落ち葉を照らす夕日が美しいこの季節に、グリーンピース・ジャパンのオーシャンバサダーでもあるNOMAさんと一緒に、国立環境研究所にお邪魔してきました。

前回のブログ(下)では、気候変動による変化、その変化にどう適応していくのかについて考えました。今回は人と生物多様性との関わりについて、五箇公一さんに聞いたお話しをお届けします

【お話を伺った人】

  • 五箇公一さん 生物多様性領域(生態リスク評価・対策研究室) 室長(研究)

コロナ感染症はグローバル経済がつれてきた

五箇さん

人流と物流と経済につながっている。感染症は、厚生労働省が担当しているけど、生態学的視点が重要。というのも、ウイルスにはもともと自然環境中に生息しており、地域固有の生態系の中で様々な動物と共進化しているから、それを動かしたりすると、共進化の関係が成立していない生態系や人間社会において感染爆発が起きることになる。生物多様性と進化生態学を通して感染症を考えなければならない。

よく、病原性ウイルスなんていなきゃいいのに、という質問を受けます。でも、もともと古くから自然生態系の中で様々な動物と一緒に進化して、生物多様性の一員として存在しており、重要な機能を果たしています。

彼らはいざとなった時に天敵になります。何か動物の一種類が増えすぎて密になり、生態系のバランスが崩れるようなことが起こったときに、そうした動物集団に感染して、感染症を発生させて個体数を減らして、生態系のバランスをとり戻すと共に、動物集団に抵抗性を発達させてより強い集団へと進化させる

足の遅いシマウマから食べてシマウマ集団サイズを調整しながら、シマウマを常に足の速い動物へと進化させ続けているライオンと同じ、重要な天敵としての役割を担っています。むしろ、彼らがいるから生態系のバランスが持続している。彼らもセットで生物多様性の管理を考えることが重要となります。

自己紹介から研究にいたるまで、楽しく紹介してくださる五箇さん ©︎Greenpeace 

生物多様性が高い密林エリアでは多様なウイルスが動物体内で進化を繰り返しています。動物とウイルスが共生しているエリアに、人間が乱開発を進めてきたことで、動物と人間の間の距離が急接近するようになった。そこでたまたま人型に変異したウイルスたちが新たな宿主として人間に感染するチャンスを得た。

1970年代以降、SARSやエボラ出血熱、HIV(エイズの原因ウイルス)など、急速に人間社会に進出した新興感染症ウイルスたちは、もともとは動物の中で大人しく生きていた。その共生社会を人間が壊してしまったから人間社会へと進出を開始しました。その最新型が新型コロナウイルスです。わずか数ヶ月で北半球から南半球全域に至る全世界を制覇したという感染拡大速度は、史上初と言っていいでしょうね。

環境問題の根本的な解決策とは?

新型コロナのこの感染拡大速度の要因は、もちろんウイルス自体の感染力もさることながら、やはり行き過ぎたグローバル経済があった。まさに、中国の一帯一路計画に代表されるグローバル経済ネットワークに乗っかってコロナが広がっていき、世界中のどこも感染から逃れられなかった。

一番逃れられた国の一つにニュージーランドがあります。この国はいち早く国内経済中心に切替え鎖国状態にしたことで、長期間、新規感染者数が低水準に抑え続けられてきました。しかし、今夏オリンピックを契機に国際港を開港した途端にウイルスが一気に広がりました。

国立環境研究所としては、感染症パンデミックはウイルスの病原性だけの問題ではなくて、背景にある生物多様性の問題や、経済の問題、人流、そして気候危機も関与する環境問題であり、そのリスク管理には、様々な要因から総合的に分析していくことが必要だと提唱しています。

もともと自然生態系は太陽光エネルギーを駆動力として、生態系ピラミッドという食物連鎖の階層構造をとり、持続的な循環システムが維持されてきた。それが、人間の登場で構造が大きく崩れた。

人間というのは、ある意味で最弱動物のはずが、文明を手に入れることによって最強動物になってしまった。しかも、一番強いくせに一番数が多い。それで生物界から資源を大量に搾取して、生物の取り分が減少し、生物多様性が劣化する。

76億もの人口で生態系の頂点に君臨する人類は、明らかに定員オーバー。消費が過剰で、太陽光エネルギーだけではもうやっていけなくなったわけです。それで化石燃料を掘り出して、エネルギーと物質生産に充当しました。石油や石炭を燃やしてエネルギーにもするし、石油化学によってプラスチックをつくって日常用品に替えるといった行為です。

40億年の進化の歴史の中で、そんなことをしでかした生物種は一種もいませんでした。だから、生態系ではこの行為によって生じる副産物を受け止める機能は持ち合わせていませんでした。

廃棄物は分解されずにどんどん溜まって汚染の原因となり、大量に排出される温室効果ガスと熱エネルギーは生態系の中では到底吸収しきれず、それが温暖化へとつながりました

要は人間という巨大バイオマスによる、莫大な消費と排出があらゆる環境問題に直結しているわけです。そうしたなかで、現在、特に温暖化対策としてCO2の排出削減が課題とされていますが、CO2だけを減らしても、この負のスパイラルを止める根本的な解決策にはなりませんエネルギーを石油から他の資源に転換できたとしても、人間が生態系からの搾取を続ける限り、根本的な生物多様性の劣化は止まりません

