ウクライナの原発へのリスクが日毎に高まる中、東京電力福島第一原発事故から11年経ちました。まだ、事故は終わっていません。広範囲にわたって除染が不可能な放射能汚染や汚染水問題、避難者の人権問題など未解決の問題は山積みですが、事故を起こした原発が今どうなっていてこれからどうなるのか、専門家の方にお話しいただきました。

東京電力福島第一原発─「廃炉への道」の現在地

未曾有の大地震と大津波と史上最悪レベルの原発事故という大惨事から11年。

去年の4月、政府は東電福島第一原発敷地内に貯留した放射能汚染水(「処理水」)を海洋放出で処分することを決定し、地元福島ばかりか世界中から非難の声が上がりましたが、東京電力と政府は2023年に放出を開始する予定で準備を進めています。

そもそも、なぜ、汚染水を海に放出することになったんでしょうか。

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確か政府は、「汚染水を溜めるタンクを置く場所がもうない」といっていました。
これは、嘘です。タンクを置く場所はまだあります。
場所がないなら土地を提供すると申し出た地元の方もおられます。

敷地内に「タンクを置く場所がなくなる」のはどうしてでしょう。

廃炉にはデブリ(事故で溶融した核燃料や原子炉構造物が混じって固まったもの)を取り出すことが必須で、その作業に必要な施設を設けるスペースが敷地内に必要だから、汚染水タンクを退けなくてはならない、というのが海洋放出の理由とされています。

でも、廃炉そのものも、海洋放出も、計画上は30〜40年かかるといわれています。

何かおかしい。

「廃炉の大切な話2019」より
「廃炉の大切な話2019」より

事故発生から11年、現時点で「廃炉への道」はいまどの段階にあるのか。
2022年3月4日にグリーンピースの記者説明会で、原発コンサルタントの佐藤暁さんがお話ししてくださった内容を、かいつまんでおさらいしてみます。

全然進展してない

グリーンピースは2021年に佐藤さんに依頼して報告書『福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案』を書いていただきました。
昨年の報告書で佐藤さんは「廃炉は暗中模索」と表現されていましたが、1年経ったいまも、まさに同じ状態から変わっていない、というのです。

東電福島第一原発の廃炉費用は、電気代や税金で賄われています。
それなのに、1年もの間、何も進展がないというのはどういうことでしょうか。

佐藤さんによれば、廃炉の最終形は、「原発の敷地を無条件の更地にして、以降は住宅地や農地など自由な目的に使えるようにすること」です。

実際に東電福島第一原発の敷地を「無条件の更地」にするには、まだ気の遠くなるような長く複雑なプロセスが必要な上、廃炉計画では触れられていない部分すらあります。

2018年、東電福島第一原発近くの防潮堤工事現場

たとえば、政府が廃炉に必要としているデブリの取り出しについて。
いまわかっている計画は、長さ約20メートル、重さ約2トンで6つの関節のあるロボットアームを使って2号機の原子炉に孔を開けて先端を挿入し、金属ブラシでデブリの表面を擦り、削られた粉末を吸い取って取り出す、という方法です。

それで「2022年度に1グラムの核燃料デブリを取り出す試験を行う予定」といいますが、デブリは全部で推定997トンあります。

そんな方法でどれだけの期間をかけてすべてのデブリを取り出せるというのでしょうか。
しかも、デブリや原子炉の状態は1号機、2号機、3号機それぞれに異なっていて、よしんばこの試験がうまくいったとしても、すべての原子炉で同じことができるわけではありません。
また、この方法で新たな被ばくや放射性物質の拡散を起こさないための対策も具体的でなく、デブリの回収そのものの現状は稼働から程遠く、スケジュールも方法論も曖昧模糊なままなのです。

廃炉そのものがあまりにも危険

11年前の地震と爆発で著しく損壊した建屋は、その後、廃炉作業の安全を図るために補強工事が行われています。
しかし昨年の検査では建屋内部の構造物に亀裂や剥離などといった損傷が多数確認され、事故以降の10年の間にも建屋全体の劣化が進んでいました。

