[Next100 PROJECT – NEXT 100 Voice vol.4]
グリーンピース・ジャパンの事務局長サム・アネスリーが、様々な分野で社会課題に挑む方々と「100年後の未来に向けて、私たちはどんなアクションを起こしていくべきか」について語り合う連載「NEXT 100 Voice」。第4回のゲストはアパレルブランドとして日本で初めて、国際的認証制度B Corp認証(Benefit Corporation)※2を取得した株式会社CFCLの代表兼クリエイティブディレクター高橋悠介さん。石油産業に次いで世界第2位の環境汚染産業と言われるファッション業界における社会課題や、現在の取り組みなどを伺いました。

小さな存在でもしっかりとしたビジョンがあればメッセージは伝わる時代に

サム グリーンピースは環境保全活動の一環として、ファッション業界に関わるキャンペーンを10年ほど前からスタートしているのですが、高橋さんが環境問題に興味を持つようになったのはいつ頃からでしょうか?

高橋 母が環境問題などを扱う社会派のライターで、アクティビストに近い感じの人だったんです。一方で父は弁護士と医師を両立している理論的な人で。二人はよく社会問題に対する意見の相違で喧嘩をしていました。

サム 環境問題や社会問題が身近な家庭だったんですね。ご両親の影響もあって昔からCFCLのようなブランドを立ち上げようと思っていたのですか?

高橋 真剣に考え始めたのは、2019年に娘が生まれたことがきっかけでした。ちょうどその前年、グレタ・トゥーンベリさんが国連気候変動会議でスピーチをされていたのを見ました。もし娘がグレタさんぐらいの歳になった時に、同じように「なぜ環境問題の解決が進んでいないのか?」と質問をされたときに、ごまかすような回答をしたくないと思ったんです。

サム それは確かにしっかりと答えたいですよね!実はグリーンピースは昨年設立50周年を迎えたのですが、そのときに新たに策定されたのが「100年先の子どもたちに地球の恵みを届ける」というビジョンなんです。高橋さんもお子さんの未来を考えた先に、ブランド設立があったんですね。

高橋 そうですね。昔は社会的なインパクトがないと取り組む意味がないと思っていたのですが、今は規模の大小に関係なく、ビジョンがしっかりとしていてメッセージが強ければ、広がる時代です。ならば会社のなかでアクションを起こすよりも、自分でイチから作った方が拡散力があるのではと思ったことが、ブランド立ち上げの後押しになりました。

サム CFCLは衣服としての機能性だけでなく、環境への配慮や、地域社会との連携、サプライチェーンの透明性などを追求していますが、高橋さんにとって関心の高い課題が軸になっているのでしょうか?

高橋 難しいのは、今の時代、環境問題だけでなく、虐待や人権問題などの社会学的課題など、課題がものすごく多いことです。一方で資金やマンパワー、時間には限りがありますから、全ての問題に関与するのは難しいですね。

サム おっしゃる通り、環境問題にも貧困の問題が関わっていたり、課題はすごく複雑化しています。

高橋 だから自分ができるカテゴリーやテリトリーを決めて、発信していく必要があると考えています。僕の場合だと、ファッション産業が抱えている課題にアクションをしていくことになります。ただ、ファッションひとつ取っても選択肢は無限にあるわけです。例えば、近年多くのブランドが使用しているエコファーは動物愛護の観点からエシカルな選択肢ですが、それが地球環境にとってサステナブルかというと、エコファーやフリースの糸がマイクロプラスチックとなって、深刻な海洋汚染に繋がっているという事実もあります。

サム トレードオフをしているわけですね。

高橋 そうなんです。それを自分たちで「エコ」と呼ぶことに僕は抵抗があります。CFCLがデビューをしたときに、サステナブルブランドとして取り上げられることが多かったのですが、我々は自分でサステナブルブランドとは言わないようにしています。私たちが示すのは今のポジションと何年後かのゴールに向けて、できていることとできていないことをトレーサビリティ(追跡可能性)として見せること。それを第三者機関が評価して、客観的な指標を与えてくれることがいいのではと考えています。だから、僕らの軸はとてもシンプルです。再生素材、LCA(ライフサイクルアセスメント)※1、B Corp認証※2、この3つの軸にフォーカスをしています。

※1 LCA(Life Cycle Assessment)
LCAとは、製品が生まれてからその役目を終えるまで(衣服の原料調達、糸の生産、染め、最終加工、販売、着用、廃棄まで)、どれだけの温室効果ガスを発生させているかを、国際規格(ISO140140など)に基づき算出・数値化し、「可視化」する手法。

※2 B Corp認証 
世界共通の17の目標に、透明性と責任を伴いながら世界で極めて高い水準の実践を積み重ねる企業に与えられる、アメリカの非営利団体 B Labによる国際的な認証。認証された企業がB Corpと呼ばれる。

