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2024年7月、日本では観測史上最も暑い7月を迎えたことが気象庁*により発表されました。気候変動の影響は、肌で感じられるものになりつつありますが、いまを上回る暑さが今後増えていくと思うと、不安に感じる人も少なくないかもしれません。酷暑の影響で、私たちの生活の当たり前はどのように変化するのでしょうか。そして、猛暑日がこのまま増え続けないために、私たちにできることはあるのでしょうか。

猛暑日は年々増えている?

気象庁のデータによると、近年の全国の猛暑日は1970年と比べて、平均で3倍ほど増えています

気象庁「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数」より作成

日本気象協会では、猛暑日において<最長連続記録>と<年間最多記録>を毎年記録しており、2023年時点での最新の記録が過去3年以内に更新されていることから、猛暑日が年々増加傾向にあることが伺えます。

  • 2024年7月1日時点での最長連続記録:24日(2021年、岡山県高梁市にて)
  • 2024年7月1日時点での年間最多記録:46日(2023年、群馬県桐生市にて)*

2024年8月には太宰府天満宮でも知られる福岡県太宰府の40日連続*が最長連続記録になり、昨年の群馬県桐生市の最長連続記録と比べて2倍近くの日数になっています。

猛暑日の数は地域や年によっても変わりますが、東京の年間猛暑日を見ても、2000年以降は約6日、2010年以降は約8日、2020年以降には約13日*と増加傾向にあります。

猛暑日が増えている原因

猛暑日が増えている大きな原因のひとつは、気候変動です。地球は温暖化の傾向にあり、その最大の理由である化石燃料が世界各国で燃やされ続けることによって、気候変動は加速しています。

2023年9月17日にマンハッタンで行われたデモ。
2023年9月17日にマンハッタンで行われたデモ。数千人の参加者が集まり、バイデン政権に対し、化石燃料の拡大を終わらせるよう要求した。(2023年9月)Ryan Rahman/Shutterstock

ただ2023年から2024年までの気温上昇はエルニーニョ現象(以下、エルニーニョ)の影響も大きく関係していました。海面水温を上昇させるエルニーニョが終息を迎えると、温かく湿った空気が流れ込みやすくなります。2023年春にはじまったエルニーニョが、2024年6月にようやく終息を迎えたこともあり*、2024年の夏の暑さはこの影響もあるといえるでしょう。

2023年から2024年までのエルニーニョは特殊でもありました。エルニーニョ発生時に気象庁が発表している海面水温の差の最大値を見ると、1951年以降、最もよく見られたのは+約1度*でした。しかし2023年11月時点での南米のペルー沖での海面水温は平年と比べて4度以上も上がっており異常に高いことがわかります。さらにはエルニーニョ発生時に海面水温が低いはずのフィリピン沖でも、気温上昇が見られました*

気候変動が進むとどうなる?

このまま気候変動が進んでいくと、やがて後戻りできなくなる「ティッピングポイント(※)」を超えてしまう可能性があります。ティッピングポイントに到達すると、温室効果ガスの排出がゼロになっても、温暖化の影響が激化するといわれています*

※転換点を意味する英単語。小さな変化の積み重ねにより、地球環境において不可逆性を伴う巨大な変化を生み出してしまうことを指す。ティッピングポイントを引き起こす要因は「ティッピングエレメント」と呼ばれ、北極海の夏の海氷の喪失やグリーンランドの氷床の融解をはじめ9つの現象が含まれる*。ティッピングポイントを超えると、複数の現象が連鎖的に起こる恐れもある。

破壊的な気候危機を未然に防ごうと、2015年のパリ協定(COP21)では締約国が一丸となり、世界平均気温を産業革命前(18〜19世紀)と比べて1.5度の上昇までに抑えよう、という目標が掲げられました。しかしながら欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(C3S)によると、2023年2月から2024年2月にかけて、すでに1.5度の上昇が世界的に観測されたとの発表があり、1.5度を超えた世界はもう目と鼻の先ともいえる状況です*

