こんにちは。エネルギーチームの鈴木かずえです。
IAEA本部のあるビル(wikipedia commonsより)
世界中の原子力規制機関を調査し、よりよい(ましな?)規制のために助言をしているIAEA(国際原子力機関-その使命は原子力推進ですが)。
今年1月に原子力規制委員会などから聞き取りや現地調査を行ない、4月に報告書がでています。
そこで原子力規制委員会はいくつか勧告を受けました。
調査結果の報告書を読むと、つくづく「日本の原子力規制は世界最高じゃないんだなぁ」と納得してしまいます。
報告書は全131ページ。お忙しいあなたに変わって、わたしが読みました。
国際基準を満たしていない日本の原子力規制
報告書には、13の勧告と13の提言、2つの「良好事例」が挙げられています。
この少ない良好事例は、独立の規制機関を(東京電力福島第一原発事故後)速やかにつくりましたね、ということと、東電福島原発事故の教訓を速やかに規制に取り入れましたね、の2つ。
合わせて26の勧告と提言は、いずれも「すべき」という強い言葉で表現されています。
勧告にはそれぞれ、勧告を出す根拠として、IAEAのガイドラインが示されてます。
つまり、日本の原子力規制はIAEAの求める国際基準を満たしていないということ。
安倍首相や電力会社は、「日本の規制は世界最高のレベル」と言いますが、それは事実と違うことがIAEAによって証明されました。
IAEAの報告書でどんなことを指摘・勧告・提言されているかというと…
型通りにやっているだけっぽいね
IAEAの指摘から、原子力発電所全体で何が起こっているか、よりも、検査項目にチェックを入れることばかりに専念している様子が目に浮かびます。
IAEAは、型通りにやるだけではダメだよ、と言っています。(以下、太字は報告書からの抜粋)
「IRRSチーム*の現場での観察においても、検査官がチェック対象である特定の活動のみに焦点を絞っていることだ。例えば、原子力発電所の制御室内で同時に進行していた数多くの警報や運転員の活動には何ら注意を払わず、チェックリストに規定されているということで、検査官が制御パネルの特定の指標の状態だけを確認していたということを、IRRSチームは目撃した」報告書 7.検査より
*総合規制評価サービス
権限がないね
検査は、規制者が必要だと判断したときに、速やかにするのが世界の常識。
けれど、日本では、電力会社からの申請があって初めて原子力規制委員会が検査をするので、「極めて異例」って言われています。
「IRRSチームは、許認可取得者(電力会社)が申請して初めて原子力規制委員会が検査を実施するという法的要求は、極めて異例なものと考える」 報告書 7.検査より
また、検査官が素早く判断できないことも指摘されました。
「原子力規制委員会の検査官には、安全上重大な事象のおそれが差し迫っていても是正措置を執行する権限が与えられていない」報告書 8.執行より
これらについては以下の勧告がでています。
勧告9 政府は、
• 効率的で、パフォーマンスベースの、より規範的でない、リスク情報を活用した 原子力安全と放射線安全の規制を行えるよう、原子力規制委員会がより柔軟に対 応できるように、
• 原子力規制委員会の検査官が、いつでもすべての施設と活動にフリーアクセスが できる公式の権限を持てるように、
• 可能な限り最も低いレベルで対応型検査に関する原子力規制委員会としての意思決定が行えるように するために、
検査制度を改善、簡素化すべきである。
勧告10 勧告:原子力規制委員会は、不適合に対する制裁措置又は罰則について程度を付けて決 定するための文書化された執行の方針を基準とプロセスとともに、また、安全上重大な 事象のおそれが差し迫っている場合に是正措置を決定する時間を最小にできるような命 令を処理するための規定を策定すべきである。
つまり、抜き打ち検査もできるようにせよ、素早く意思決定できるようにせよ、と言っているんですね。
現在、この勧告に沿うため、法改正の準備がされていますが、法律の施行は一部が来年、全面施行は、2020年の見込みです。
検査記録のデータベースないね
検査記録をデータベース化していないことも、指摘されました。
なにか問題が起きても、検査記録をデータベースでなくて文書の形で保存していると、共有や評価、比較がしにくいのは、すぐに想像できますね。
また、保存期間は、保安調査の記録が6カ月間、検査記録は5年とも書かれています。
IAEAも指摘するように改修や廃炉のことなどを考えれば、短すぎます。
「検査記録は、電子的に記録されておらず、紙の文書で保存されている。しかも保存期間は短い。これは(訳注:データの迅速で効率的な共有や抽出ができず)原子力規制委員会が、検査結果の分析の共有、評価、比較を妨げている」報告書 7.検査より
防災も弱いね
万が一のときの防災訓練。これ、IAEAが求めているような長期的なプログラムは日本には「ない」そうです。
「原子力事業者防災業務計画のすべての部分を体系的に、一定の間隔で試験できるようにする長期的な訓練プログラムはない」報告書 10. 緊急事態に対する準備と対応-規制的側面より
また、規制当局の準備と対応の要件とガイダンスの策定、事業者の住民への情報提供を検証する手続きの策定も勧告しています。(勧告12)
教訓、いかしてないね
教訓が生かされていないこと、とく日本の原発は、今、どの原発も4年、5年を超える長期停止となっていますが、それに配慮していないね、と言われています。(6.審査と評価)
「長期停止後の再稼働を含め、得られた教訓が許認可取得者により考慮され、実際に施設における適切かつ適時な対策につながることを確かなものするためにレビューすることを検討すべきである」(勧告8)
国際的なガイドラインに沿ってない検査体制で進む原発審査
これらの勧告は、国際的なガイドラインで求められていることに基づいています。つまり、現状では、国際的なガイドラインに沿っていないということ。
問題は、これだけ問題点が指摘されているけれど、その改善のないまま、原発の再稼働や老朽原発の運転期間延長の審査が行われていることです。
つまり今の検査体制は、国際的なガイドラインに沿っていない。
現在、原子力規制庁は、勧告や提言について、対応していますが、法制度の改正が必要なものに関しては、現在準備中で、それが実現するのは2020年です。
AEAによれば、原子力規制庁の検査は、文書のチェック中心で、原発で働く作業員の動きや警報にはなんら注意を払わず、検査記録のデータベースもないまま、研修不足のスタッフによって行われているのです。
原子力規制委員会による認可の取り消しを求めて
グリーンピースでは、そんな規制に対して、異議申し立てをするべく、関西電力高浜原発1、2号機の運転期間延長認可取り消しを求めての裁判に参加しています。
国際環境NGOグリーンピースが、東京電力福島第一原発事故の影響についての最初の放射能調査は、2011年3月27日に開始。東京電力福島第一原発事故が発生してから約2週間後でした。
事故発生直後、チェルノブイリの放射能汚染の調査を行ってきたグリーンピースの専門家などを海外から招き、国際チームを編成しました。
以降、グリーンピースは、毎年継続して東電福島原発による放射能汚染の調査を行っています。