政令指定都市の体育館、空調設置が進まず無断熱のままーーグリーンピース聞き取り調査で対応のばらつき明らかに

政令指定都市における体育館の空調設置と断熱改修状況について、各市の財政状況や施策の優先順位により、自治体ごとの状況に大きな差があることが8日、グリーンピース・ジャパンの聞き取り調査でわかりました。
聞き取り調査は、今年3月18日〜4月4日に、全国の20政令指定都市を対象に行い、そのうち10市から回答を得ました(注1)。その中で、2025年度以降に空調設備整備と断熱改修を市内全校で実施予定と回答したのは、千葉県千葉市のみでした。一部の自治体では進展が見られる一方、多くは体育館断熱改修の具体的な計画が立てられていないことが明らかになっています。
断熱改修が進まない理由として最も多かったのは予算の不足で、「空調整備すら完了していない」「すでにスポットクーラーを導入しており、断熱予算を要求するのが難しい」といった声が上がりました。このほか、断熱性の目標値が明確に示されていないことや、工事期間中の体育館の使用制限が学校活動に影響を及ぼす懸念も指摘されています。さらに、メーカー各社から遮熱塗材や遮熱シートなどの技術が提案されているものの、学校体育館という特殊な空間に適した工法に関する知見が不足しているといった課題も浮かび上がりました。
昨今の猛暑を受け、各自治体では、まずは空調設備の整備を優先する動きが強まっています。しかし、断熱に詳しい東京大学大学院の前真之准教授は、「室内環境の改善という観点では、空調整備の導入だけでは不十分」と指摘します。「天井や屋根に断熱を施せば、夏の暑さをある程度和らげることができるが、冬の寒さに対する効果は限定的です。快適な室内環境を実現するためには、壁や床も含めた包括的な断熱改修が不可欠」(注3)と強調しています。グリーンピース・ジャパンが今年2月に実施した冬の体育館における温熱調査(注4)でも、無断熱の体育館では、エアコンを稼働していても、床付近の温度が多くの時間で18度以下であることが明らかになりました。
文部科学省の試算によると(注2)、空調設備設置費は3900万円。断熱工事とセットでは初期費用が6600万円に増えますが、断熱性確保によって電気代が削減されるため、40年で5500万円の経費を節約できる計算です。体育館の断熱改修をすればエアコンの台数を減らせ、エネルギーの省力化にもつながります。
グリーンピース・ジャパン、気候変動・エネルギー担当の鈴木かずえは、「災害時の避難所としても使用される体育館の環境整備は自治体任せにするべき課題ではありません。断熱改修は空調設備の効率を高め、エネルギー消費の削減にもつながる合理的な選択です。自治体が持続可能な形で体育館の機能を高めていけるよう、国が予算措置や技術支援を強化し、断熱改修を含めた具体的な整備指針を示すことが不可欠です」と話しています。
(注1)回答が得られたのは、さいたま市、千葉市、横浜市、新潟市、静岡市、浜松市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市。
(注2)文部科学省「断熱性確保による電気代削減効果について(試算)」(2023年9月8日発表)
(注3)2025年3月3日開催「冬の体育館の温熱環境調査」結果発表記者会見でのコメント
(注4)グリーンピース・ジャパン「エアコン稼働中も床付近の温度がほぼ18度以下にーー真冬の小学校体育館温度を測定」(2025年3月3日発表)