©︎ HAKUA / Greenpeace

年々増えていく猛暑日や短時間での強雨に大雨。気候変動の影響は肌で感じられるものの、今後それによって生活がどこまで変わるのか、そもそも自分たちにできることはあるのだろうか、と漠然とした不安を感じる人は少なくないかもしれません。

グリーンピース・ジャパンでは、時間軸を30年先に設定し、気候変動が日本に与える影響や、私たちにできることを五感を通して知り、想像し、アクションを起こせるアート展覧会「HELP展 〜30年後には消えてしまうかもしれない〜 In SHIGA(以下、HELP展 In SHIGA)」を8月10日(土)、11日(日)の2日間に渡り、滋賀県大津市の旧大津公会堂で開催しました。

滋賀県での展覧会は、2023年11月に東京・青山で開催された「HELP展」の初の巡回展。東京開催を上回るペースで230人以上の来場者が会場まで足を運び、大盛況に終わりました。ここでは展覧会の様子を振り返ります。

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30年後に消えてしまう可能性のある文化や生き物とは

30年とそう遠くない未来には、今、当たり前のように目にしているもの、口にしているものなどがなくなってしまっている可能性があります。

「HELP展 In SHIGA」では、東京での展覧会と同様のテーマ(動物、寿司、諏訪湖 御渡り、昆布)で、ぬいぐるみ作家・片岡メリヤス氏、八劔神社宮司・宮坂清氏、料理研究家・土井善晴氏らを含む多様な作家、文化人たちとともに日本に迫る気候危機を五感で「感じられる」作品を展示しました。

「寿司からのHELP」として展示したのは、なくなる可能性に応じて、透明度を変化させた寿司の樹脂オブジェ。

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乱獲や混獲、地球温暖化による海洋酸性化などを原因に、30年後には食べられなくなるかもしれない魚介類が寿司下駄の上に盛られました。そこにはイカ、エビ、タコ、マグロなどの定番のネタからワサビまでが含まれ、ブリ以外の魚がすべて透明であることから、気候変動が海洋に与える影響の深刻さが伝わる作品となりました。

「動物からのHELP」としては、ぬいぐるみ作家・片岡メリヤス氏が30年後には消えてしまうかもしれない動物のぬいぐるみを制作。ピックアップしたのは、滋賀県にまつわる4種に、世界や国内の他地域に生息する生き物8種。動物が愛らしい口調で語りかけてくるようなコメントとともに展示をしました。

ぬいぐるみ作家の片岡メリヤス氏が制作した、30年後には消えてしまうかもしれない動物の作品。©︎ HAKUA / Greenpeace

諏訪湖 御渡りからのHELP」と料理研究家・土井善晴氏が「人間とはなにか」まで幅広く語る「昆布からのHELP」としては、それぞれ映像作品を上映。どちらもオンラインで見ることができるので、ぜひチェックしてみてください(『御渡り』、『昆布』)。

琵琶湖が気候変動により受ける影響

「HELP展 In SHIGA」では、開催場所を生かしたオリジナル企画も登場。焦点を置いたのは、日本一大きな湖であり、滋賀県の面積の6分の1を占めるという琵琶湖。約400万年以上も前に形成された湖がそれぞれ少しずつ移動し、40万年ほど前に今の琵琶湖の位置におさまったといわれる、古代湖です*1

※1 琵琶湖博物館 琵琶湖の概要

1,000種以上の動植物が生息する*2豊かな生態系も琵琶湖の特徴の一つ。ところがそれをまもる役割を果たす「全層循環*3」が観測されない年が近年出てきています。本来なら毎年冬から春にかけて観測される現象ですが、2018年には史上初、全層循環が確認されませんでした。その翌年にも本来の働きを見せず、2年連続で未確認の年が続きました。理由として、地球温暖化による水面の温度上昇が考えられています*4

*2: 琵琶湖・淀川水系の動植物 琵琶湖・淀川水系の動植物
*3: 琵琶湖の水面にある冷たくて酸素を多く含む水が沈み込み、湖底にある酸素の少ない水と入れ替わる現象。「琵琶湖の深呼吸」とも呼ばれる。湖底の酸素が減ると、湖底に生息する魚が死んだり生態系のバランスが崩れてしまったりすることが考えられる。
*4:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 2020年 地球温暖化が琵琶湖に及ぼす影響の理解と予測

