[年次報告書2024] 気候のことは暮らしのはなし
この投稿を読むとわかること
- 太陽光発電設備義務化のスピードアップに市民の声が貢献
- 学校の温熱環境を調査 教室内の過酷な暑さをデータで示し国会や自治体議会での議論を活性化
- 全国各地の住民8割が「温暖化対策を進めるべき」
- COP29にグリーンピース代表団として参加 現地で各国政府へ働きかけながら国内メディア向けにリアルタイムで情報配信
- 国内自動車メーカーに排出量削減を求める
- 持続可能なモビリティの推進に向けて、ビジョンレポートと調査報告書を作成
- 気候変動の影響を映した短編映像が国際映画祭最高賞を受賞! COP29のイベントなどで多くの人の心を打つ映像作品として紹介
- アートで感じる「地元と気候」 滋賀・青森「HELP展」を通じた学ぶ機会をともに生み出す挑戦
- 担当スタッフからのメッセージ

日本のエネルギー基本計画や、温室効果ガス削減目標の策定に向けた議論が行われた2024年。脱炭素社会への道筋を大きく左右するこれらの機会を捉え、良い変化を起こすために、国や自治体への政策提言活動に全力を投じて取り組みました。市民や専門家、他団体とも協働し、さまざまな角度から展開したキャンペーンの成果をお伝えします。
太陽光発電設備義務化のスピードアップに市民の声が貢献

2023年に東京都と川崎市で太陽光パネル設置の義務化が決定。この流れを拡大させるため、グリーンピースが事務局を務める「ゼロエミッションを実現する会」は、市民とともに、神奈川県で精力的に活動しました。行政への働きかけや市民への説明会を行った結果、前回の10倍となる858件ものパブリックコメントが寄せられ、県の「太陽光発電設備設置義務化」の後押しとなりました。実施状況を検討する対象が当初案での「先行自治体」から「国内外」へと変更され、海外の先進事例も含まれることになりました。義務化導入までのスピードアップにつながる注目すべき成果です。
学校の温熱環境を調査 教室内の過酷な暑さをデータで示し国会や自治体議会での議論を活性化

前真之東大准教授資料より。エアコンがついていても天井近くの気温は40℃近くなっていた

多くの学校は30〜40年以上前に建てられ、断熱はほとんど施されていません。異常気象が増えるなか、暑さや寒さから守られていない古い校舎で子どもたちの学習環境が悪化しています。グリーンピースは学校の断熱改修を促進するためのプロジェクトを立ち上げました。
実態把握のため、東京、神奈川、三重の小学校と埼玉の高校で7月1日から19日間、教室の温度を測定する調査を実施。その結果、調査時間の半分以上で、エアコンが稼働しているにもかかわらず文科省の推奨する室温基準の上限28℃を上回りました。猛暑となった7月8日には、4校すべてで一日中28℃を超え、2校で30℃、1校で32℃を下回ることがありませんでした。
調査の結果は多数のメディアで報じられたほか、複数の自治体議会や国会での質問資料としても活用され、国内議論の活性化につながりました。
さらに現状の問題点や断熱のメリット、いまできることを解説した特設サイトも公開。健康を守り、CO₂排出削減に有効である断熱を政策として強化することをめざしています。
全国各地の住民8割が「温暖化対策を進めるべき」

国民はいま気候変動をどう感じているのか──。5都県(東京、埼玉、神奈川、滋賀、長野の諏訪地域)の住民それぞれ1000人に気候変動に関する意識調査を行ったところ、どの地域でも8割以上が「気候変動を心配している」と回答しました。地域の特徴に合わせた質問では「温暖化対策をもっと進めるべき」(東京79%、長野96%)、「県内で再生エネ自給を進めるべき」(神奈川89%)と答えるなど、市民が気候変動対策に高い関心を持つことが明らかに。各調査結果を発表し、自治体などに気候政策の推進を呼びかけました。
COP29にグリーンピース代表団として参加 現地で各国政府へ働きかけながら国内メディア向けにリアルタイムで情報配信

アゼルバイジャンで開かれた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)に、グリーンピースからも日本のスタッフを含む代表団が参加。パリ協定で掲げられた1.5℃目標の達成に整合する決定や、責任ある選択と行動を先進国に求めました。イギリスが石炭火力の全廃を達成した一方で、日本は依然として石炭の段階的廃止の道筋すら示せていません。対応の遅れが国際的に厳しく評価され、2024年も不名誉な化石賞を受賞しました。G7の一員として、日本が果たす役割は多く残されています。
国内自動車メーカーに排出量削減を求める

販売台数で世界1位の座にあるトヨタ。同社の自動車から排出される温室効果ガスの量は、日本の年間総排出量の約半分に相当します。グリーンピースはトヨタに早期の脱炭素化を求める署名を世界から約3500筆集め、署名とともに気候変動対策を問う公開質問状を同社に提出しました。
公開質問状では以下の3点について回答を求めました(詳細はこちら)。
- 温室効果ガス排出削減目標の根拠、
- 電気自動車(EV)の販売目標と温室効果ガス排出削減の関係、
- 気候変動が脆弱な立場に置かれた人々へ及ぼす影響と途上国の資金ニーズなど3点について回答を求めました。
今後も、トヨタをはじめとする日本の自動車会社がより野心的な気候変動対応に取り組むよう対話と働きかけを続けていきます。
持続可能なモビリティの推進に向けて、ビジョンレポートと調査報告書を作成

