の就任100日目を迎えるにあたり、リーダーシップ、電気自動車(EV)開発戦略、気候変動対応、公正な移行、モビリティー推進の5の項目について、環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長の飯田哲也氏、オンライン・メディアEVsmartなどで、EVや環境に関する情報を発信するVTuberの八重さくら氏の2人に評価・分析を依頼。専門家の意見を元に、A(十分期待値に達している)、B(満足できる)、C(努力が必要)で各項目を評価しました。


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<専門家による評価のポイント>

  • 2030年までにEV350万台生産の目標を再確認し、さらに「BEVファクトリー」の新設を発表し、EV開発・生産を加速化させようとしていることは評価できる。
  • ソフトウェアが車の競争力を決める時代に移行しつつあることを意識し、2025年までに9000人を再教育してソフト人材に転身させることを決定したことは公正な移行の考えに沿った取り組みである。
  • 「全方位戦略」など豊田章男前社長の方針を継承している面もあり、「院政」の印象が拭えない。今後のリーダーシップ発揮に期待したい。
  • EVシフトが本格化する中で、水素燃料車開発などまで手掛ける余裕があるのか疑問。次世代全固体電池については価格について詳細な情報がなく、高価な車両に使用されることになるのではないかと懸念される。
  • 前社長の「敵は炭素、内燃機関ではない」というキーワードは、EV開発への消極姿勢と解釈されるため、佐藤社長はこれを打ち破る必要がある。

<グリーンピースの評価>

専門家の評価・分析をもとに、各項目について、A~Cで評価しました(右図)。佐藤社長が就任後に打ち出した、EV開発加速を目指す「BEVファクトリー」新設や、ソフト人材育成の方針については一定の評価ができます。一方で、現段階ではまだ強いリーダーシップが十分に発揮されていないことや「全方位戦略」の継続とカーボンニュートラル達成の整合性の説明が十分ではないことなどの課題も指摘されました。今後の活躍への期待を込めて、総合評価はBー(マイナス)となりました

2. トヨタ車オーナーの意識調査<概要>
対象:トヨタ車を自分または家族が所有し、日常的に利用している国内在住の18〜69歳の1000人(都道府県人口比に対応して回答者を抽出、男女同数)
方法:グリーンピースが楽天インサイト株式会社に委託し、オンラインで実施
時期:2023年6月19日〜21日
有効回答数:1000人

<主な調査結果>

  • トヨタブランドに対しては、「安全で安心して運転できること」「快適な運転ができる車であること」への期待が高い。
  • トヨタが掲げるパワートレインの全方位戦略について、「EVに注力すべき」「ハイブリッドに注力すべき」「全方位戦略を継続すべき」という回答がほぼ同数で、意見が分かれた。一方「内燃機関に注力すべき」との回答は4%弱にとどまった。
  • EVの普及推進のためには、トヨタを含めた自動車会社が「価格を下げること」が必要だと感じる人が全体の約7割を占めた。政府に対しては、購入時の補助金拡充を挙げる割合が高かった。
  • EV運転・乗車経験者は回答者全体の2割に満たなかった一方、乗車経験がある人のうち6割が、条件が整えばEV購入も検討すると回答した。

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グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
「EV車への移行をめぐっては、EV電池用リチウムの埋蔵量には限度がある、走行時に使う電気が再エネでないと意味がない、などの誤解がありますが、今後より正確な情報が普及していくことと思われます。今回のオンライン調査では、すべてのパワートレインの生産・販売を追求するという『全方位戦略』が必ずしもトヨタ車オーナーに支持されていない、ということがわかりました。また、消費者はEVへの関心があっても価格が依然高いことを気にしています。専門家も指摘している通り、現行のトヨタのEV用電池開発が、今後一般消費者の期待している車に合致するのかは不透明です。大きな分岐点に立つトヨタのEV戦略と、その舵取りを担う佐藤新社長への国内外からの注目度は高く、速やかなEVシフトに向けその手腕に期待します」

以上


<関連資料>

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