2021年、グリーンピース・ジャパンは日本のエネルギー政策を変える、重要な役割を果たしました。自動車産業等の大手企業に対して、化石燃料を基本としたビジネスモデルから脱却するよう働きかけました。また、地方自治体に対しては、再生可能エネルギー100%のための枠組みを確立させるよう、多くの市民と共に働きかけました。気候変動の影響を人々の日常生活と結びつけて可視化し、気候リスクは経済的かつ社会的リスクでもあることを強調しました。また、東京電力福島第一原発事故の放射線調査を継続し、さらに国際機関を通じて、日本政府の汚染水海洋放出計画を止めるよう求める取り組みを行い、原発に反対する市民の動きに貢献しました。

#DriveChangeキャンペーン

私たちが使うクルマの99%は、いまだに排気ガスを出す化石燃料車(内燃エンジン車)です。世界規模で見ると、排出されるCO2(二酸化炭素)の24%は、輸送機関に由来します。その中でも乗用車は45%と、最も大きな割合を占めており、気候変動を止めるために、クルマの脱炭素化がいかに重要であるかがわかります。

グリーンピース・ジャパンは、日本を代表する世界的な企業であるトヨタ自動車に、気候変動対策のグローバルリーダーになってほしいと、2021年3月より#DriveChange(変化へ発進)キャンペーンを開始しました。ソウル、北京、ドイツのグリーンピース事務所に加え、北米やオーストラリア、東南アジア地域で活動する環境NGOとも協力しながら、トヨタをはじめ、日本および世界の主要自動車メーカーに、以下の4つの取り組みを、大幅に加速させることを求めてきました。

  1. 2030年までに化石燃料車(ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車を含む)の新車販売を停止する
  2. 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に沿ってサプライチェーンを脱炭素化する
  3. 製造過程における資源利用を減らして、特にバッテリーに使用されるレアアースにおいて、リユースやリサイクルを増やし、クローズドループシステム(廃棄物を含めて完全にリサイクル・再利用の仕組みで、新規材料を使わないシステム)へ100%移行する
  4. 販売台数より移動手段提供サービスモデルで利益を得られるビジネスモデルへ転換する

また、映像制作会社との協力で作られた映像など、さまざまなコンテンツを通して自動車産業の脱炭素化の必要性を訴えました。イギリスの映像制作会社との協力で制作した「トヨタは、このような広告をいつ実現させることができるでしょうか?」や、日本の映像制作会社と共に制作した「気に入らない人たちのいつだって、なんだって気に入らない物語」などがあります。

さらに、調査報告書も発表しました。11月に発表した『自動車ランキング2021』では、市場の80%を占める大手自動車メーカー10社の気候変動対策と実際の行動を検証し、脱炭素化に向けた効果的なステップを踏んでいるかどうかをランキングにして評価しました。また、イギリスの研究機関Cambridge Econometricsとの協働で、研究報告『日本の乗用車の脱炭素化によるマクロ経済および環境への影響』を発表しました。自動車メーカーランキングは、国内の多くのメディアで広く取り上げられました。12月に開かれたトヨタ自動車の記者会見では、記者が豊田章男社長への質問の中で本報告書を引用し、質問を投げかけました。

メディア以外の数少ないオブザーバーとしてグリーンピースが招待されたこの記者会見で、豊田社長はトヨタの新たなEV戦略を発表しました。トヨタは長い間、EVにとても消極的でしたが、会見では、低炭素車およびゼロ炭素車の必要性を述べ、会社のアプローチや販売車種・商品ラインアップに関する重要な変更を表明しました。

こうしたキャンペーンを通して、2021年12月、同社は2035年までにレクサスブランドについては全世界で化石燃料車の販売終了、その他ブランドについても西欧州では同年までに100%ゼロ炭素排出車販売を目指すと発表しました。世界で最も多くの自動車を販売している同社は、今後一刻も早く、すべてのブランドについて化石燃料車の販売終了の目標を公表する必要があります。

日本の大手自動車メーカーの脱炭素に向けた行動はまだ非常に不十分です。2022年も継続する本キャンペーンで、真の脱炭素を実現し、21世紀にふさわしい自動車を提供するよう、引き続き働きかけ続けます。 

中野のチームとともに中野区長と面談しました。 © Greenpeace

市民と共に地方自治体をカーボンニュートラルに!(ゼロエミッション キャンペーン)