そのためにも、気候変動の影響を抑えるためにできることをいま最大限で行うことが求められています。

猛暑日の増加によって起こりうる、今後の生活の変化

1. ゲリラ豪雨などによる被害の増加

猛暑日の増加とともに増えるのが、ゲリラ豪雨の発生回数です。

東京での大雨
東京での大雨(2020年12月)Ned Snowman/Shutterstock

ゲリラ豪雨は、夏の厳しい日差しによって暖められた地上と氷点下の上空(5000メートル付近)の気温差が大きいと起こりやすく、たとえば以下のように40度以上の差があると、積乱雲が成長し、いっきに雨を降らせる可能性が高いとされています*

地上の最高気温:37度 上空の気温:-5度

夜にゲリラ豪雨が繰り返し起こるケースもあり、ひとつの理由としては夜になっても気温が30度近くあり*、日中の気温と大差がないことが挙げられます。

ゲリラ豪雨は特徴として30分ほどで止むものの*、短時間でいっきに雨が流れ込むため、大きな被害をおよぼす可能性があります。自分のいるところで激しい雨が降っていなくても、周辺のゲリラ豪雨の影響を受けることもあります。

さらに近年ではゲリラ豪雨に限らず、積乱雲の連なりによって形成される線状降水帯が発生しやすいこと*や、台風の勢力が激化していること*もあり、以下のような被害がますます身近になっていくことも予想されるため、備えが必要です。

  • 河川の氾濫
  • 土砂災害による家の倒壊、破損
  • 家の中に流れ込む床上浸水による被害
  • 飛来物によりベランダや窓ガラスの損傷
  • 地下街・地下鉄駅に雨が流れ込む、浸水する
  • マンホールへの転落(マンホールが吹き飛ぶ可能性があるため)
冠水するトラック
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2. 健康被害のリスクが高まる

猛暑による代表的な健康被害といえば、熱中症です。観測史上最も暑い7月とされた2024年7月の救急搬送人数は、統計を集めはじめた2008年以降、2番目に多かった*と総務省消防庁により発表されました。

近年の調査によると*、救急搬送される人のうち約5割を65歳以上の高齢者、約3割を成人(満18歳以上、65歳未満)、約1割を少年(満7歳以上、18歳未満)が占める傾向にあり、年齢が上であればあるほど被害を受けやすい傾向にはあるものの、今後はどの年齢層にも一層注意が必要かもしれません。
そのほか、感染症のリスクが高まる恐れもあります。気温が上がると感染症を媒介する蚊が生息しやすくなり、これまで日本に生息していなかった蚊やダニによる感染症のリスクが高まることが推測されます。たとえばマラリアを媒介するハマダラカや、デング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカが万が一他国から侵入した場合に、定着してしまう恐れがあります。暑すぎる夏が引き起こす健康被害はこちらの記事でも詳しく触れています。

3. コメをはじめ、作物の生産量が減る

厳しい暑さが続くことは、コメや作物の生産量にも影響をおよぼします。たとえば日本人の主食であるコメの民間在庫量は、2024年6月時点で、1999年以降、最も少ないものとなりました*。 

その理由として大きく挙げられるのが「高温障害」の発生です。コメは透き通ったものほど品質が高いものの、登熟期に気温が高いと白く濁った「白未熟粒」が多発し、出荷量の減少やコメの等級の低下につながります*

山形県寒河江の田んぼ
山形県寒河江の田んぼ(2022年5月)DPeterson/Shutterstock

2024年8月にはコメが各地のスーパーから姿を消し、コメ不足という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。暑い夏をしのぐための対策として求められているのは、高温に耐性のある新たな品種の作付拡大です。たとえばコシヒカリの品種改良は20年ほど前からはじめられており*、2023年時点では、主食用のコメの15%ほどを高温耐性品種がまかなうようになりました*。品質の高い一等米の割合もほかの品種と比べて高いことから注目を集めています*