こうした環境で、少なくとも30〜40年という長期にわたる廃炉作業に、果たして建屋と原子炉は耐えられるのでしょうか。

昨年2月には福島県沖でマグニチュード7.3という大規模な地震が発生していて、このときの揺れが建屋や原子炉にどのような影響を与えたかは明確になっていません。放射線量が高すぎて、きちんとした検査ができていないのです。
建屋の現状の耐震レベルがわかっていないので、30〜40年の廃炉の間に、ここで大規模な地震や巨大台風の直撃といった大災害が発生したら何が起こるか、誰がどう対処するか、廃炉計画では想定されていません。

2019年、大型台風19号で洪水被害を受けた福島県本宮市

もし建屋や原子炉の損傷が現状よりも急激に進行したら、これまでにたてた計画通りの廃炉作業ができなくなるかもしれません。
そのとき、そこで廃炉作業にあたっている人たちの安全はどう保証されるのでしょうか。
自然界に新たに放射性物質が拡散されてしまうおそれも、あります。

わからないことだらけの汚染水問題

去年4月に「海洋放出」で処分する、と政府が決めた放射能汚染水はいま、129万トンに及びます。そして1日平均150トン(2021年)増え続けています。

なぜそれだけの汚染水が発生するかを改めて説明すると、損壊した原子炉内部で発熱しているデブリを、ひたすら水を注いで冷やさなくてはなりません。このとき核燃料や原子炉に接触した水が汚染水となります。

東電福島第一原発の西側の阿武隈山系から太平洋へと流れている地下水脈から原子炉建屋に流れこんでくる地下水も、汚染水になります。
この地下水を減らそうと、建屋より山側に井戸を掘って地下水を汲み上げたり、凍土壁を設置したりしましたが、それでも地下水の流入を完全に止めることはできていません。

こうして発生した汚染水には、放射性物質だけでなく海水や油、コンクリートから沁み出したカルシウムなどの不純物が混じっていて、これらを多核種除去設備(ALPS)で処理し水と分離して、泥状にしたものをステンレス鋼製の大きな円筒容器に溜めています。

ところがこの泥に含まれた水分がまた分離して、容器の底に溜まった沈殿物の放射線量が高くなり、早ければ2025年には容器の耐性の限界を超えてしまいます。
いま、およそ3,800基あって、毎月20基増えていくこの容器の一部が破損して、すでに放射性物質が漏れていることもわかっています。東電はこの問題を解決するための施設をつくって6年で終わらせるといっていますが、2025年は3年後です。

致死量の放射線を発しているこの容器を収容しておくスペースも、もうすぐ満杯になります。

汚染水の海洋放出には30〜40年かかるといわれていますが、廃炉にも同じぐらいの時間がかかることになっています。その間にも汚染水は増えていきます。
増えた汚染水を処理して、分離した放射性物質やその他の放射性廃棄物をどう安全に管理するのかという計画は、まだありません。
少なくとも、公表されていません。
だから、可能かどうかも、わかりません。

誰も知らない「廃炉」のゴール

このブログで書いているのは、佐藤さんのお話のごく一部分です。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ報告書『福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案』を読んでみてください。

2021年、浪江町の海岸から東電福島第一原発を臨む

正直なところ、たったこれだけのピンポイントな情報だけでも、「こんなことでホントに廃炉なんてできるの?」「大丈夫なの?」という疑念は払拭できません。

だいたい、1年間ですらまるで進展しない廃炉が、これから30〜40年で終わるとは到底思えません。
もっと現実的な計画を、これから練り直せないものでしょうか。

たとえば、佐藤さんは「廃炉」をめざすのではなく、より長期的に安全を確保できる別の施設につくり変える、といった発想を提案しています。

それは「ゴール」じゃないかもしれません。
とはいっても、わたしたちが原子力というエネルギーを許容した当初から、発生し続ける核廃棄物問題はずっと解決しないままになっています。

そんなエネルギーをこのまま頼り続けるのは、果たして正解といえるでしょうか。

いまなら、わたしたちの手で、子どもたちに遺す未来を選ぶことができます。

原発を、やめる。
やめて、もっと安全な自然エネルギーと、省エネとエネルギーの効率化で、これ以上原発のリスクに怯えなくてもいい未来を、選びたいと思いませんか。

子どもたち、未来の世代のために。