貧困問題や人権問題を数値化するB Corp認証

サム CFCLは日本のアパレルブランドで初めてB Corp認証を取得したと伺いました。

高橋 はい。B Corpは環境問題ではなく、すべてのステークホルダーに対するベネフィットを求められる制度です。SDGsの大きな課題である貧困問題に対して彼らは強いパッションを持っていて、グローバルサプライチェーンが先進国と発展途上国間の賃金差を利用して、先進国に商品を安く提供することを問題視しています。生産者が購入できる状況、すなわち生産国と市場の乖離がない地産地消に努め、企業の所在地や生産地のコミュニティへの利益が還元されてるかを問われます。私たちのブランドにおけるコミュニティというのは、新潟や福島など、日本のニット産地です。高度成長期で右肩上がりだった日本のニット産業は、バブル崩壊により日本で衰退し、多くの工場が倒産し、地域での売上もバブル時と比較して10%ほどまで激減しています。そんな状況で、環境に良い製品を作ってもらうだけでは、彼らは幸福にならない。雇用を作り、賃金の平均を上げ、成長するプロセスを一緒に感じてもらうことが大切なわけです。だからといって、利益追求に方針転換をしてしまうと、環境問題とのバランスが崩れてしまう。軸をぶらさずにB Corpが求めるローカルコミュニティでのクローズドループ※3を達成する必要がある。そこで我々は50%以上を日本で売ることをカンパニーポリシーに記載しています※4。

※3:クローズドループ

「従来の「Take(資源を採掘して)」「Make(作って)」「Waste(捨てる)」というリニア型経済システムのなかで活用されることなく「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉えて、循環させること」
※4:CFCLカンパニーポリシー

サム それは素晴らしいですね。確かに環境問題を考えるときに、労働問題は同時に考える必要があります。グリーンピースは石油産業に対して声を上げていますが、では石油産業に従事する人たちの雇用はどうするのかとよく聞かれるんです。これは非常に妥当な質問で、社会のシステム全体を考えて、労働問題もクリアにしていかないといけないんですね。

高橋 そうですよね。ソーラーパネルを製造するにも温室効果ガスは発生しますし、万能な解決策はありませんよね。

サム 環境問題は多くの問題が複雑に絡み合っていて、一人で解決できるものではないので、多くの人やセクターを巻き込む必要があると思っています。CFCLでは、原料調達から、販売、廃棄されるまで全ての工程でのCO2排出量などの環境負荷を算出するLCAも取り入れられていますが、これも1ブランドだけで取り組むということはできないんじゃないでしょうか?

高橋 そうなんです。LCAを算出すると、どの製造過程で温室効果ガスを排出しているかがクリアに分かるのですが、自分たちが関与できないポイントが3つあるんです。

1つ目は再生プラスチックの問題です。ブランドの代表作であるワンピースは再生ポリエステルでできているのですが、原料は台湾のペットボトルで、製糸も台湾で行われています。つまり、そのときに発生する温室効果ガスは我々ではコントロールできない。これは2000年代に日本政府がプラスチックごみを海外に輸出するビジネスを行ったことが関係していて、日本にプラスチックごみをリサイクルできる工場がほとんどないことが原因です。日本で回収したポリエステルを日本の工場で加工できれば、カーボンフットプリントも減りますし、より小さなクローズドループが実現できます。

2つ目は購入した人たちがどのように洗濯をしているかです。LCAでは洗濯機で洗う電力量も測定しなくてはならないのですが、日本は石炭火力発電が多いので、どうしても温室効果ガスが発生する。じゃあ原子力発電がいいのかというと、それも難しい問題ですよね。

3つ目は再生ポリエステル100%の素材は再利用ができるのですが、回収するシステムがないことです。これは1つのブランドだけではどうにもならないので、行政も巻き込んで回収スキームを構築し、大手アパレルメーカーやリサイクル業者とも協力しなければならない。この3点を日本政府はクリアにしないと、2050年のカーボンニュートラルの実現は難しいと考えています。

サム 確かにいろいろな企業がカーボンニュートラルに向けて動き出そうとしていますが、どこから手をつけたらいいか、どうしたらいいか分からないという声は非常に多く、我々も多くの企業から問い合わせを受けています。ただ、そもそも私たちはまずは大量生産、大量消費から脱却しないといけないと思っています。

高橋 そうですね。実は1990年代は意外にも需要と供給と生産数の乖離は大きくなかったんですね。だからファストファッションが台頭してきた、この20年が僕は特におかしいと思っています。ただ、最近は利益を追求することが社会や会社の役割ではないということに消費者が気づき始めているし、そういう企業でないと今後は残れないと思っています。

サム そうですね。グリーンピースは2011年から10年にわたり、大手ファッションブランドを対象にしたデトックスキャンペーンを行い、2020年までの有害化学物質の使用と排出の撤廃を求めて、世界シェア15%にあたる80社の合意を得るなど、着実に成果をあげてきました。今後はさらに、大量生産・大量消費のシステムチェンジまで対象を広げて、キャンペーンを続けようと考えています。