持続可能なモビリティ(移動手段)のあり方を利便性や安全性、気候配慮などの観点から示したビジョンレポートを公開しました。
くわえて、自動車大手7社が米国で2027年から強化される排ガス規制に適合できるかを分析した報告書も作成。どのメーカーも現行の生産計画では新基準への準拠が難しいことを明らかにしました。
ただし、バイデン政権下で策定された排ガス規制がトランプ政権下で覆される可能性もあり、今後、日本の自動車メーカーにも影響が及ぶことも見込まれます。交通・運輸部門分野の二酸化炭素排出量は、日本国内だけ見ても全体の約2割を占めるほどのインパクトを持ちます。気候変動対策がさらに遅延する事態とならないよう、市民社会の一層の監視と働きかけの重要性が高まっています。
気候変動の影響を映した短編映像が国際映画祭最高賞を受賞! COP29のイベントなどで多くの人の心を打つ映像作品として紹介

グリーンピース・ジャパン製作の映像作品『御渡り/MIWATARI』が、2月にタイの国際映画祭で最優秀賞となるドキュメンタリー部門審査員大賞を見事に射止めました。御神渡りは長野県の諏訪湖でみられる自然現象で、温暖化の影響により発生が激減しています。地元の伝統文化としても根付く御神渡りが失われつつあるさまを映したこの作品は、HELP展での展示作としてクリエイティブユニットHAKUAと2023年に制作。2024年11月には、COP29のサイドイベントでもダイジェスト上映されました。

COPイベント当日は渉外担当スタッフが登壇し作品の意図を伝えたほか、諏訪市長のビデオメッセージも紹介されました。また、撮影地である諏訪市でも上映会とトークイベントを開催。作品に主演した八剱神社宮司や地域の企業代表らが登壇し、発酵食品である日本酒や味噌づくりに気候変動がすでに大きく影響を及ぼしている現状を語りました。
アートで感じる「地元と気候」 滋賀・青森「HELP展」を通じた学ぶ機会をともに生み出す挑戦

「HELP展 〜30年後には消えてしまうかもしれない〜」の巡回展を8月に滋賀県大津市で、続く10月には青森県弘前市で開催しました。グリーンピースとクリエイティブユニットHAKUAが、気候危機を身近に感じてもらえるよう工夫を凝らして企画したアート展です。
2023年の東京・青山での初開催で好評を博した展示内容に加えて、巡回展では、地元で活躍する多彩なゲストを招いて温暖化と地域への影響を語り合うトークイベントや地元ならではの関連イベントも同時開催。滋賀では高校生とコラボし、青森ではクリエイティブアワードと連携しました。3回のHELP展での来場者数はのべ1440人。使い捨て資材をできるだけ使用せず、終了後は展示品などを来場者に譲る「リユースできる展覧会」としても注目を集めました。

上に紹介した高校生とのコラボイベントでは、気候変動を若い世代と考えるため講習会を企画しました。滋賀県内の3校の高校新聞部から13人が講習会に参加し、グリーンピースのスタッフや琵琶湖の水環境の専門家である京都大学生態学研究センター長、現役新聞記者による講義を受けた後、琵琶湖と気候変動をテーマにした新聞づくりに挑戦。高校生の作った記事はグリーンピースが全面広告にしてCOP開催中に地元新聞に掲載。また後日、高校生たちが記事を携えて県内の国会議員事務所を訪問するのをサポートしました。高校生が議員らと気候変動対策について意見交換を行った様子は地元紙に取り上げられました。
担当スタッフからのメッセージ

プロジェクト・マネジャー 高田久代
「HELP展」をきっかけに生まれた機会を活かすため、青森・滋賀・長野と駆け巡り、地元の方々や専門家、クリエイターの方々とたくさんの出会いを頂いた1年でした。気候変動はすでに私達の日常を変え始めています。変化を転機に、転機をチャンスに。今後も人との繋がりからチャンスを作っていきたいと思います。

気候変動/エネルギー担当 鈴木かずえ
市民が主役となって気候変動対策を推し進める「ゼロエミッションを実現する会」を立ち上げて、早4年になります。活動経験がなく、議員に電話1本かけることもおぼつかなかった仲間たちが、いまや各地で自治体の気候対策を進める成果を上げています。コミュニティが成長するなか、市民の活動をさらに支えていくために、伴走できるオーガナイザーも今後育てていきます。

気候変動/エネルギー担当 塩畑真里子
年の瀬も迫って飛び込んできたシリアのアサド政権崩壊のニュース。前職でシリア支援には深く関わっていたので感慨深いものがありました。同国で2011年に始まった危機は、気候変動による降雨量低下により大規模な人口移動が起きていたことから、気候危機に起因するという見方をする人も多いです。シリアの平和と安定を願ってやみません。