2020年9月にグリーンピース・ジャパンが立ち上げた、気候変動を抑えるために行動するコミュニティ「ゼロエミッション東京を実現する会」は、2021年も多くの市民が積極的に参加をしました。港区、調布市、狛江市、中央区、新宿区、北区、江東区、墨田区、中野区、杉並区、府中市、町田市、目黒区では、参加者の活動が、それぞれの自治体のゼロカーボンシティ宣言につながりました。とくに港区では、議会に港区内の建築物の再エネ調達や省エネを求める請願を何度も提出し、区内の電力を再生可能エネルギー100%とする「MINATO再エネ」施策につながりました。

2021年からは、名前から「東京」を削除して全国の市民の参加を可能にしました。北は北海道から南は沖縄県まで、2021年末時点でFacebookグループの参加者は1,000人、より活発なSlackグループには500人が参加しています。長野県が2021年4月末に発表した温暖化対策計画の2030年温室効果ガス削減目標は48%削減に留まっていましたが、ゼロエミッションを実現する会参加者による強力なキャンペーンの結果、県は2030年温室効果ガス削減目標を60%に引き上げました。

また、7月の都議会議員選挙という機会を最大限に活用し、『東京都の再生可能エネルギー 100% シナリオ ~グリーン・リカバリーによる脱炭素化ロードマップ~』を環境エネルギー政策研究所(ISEP)と発行し、大都市東京でも再生可能エネルギー100%の未来は可能であることを示しました。

  • 6月:東京新聞全面広告:海面上昇と気候危機のリスクへの関心を高め、気候アンケート結果を拡散(写真)
  • 10月:衆議院選挙候補者への気候アンケートを実施し、結果をウェブ上で公開

あと4年、未来を守れるのは今

2021年は、多くのNGOや生活協同組合などと協働した一年でもありました。日本のエネルギー基本計画案のパブリックコメントの機会をとらえて「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンの運営団体として署名活動やパブリックコメント提出を呼びかけるキャンペーンを展開しました。同キャンペーンの賛同団体は228、署名数は27万4,830筆にのぼりました。

2021年はまた、東京都議会議員選挙、衆議院選挙の年でもありました。「ゼロエミッションを実現する会」の参加者の協力を得て、候補者に気候変動についての質問をし、回答をWEBサイトで公開しました。衆議院選挙では若者が自分の選挙区の候補者に手渡してコミュニケーションをとる、というキャンペーンが行われ、テレビを含む多くのメディアに取り上げられました。

気候変動による影響の拡散:海面上昇

6月末に、地球温暖化による海面上昇がもたらす経済的影響を予測した報告書『2030年のアジア7都市における極端な海面上昇の経済的影響予測』を発表しました。それに先立って、2030年・2050年の日本での海面上昇シミュレーションマップや、日本の都市での浸水・冠水被害を表した3D動画を発表しました。

また、Youtuber兼沖縄在住のお笑い芸人で31万人のチャンネル登録者をもつ、せやろがいおじさんとのコラボレーションで制作した海面上昇の動画「今、地球がどうなってるか知らない人たちに一言」も公開しました。

8月にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が最新の報告書を発表し、グリーンピースはこの第6次評価報告書の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の主な論点をまとめた報告書や分かりやすく解説するブログなどを発表しました。グリーンピースはIPCCの公式オブザーバーであり、重要なレビューに参加しています。

海面上昇に関する報告書

IPCCに関する報告書

東電福島第一原発事故から10年

2021年は東京電力福島第一原発事故から10年となり、グリーンピースは事故直後から続けてきた放射線調査を報告書にまとめました。2020年秋に実施した放射線調査は、コロナ禍で小規模となりましたが、海外チームとの緊密な連携で、最新のデータ計測に成功しました。この放射線調査報告書に加え、外部識者と協力し、同原発の廃炉の道筋について分析した報告書も作成し、原発事故の過去、未来を俯瞰した2つの報告書を公表しました。日英韓中の4カ国語で行われた記者会見には、国内外から約50名の記者が参加し、グリーンピースの国際性を強く印象づけました。

科学的調査だけでなく、被災者の方々の肉声を集めたウェブサイトも作成しました。そこで浮かび上がったのは、事故は今も続いているということでした。2021年秋、調査チームは再び福島を訪れ、放射線調査を実施しました。グリーンピースは今後も、原発事故と原子力問題に注力を続けていきます。