気候変動が琵琶湖に与える影響をより深く知る機会として実施されたのは、高校生新聞部とのコラボレーション企画と、来場者に向けたトークイベント。

会場で取材活動に取り組む新聞部の生徒たち。右は京都大学生態学研究センター長の中野伸一氏。©︎ HAKUA / Greenpeace

滋賀県の新聞部は全国でもトップクラス。全国高等学校総合文化祭では最優秀賞を数年連続で受賞するなどの実績を残しています。そこで今回は虎姫高校、東大津高校、八幡工業高校の3校と連携し、「琵琶湖と気候変動」をテーマにした新聞記事の制作プロジェクトを企画。「HELP展 In SHIGA」に先駆けて京都新聞記者の松村和彦氏、琵琶湖の微生物の研究者である京都大学生態学研究センター長・中野伸一氏を講師に迎えたオリエンテーションとレクチャーを実施し、会場ではオリエンテーションの際に生まれた学生たちのアイデアと制作した記事を展示しました。また会期中にはさらなる記事制作のため、取材活動に取り組む生徒たちの姿も見られました。一部始終をまとめた動画は、こちらから見ることができます。

展示で公開された記事とは別に、「HELP展 In SHIGA」の取材を含むコラボレーション記事も今年の秋頃に公開される予定なので、どうぞご期待ください。

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展覧会の2日目には、来場者に向けたトークイベントも実施されました。

京都大学生態学研究センター長・中野伸一氏、琵琶湖の伝統漁法えり漁漁師・駒井健也氏、ラオス料理人・小松聖児氏、立命館大学学生・尾下望氏を迎え、歴史や現状について触れながら、それぞれがさまざまな角度から琵琶湖と気候変動とのつながりを語りました。

最後には「『琵琶湖の深呼吸』(全層循環)が起こらなくなってしまったら、琵琶湖の生態系はどうなってしまうの?」など、来場者が気になることや疑問を登壇者に投げかけられる機会もあり、琵琶湖の未来をまもるために必要なことをみんなで考える場となりました。

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ジュゴンから手紙が受け取れる!?

巡回展では東京での展覧会と同様に、受付でコインをお渡し。展示を見終わったあとに、助けたいと思ったものに募金をしてもらう企画を実施しました。

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募金箱にコインを入れると、ペンプロッター*5により募金したものからその場でお礼の手紙が執筆される、というしくみです。たとえば「動物」に募金をすると、「ジュゴン」などの絶滅危惧種から愛らしいメッセージが紙に書き出されました。参加者は来場者のうち半数以上にもおよび、東京に続き、展示の目玉企画となりました。

*5:ペンを自動で動かし、文字や図形を描く製図用出力機器。

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気候変動への思いを声にする「未来への伝言ダイヤル」

滋賀県は過去に琵琶湖で大規模発生した淡水赤潮*6を乗り越えてきた経験もあり、県民に限らず、議員や行政も環境保護において高い意識を持つ人が多く、環境先進県としても知られています。

*6:プランクトンが大量に繁殖してしまうことで、湖や池の水面が赤褐色に変わってしまうこと。滋賀県の琵琶湖では1977年に大規模の淡水赤潮が発生した。合成洗剤などに含まれるリンが湖に流れ込んでいたことが原因の一つ*として挙げられた。

とはいえ、日々の生活で政策を担う人々に声を届ける機会はあまりないかもしれません。そこで会場には、議員や行政などにメッセージを残せる電話機「未来の伝言ダイヤル」を設置。

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30年先も滋賀県の豊かな自然をまもり続けられるよう、来場者のうち50人以上が思いや願いをメッセージに残しました。

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集まった声の一部を以下に抜粋します。

・地球環境がすごく悪化するので、政治に関わっている人はもっと多くの人にこのことを知ってもらうための政策をしてほしいです。そのためにいろんな人から意見を聞いて、特に若者の意見を取り入れて政治をしていってほしいと思っています。