廃棄物の問題も同じく、別の物質に転換しても、廃棄量が多ければ、自然環境の悪化速度は簡単には止まらないでしょう。

しかし、生態系にもちゃんとレジリエンス機能が備わっています。増えすぎた生物がいるなら、天敵が進化します。密になっている人間から、生態系のバランスを取り戻そうとして登場した天敵こそが新興感染症ウイルスであり、その最新型が新型コロナウイルスだった。生態系のバランスを崩し続ける限り、感染症は今後も繰り返し出現してくるでしょう」

生物多様性の危機と感染症のつながり

五箇さん

生物多様性の損失と、地球温暖化は感染症に深く関わっている。環境が人間社会の安心安全の維持のために重要であることを多くの人に知ってもらう必要があります。温暖化に代表されるように、人為的な環境撹乱はその影響が人間社会に跳ね返ってくる。人為的な環境撹乱によって絶滅させられるほど生態系はヤワではありません。何せ40億年の進化の歴史がありますから。ただし、今後、撹乱された環境による淘汰で、人間にとっては役に立つ生物が減っていき、害虫など有害な生物が増えてくることになる。最終的には自分たちの首を絞めていると、私たちは早く気づくべきです

NOMAさん

「地球って丸っとした惑星なんだというのを改めて意識させられたというか、環境のことだけを考えると地産地消で欲を張らずに足るを知り、生態系の中で文化を築いていくという昔ながらの日本の社会でいっていれば、ここまで環境に影響を与えてなかったかもしれない。でも地球という丸い惑星で暮らしているからこそ、それだけでは解決しない問題がグローバルで展開しているというのを、今のお話で改めて感じさせられました」

大好きな生き物の生態について聞くNOMAさん ©︎Greenpeace

五箇さん

「今回のコロナ禍をもってしても、未だ世界の国々は自国第一、経済第一主義から抜け出せずにいて、人間社会を共生的に営むことの難しさを考えさせられました。日本の経済界は、世界経済に遅れを取ることばかりを心配していて、いかに一線を画す独自の路線でやっていくかという発想に至りません」

NOMAさん

「せっかく人間は技術を作れる生き物なので、生態系の調和を取るような存在として位置付けられたらいいのに」

五箇さん

「縄文時代から日本人は自然の恵みとともに、猛威を知っているからこそ自然に対して畏敬の念を払い、持続的に利用するという自然との共生を培って生きてきた。それは一万年も続いた、持続可能な暮らし方でした」

ローカルへシフトしていくことが解決策

五箇さん

大事なのは、まずはゾーニング。生き物たちの世界を侵食せず、生き物たちを近づけさせすぎないで、双方の取り分を弁えて、きちんと住み分けていくこと。そして、グローバル化を脱して、ローカリゼーションへと経済パラダイムをシフトし、地産地消というライフスタイルを主流化していくこと。

すぐ、鎖国か?という短絡的な話に捉えられがちだけれども、そうではなく、地域や国同士がお互いフェアに共生していくということ。今の経済は、欧米や中国を中心に、強国が弱いところから搾取し、伝統や地域性をも破壊している。そのような格差資本主義では持続性はなく、いずれ市場は飽和し、資源は枯渇します。そして感染症というリスクにも晒され続けることになります。まずは人間社会から共生を考えましょうということ。環境問題を根本的に解消するためには、地域や国家が自立することが大切。まず日本も海外の資源に頼りすぎる状況から脱さなければなりません」

家の近くを飛び交うカラスの「ぶち」の生態について五箇さんに説明するNOMAさん ©︎Greenpeace

対談を終えてNOMAさんより一言

生命の魅力(架空も含めた)にますますのめり込んじゃうオフィスに大興奮!
ウィルスも含めた人の目には見えないミクロな世界でのつながりを地球史と共にホリスティック(包括的に)に理解する必要性を再確認すると同時に、生態系とは異なる領域で、人間社会の都合で絡み合う経済や政治の状況がいかに地球環境を損なわず私たちが生態系の一部として調和した状態で生きることを難しくするか改めて痛感するお話でした。専門領域を越境しながら様々な角度でディスカッションし、地球まるごと豊かな未来を目指して課題をどう乗り越えて行けるか探究する場を重ねて行くことの大切さ、そして自然の一部として上手に暮らして来た祖先の知恵や暮らしから学び直す事の貴重さも忘れたくないです。

崩れる生態系のバランス 

日本でもグローバルな人とモノの移動、そして化石燃料を大量に使うことによる気候変動や乱開発、都市化などによって生態系のバランスが崩れています。

触れると死に至る恐れがあるほどの猛毒をもつ生物、デング熱をはじめとする伝染病を媒介する生物・・・どれもこれも日本にも迫っている「危険生物」たちなんです。

そんな危険生物たちからNOMAさんのもとに、感謝の手紙が・・・

なぜ感謝のお手紙が届いたのでしょうか?

五箇さんによる特別解説動画を見て、調べてみてください!

【NOMAさんプロフィール】

NOMA(ノーマ)

モデル、エコロジスト。
植物と宇宙を中心とした自然科学の探究をライフワークとしながら、執筆やイベント登壇、廃材を使った作品創作等を行う。
自然科学から環境問題まで地球丸ごと目線をシェアする地球サイエンス本、『 WE EARTH ~海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部~ 』を今年発表。
IG @noma77777

©︎akisome​​