特設ウェブサイト『写真と証言で綴る12人の10年福島の記録

放射能汚染水の海洋放出を止める

日本政府は、地元住民や国際社会の反対にもかかわらず、2021年4月、東京電力福島第一原発敷地内に保管されている放射性物質を含む汚染水を太平洋に放出することを決定しました。グリーンピースは、政府発表の約15分後に、決定を非難する声明を素早く発表し、厳しいメッセージは世界中のメディアによって報道されました。

政府の方針決定を受け、東京電力は2023年の汚染水の海洋放出を目指し、準備を進めていますが、グリーンピースはその一挙手一投足を注視しています。東電が公表した環境影響評価書のパブリックコメントに、海洋放出の問題点を指摘する意見を提出し、IMO(国際海事機関)で海洋放出問題を提起するよう働きかけるなど、国内外で積極的な働きかけを行っています。

これらに加え、海洋放出によって生計の場を脅かされる地元の漁業者や、アジアや太平洋諸国の深い懸念を広く世の中に伝えることも重視しています。海洋放出の中止を目指し、最大限の努力を続けていきます。

日中韓の情報通信(ICT)企業の環境対策をランキング

2021年12月、日本、中国、韓国の情報通信(ICT)関連企業30社を対象に、気候変動対策や再生可能エネルギー導入を評価、ランキングした報告書『ハイテク企業は再生可能エネルギー競争を勝ち抜くことができるか? 日本、中国、韓国のハイテク企業の気候変動対策と再エネ使用状況を採点』を発表しました。評価は「気候変動対策のコミットメント」「実施状況」「情報開示」「アドボカシー(政策提言等)」の4つの指標について行い、A+〜Fでランク付けしています。日本企業はソニーのC+をはじめ上位3位を占めるなど、対象企業の中では概ね上位となりましたが、ソニーも再生可能エネルギーを利用している事業所は全体の10%にも満たないなど、改善の余地は大きいことがわかりました。

対象とした日本企業はソニー、富士通、パナソニック、ルネサス エレクトロニクス、楽天、ソフトバンク、日立、東芝、ヤフー、キヤノン

モーリシャス油流出事故〜今企業に求められる責任とは何か〜

2020年に発生した、モーリシャス沖で貨物船が座礁し、1,000トンの燃料をサンゴ礁の広がる海に流出させた事故は、企業の責任とは何かを改めて問うものでした。

発生から半年となる2021年1月、グリーンピースは座礁した貨物船を運行していた商船三井に、現地の状況や、再発防止への取り組みに関する公開質問書を送りました。約1カ月後、同社から回答がありました。残念ながら、再発防止策として、化石燃料の使用を段階的に廃止するという回答は得られませんでした。

グリーンピースは2月、この事故と企業の社会的責任に関連し、サステナビリティ・ブランド・プロデューサーである足立直樹氏と協力し、ブリーフィングペーパーを発表しました。企業活動が社会や環境に対して与える影響が大きくなるのにあわせて、企業に求められる責任の範囲も大きくなってきていることを示すとともに、2050年にカーボンニュートラルの目標を達成していくために脱化石燃料が重要であることを伝えました。

事故から1年を経た8月には商船三井によるステイクホルダーラウンドテーブルに参加し、あらためて脱化石燃料の重要性を訴えるなど、事故後も継続して注視・関与しました。


関連報告書

・2021年2月4日『ブリーフィングペーパー:いま企業に求められる責任とは何か?
・2021年3月4日特設ウェブサイト『写真と証言で綴る12人の10年 福島の記録

・2021年3月27日『石炭火力発電におけるアンモニア混焼ーー高価で有害なJERAと日本政府の選択』

・2021年6月8日『東京都の再生可能エネルギー100%シナリオ ~グリーン・リカバリーによる 脱炭素化ロードマップ~』

・2021年6月10日『リーフレット:気候危機回避のための選挙アクションガイド』

・2021年6月24日『2030年のアジア7都市における極端な海面上昇の経済的影響予測』(日本語抄訳版)

・2021年8月12日「IPCC『自然科学的根拠』報告書(AR6 WG1)の主な論点」(グリーンピース・ジャパン作成)

・2021年9月22日『Countdown to Zero』(ゼロへのカウントダウン)

・2021年11月04『自動車ランキング2021』

・2021年12月02『ハイテク企業は再生可能エネルギー競争を勝ち抜くことができるか?』

・2021年12月17日『日本の乗用車の脱炭素化によるマクロ経済および環境への影響』