・滋賀県に住んで20年ぐらいたちますが琵琶湖の綺麗さに毎日癒されています。これからも綺麗な琵琶湖であるように願ってます。


・琵琶湖がいつまでも美しくて琵琶湖固有の魚などもなくならないように、琵琶湖の環境を守ってほしいと思います。あわせて伊吹山が最近土石流とかでなかなか昔の姿でないので、伊吹山の保全もぜひ図っていただきたいと思いますのでお願いします。


・長浜市に住んでいる高校生です。他県の人から見ると、滋賀県=琵琶湖というイメージだとよく言われます。そんな琵琶湖も環境問題を多く抱えているので、これからの環境が不安です。これからも他県に誇れるような琵琶湖であり続けられるような政策をしていただきたいと思います。

一人ひとりの声は、グリーンピース・ジャパンが滋賀県の政策を担う人々に届けます。

できるだけ使い捨て資材を減らして実施

HELP展の開催にあたり目指したことの一つは、使い捨て資材をできるだけ減らすこと。会場の資材には持続可能な森づくりに取り組んできた北海道下川町の木材を使った、モクタンカン*7というプロダクトをリースしました。

*7:仮設足場の資材として広く普及している“単管システム”の金属パイプを、国産材のヒノキから削り出した丸棒へと置き換えたツール。

モクタンカンは、展示品を飾る机などに使われた。©︎ HAKUA / Greenpeace

そのほかにも、展示品や会場の造作を来場者に譲る「リユースできる展覧会」という画期的なアイデアを導入。引き取りを希望する来場者には、どのようにリユースしたいかを書き出してもらい、滋賀での展覧会では全部で31ものアイデアが集まりました。記入用紙は次なる青森での巡回展で作品とセットで展示した後、当選者のもとに届けていく予定です。

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地球沸騰化の時代に、私たちができること

「地球温暖化の時代は終わった。『地球沸騰化』の時代が到来した」。2023年7月、国連のグテーレス事務総長が語ったこの言葉に奮い立たされ、グリーンピース・ジャパンではHELP展の構想を練ってきました。

この10年間で下す選択は、数千年先に影響をもたらすものだと科学者たちは警鐘を鳴らしています。数千年先の世界は容易く想像できるものではありませんが、たとえば私たちの子どもや孫、そしてそのまた子どもが暮らす世界をつくるのも、私たちが生きているあいだに果たす役割です。

私たちが目指すのは、平均温度の上昇を1.5度に抑えることです。産業革命前(18〜19世紀)と比べて、平均温度が1.5度以上上昇してしまうと、気候変動による被害が大きく増すと予想されていることからです。

今一人ひとりが起こす行動は、未来を変えていく大きな可能性を秘めています。できるところからできる範囲で、ぜひ私たちと一緒に始めてみましょう。

  • まずは1食から、肉食を減らし、菜食中心にしてみる
  • 買い物の際には、使い捨てのごみを減らせる選択をする
  • 公共交通機関、徒歩、自転車での移動をふやす
  • 車が必要なときは、シェアリングや電気自動車を選ぶ
  • 食品を寄付したり余りもので食事を済ませたりと、食品ロスを減らす
  • 生ゴミを減らすのにコンポストを自宅に導入してみる
  • 自然エネルギーの電力に切り替えてみる
  • 銀行や投資先などを今ある生命をまもるために役立つものに変えてみる
  • 同じ関心をもつ人や地域とつながる(グリーンピース・ジャパンでも定期的にイベントを開催しています)
  • 自宅、学校、職場で断熱する方法を知る(夏は涼しく、冬は暖かくなり、光熱費の節約にもなります!)
  • 自分の選挙区の政治家に行動を求める(たとえば「ゼロエミッション実現の会」の活動を通して、行動を求めることもできます)
  • NGOや市民グループの活動に参加する(グリーンピースの活動にもぜひご参加ください

好評につき、青森にて次なる巡回展の開催が決定

「HELP展」は好評につき、10月4日(金)〜6日(日)に青森県「弘前れんが倉庫美術館」にて次なる巡回展の開催が決定しました。詳細は9月中旬にグリーンピース・ジャパンのウェブサイトのほか、グリーンピース・ジャパンのInstagramHELP展のInstagramにてお知らせする予定です。ぜひフォローしてみてください。