ファッションを介することで環境への意識は変わる

サム CFCLでは再生ポリエステルを使っていらっしゃいますが、グリーンピースでもずっとプラスチックの問題を提起してきて、今はさらに使い捨て文化からの脱却も訴えています。カフェなどで使用されるカップやストローを紙に切り替えるのではなく、そもそも使い捨てを減らしましょうという提言です。

高橋 そうですね。僕が最近面白いなと感じているのは、これまで環境保全団体などが働きかけても、なかなかプラスチックストローは減らなかったのに、ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さっている映像が拡散した瞬間に、世界中から多くのプラスチックストローが減ったことです。

サム そうなんですよね!

確かに。グリーンピース・ジャパンはプラスチックごみを減らす社会の仕組み作りのために、問題提起から政策提言、普及まで多くのことに取り組んできました。たくさんの市民の地道なはたらきかけがあって、プラスチックごみへの関心が少しずつ浸透してきていたから、ウミガメの映像が与えるインパクトが社会を動かすきっかけになったと考えています。

高橋 ストローもある意味ファッションの一部だと思うんです。ファッションとは単に服を示しているのではなく、個々のアイデンティティやアティチュード(attitude:英語・フランス語で姿勢、態度)を社会とコネクトするためのフィルターになっているのではないでしょうか。例えば「ペットボトルを持つのって格好悪いよね」となった瞬間に、マイボトルが定着していく。そもそもファッション産業は第2位の汚染産業と言われていますが、「第1位と第3位を知っていますか?」と尋ねると、知らない人が意外と多いんです。毎日着る服と、食べるものが人々に与えるインパクトはそれほどに大きいということです。

サム おっしゃる通りだと思います。自分に身近なことがきっかけとなって、少しずつでも意識が変わったり、社会課題を知り、行動に移すことができれば、それはやがて大きな変化となると思います。

最後にお伺いしたいのですが、高橋さんは100年後の未来を良くするために何が必要だと思いますか?

高橋 現在の快適なライフスタイルは、昔の人たちが少しずつアップデートしてきたおかげですよね。だから100年前のことを想像すれば、おのずと100年先のことも見えてくると僕は思っています。僕らがやっていることは、次の世代にバトンを渡すこと。子どもたちには、歴史の中で自分が生きているのだということを教えていきたい。歴史の中に自分がいて、自らやらなければいけないこと、未来に何を残したいか。そういうことを子どもたちにしっかりと伝えることが、100年後の未来に向けて大切になると思っています。

対談を終えて
ファッション業界だけにフォーカスせずに、様々な社会課題との関係性にまで視野を広げられていて、高橋さんの社会課題に対する情熱がとても伝わってきましたし、近い将来、日本のファッション業界のリーダーになるのではという印象を受けました。なかでも社会におけるご自身のブランドの役割まで考えられている姿勢が素晴らしいと感じました。新しい「当たり前」を引き続き築いてほしいと思っています。

高橋悠介

1985年東京都生まれ、文化ファッション大学院大学修了後、2010年に三宅一生が設立した株式会社三宅デザイン事務所入社。2013年にISSEY MIYAKE MENのデザイナーに就任。2020年株式会社CFCL設立、自身のブランド「CFCL」を立ち上げる。2022年7月、株式会社CFCLとして、日本のアパレル業界初の「Bコープ」取得。

聞き手:サム・アネスリー(グリーンピース・ジャパン事務局長) 

イギリス北アイルランド生まれ。17歳の時、高等学校の交換留学で1年間岡⼭県に滞在。その後英ケンブリッジ大学で日本語を専攻し、その間三重県皇學館⼤学で1年間神道学を学ぶ。 大学卒業後、南米やヨーロッパでの教育経験を経て、2007 年に日本へ。以来11年間、NGO「ピースボート」や親を亡くした⼦どもたちを支援する「あしなが育英会」、自殺予防に取り組むNPO「東京英語いのちの電話」の事務局長を経て2018 年12月より現職。趣味は山登り、スキューバダイビング、サイクリングなど自然の中で過ごすこと。好きな場所は南アルプスの甲斐駒ケ岳、八丈島など。

(取材・文:林田 順子)

[Next100 PROJECT – NEXT 100 Voice]
本対談では、グリーンピース・ジャパンが考える100年後の社会のあり方をお伝えしていくのはもちろん、多様な方の声を伺っていきます。私たちと一緒に辿り着くべき’未来への地図’を作り上げる道標となるのは、より良い社会を願う、一人ひとりの強い思いです。

vol.1 水原希子さん インタビュー
vol.2 二階堂ふみさん インタビュー
vol.3 山田英知郎さん インタビュー
vol.4 高橋悠介さん インタビュー