ただし、年々高まる気温に開発が間に合わない可能性も注視されています。国立研究開発法人 国立環境研究所の研究では、今後10年おきに0.5度ずつ高い気温に耐性を持つ品種開発が必要であるものの、技術がそれに間に合うかはまだ明らかではないといいます*

また高温障害はコメに限ったことではなく、さまざまな作物の発育不良を招きます。2024年7月、愛媛松山市ではトマトの収穫量が通常の収穫量と比べて7割も減っていました*。野菜やくだものにもコメと同様、暑さに強い品種への変更が求められています*。今後の開発次第では、より高い値段を払わないと手に入らなくなったり、その作物自体が食べられなくなったりする可能性もなきにしもあらずです。

気候危機をくい止めるためにできること

ゲリラ豪雨や作物の不作などの事象は、自分のコントロール外のことで、黙って受け止めるしかないようにも感じてしまうかもしれません。しかし、その大きな要因である気候変動の悪化を少しでも抑えるためにできることはあります。さまざまな角度から日々のCO2(二酸化炭素)の排出量を減らすことです。たとえば以下のようなアクションから日々のCO2排出量は削減できます。

  • 再生可能エネルギーの電力に切り替える
  • 排気ガスの出ない車を利用する
  • 週を通して、お肉を食べる回数を減らす
  • 省エネにつながる機器を生活に取り入れる
  • 断熱性のある住宅に住む

ただ、一人ひとりが上記に取り組むだけでは、気候危機をくい止めるのに必要な二酸化炭素排出量の削減につながらない可能性が高いのも現実です。破壊的な気候危機を招かないために世界平均気温の上昇を1.5度以内に抑えられるよう、先進国である日本は2013年度比で60%以上削減しないといけないと指摘されています(※)。

※日本は、2030年度までに二酸化炭素の排出量を2013年度比で46%削減することを掲げている*。しかしクライメート・アクション・トラッカーの分析によると、この削減率は世界平均気温を1.5度に抑えるには不十分で、せめて60%削減しなければいけないことが指摘されている*

上記のアクションが大切なことに変わりはないですが、今最も必要なのは、気候危機に関心を持たない人々も含め、みんながふつうに暮らしているつもりでも、CO2排出量が減る「しくみ」づくりです

上記のアクション一覧を見て、「すぐに取り組めないかも」と思うものもあったかもしれません。ところが自治体などで上記に対応しやすいしくみが整えば、実現のしやすさは増します。

その先にあるのは、今よりずっと暮らしやすい世界です。たとえば住宅の断熱性能が向上すれば、エネルギーを過剰に使用しなくても夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようになります。気候変動による健康被害や災害などをこれ以上心配しなくてもいい未来が待ち受けているかもしれません。

地元の議員などに働きかけることでどんな変化が得られるかは、以下の記事もぜひチェックください。

Helihead/Shutterstock
Helihead/Shutterstock

ゼロエミッションの実現に向けて、動こう

どのように自治体に声を上げたらいいかと思うかもしれません。第一歩として、グリーンピース・ジャパンが事務局を務める、「ゼロエミッション(※)を実現する会」への参加がおすすめです。

※ゼロエミッションとは、CO2(二酸化炭素)排出を実質ゼロにすること。

日本が掲げる「2050年までにゼロエミッションを実現する」という目標に対して、自分たちのまちから実現しようと、市民が主体となり活動している会です。各地で活動グループをつくり、専門家やNGO、行政や事業者と連携し、気候変動対策を前へ前へと推し進めていく取り組みです。過去には以下を実現したり、実現に貢献したりしてきました。

全国に活動グループがあるので、まずは自分のまちのグループを見つけてみましょう。グループの立ち上げをしたい方へのサポートもしています。

また、どんな人が、どんな思いで参加しているのかが気になる方は、以下の記事もチェックしてみてください。

人間活動によるCO2排出量が、気候変動をどんどん加速させているといわれる今。だからこそ、私たちが日々の行動を見直し、自治体などに声を届けることには大きな意味と力があります。「こんなに暑い夏は耐えられない」少しでもそう思ったら、ぜひアクションを起こしてみてください。