「暑すぎる、寒すぎる」
日本の学校

2023年7月18日 A小学校最上階教室・外気温最高37度 天井の温度42度。室温31度。
(撮影・解説 前真之・東京大学大学院准教授)

夏はうだるような暑さ、冬は凍えるような寒さ。今、日本の多くの子どもたちがこうした教室で学んでいることを知っていますか?

「エアコンが設置されているはずでは?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。

たしかに、2018年以降、生徒の熱中症対策として学校へのクーラー設置が進み、現在、設置率は95%を超えています。

それでも「暑すぎる」「寒すぎる」教室が多いというのは、いったいなぜでしょう?

原因は温暖化と「断熱」がされていないこと

夏の教室が暑くなっている理由のひとつは、そもそも温暖化で夏の気温が上昇しているから。気象庁のデータを示したグラフでも、猛暑日(最高気温35度以上)の年間日数が年々増えていることがわかります。過去10年間では、1970年代よりも4倍多くなっています。

全国の日最高気温35°C以上(猛暑日)の年間日数の経年変化(1970~2023年)

気象庁「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数」より作成

2023年、各地の猛暑日数では、群馬県桐生市で46日、埼玉県熊谷市で45日、京都市で43日など、過去最多を記録した地点が多くなりました(日本気象協会)

年間猛暑日最多記録/年間真夏日最多記録

日本気象協会の表より作成 *真夏日:最高気温が30度以上の日

もうひとつの理由は、こんなに気温が上昇しているのに、学校が「無断熱」のままだということ。

日本の学校の多くは築30年を超えた老朽校舎。エアコンの設置や、トイレの改修などは進んでいますが「断熱改修」はほとんど手つかずです。

無断熱のままでは、外壁からも、断熱性能の低いアルミサッシのシングルガラスの窓からも、外の熱が侵入してきます。とくに最上階の教室では、日射で高温になった屋上の熱がどんどん入ってきてしまいます。また、冬には外の寒さが入ってきます。

・国内4都県における学校教室の夏期温熱環境調査(2024年9月4日発表)

長野県で、自分の学校の教室の断熱改修を行なった高校生のAさんがこう訴えています。

「断熱していない教室は暑くて、ハンディ・ファンやうちわを使っています。授業に集中できません。また、冬はとても寒いです。暑さや寒さに左右されずに、落ち着いた環境で勉強したいです」
長野県 高校生のAさん

断熱とは:断熱には
メリットがいっぱい

こうした深刻な事態をほうっておけないと、保護者や建築の専門家から学校断熱改修の重要性が指摘されるようになりました。

断熱とは、熱の出入りを断つこと。建物を断熱すると、屋外の暑さ寒さを室内に入れず、逆にエアコンの涼しさ、暖かさを外に逃がしません。きちんと断熱すれば、エアコンをフル稼働しなくても快適な室温を保てます。

快適なだけではありません。夏は、通学や体育など屋外の授業で熱くなった体を冷やす避難所となり、熱中症を防ぐことにもつながります。さらに、授業への集中力も改善するとの調査結果があります。(出典:「環境を考慮した学校施設づくり事例集-継続的に活用するためのヒント」文部科学省)

エアコンの利きがよくなれば、エネルギー価格の高騰で地方自治体の大きな負担になっている電気代や維持費を削減でき、温室効果ガスの大幅削減にも貢献します。

学校断熱に必要なこと

教室の断熱改修には、一教室あたり150万円ほどの費用がかかります。

日本全国で小中学校の教室は50万室ほどあるので、すべての教室を断熱するには約7500億円かかることになります。

大きな金額ですが、断熱によって光熱費を大幅に削減できるため、費用は比較的短期間で回収できます。仙台市のウェブサイトには、断熱改修のコストは13年ほどで回収できるとあります。国や自治体の補助金を利用すれば、もっと早く回収できます。

太陽光発電設備の設置とセットですすめれば、より多くの光熱費が削減できる上に、早く始めればそれだけ早く費用を回収することができます。

市民、専門家、地域の工務店などが協力して、自主的に学校の一教室を断熱改修する試みがこれまでもいくつか行われています。素晴らしい取り組みですが、生活や仕事の合間をぬっての参加であり、経済的にも時間的にも限界があることも事実です。

学校の断熱改修を実現するには

今後も夏の気温上昇は避けられません。子どもたちの健康に直結する学校の断熱は、福祉・教育・環境、地域社会の持続可能性にとって大切な課題です。全国の子どもたちが夏涼しく冬暖かい教室で過ごせるように、日本社会全体が協力して一刻も早く学校の断熱改修に取り組むべきではないでしょうか?

全国の学校で断熱改修を実現するには政府がきちんと予算をつけることが不可欠です。大人が働く事務所は「事務所衛生基準規則」によって「18度以上、28度以下になるように努めなければならない」と定められています。いっぽう文科省「学校環境衛生基準」では「18度以上、28度以下が “ 望ましい ” 」とあり、規則ではなく努力目標にとどまっています。

しかもNPO法人School Voice Project が2022年に先生を対象に実施したアンケートでは、この基準が「しっかり守られている」としたのは東日本で約30%、西日本では約10%にすぎませんでした。

グリーンピースでは、とくに猛暑の被害から子どもたちを守るために、学校の温度環境の調査、先生たちや子どもたちへの聞き取り調査などを行い、あわせて断熱改修のコストとメリットを明らかにして、全国の思いを同じくする人々とともに、断熱改修を国や都道府県に求めていきます。

2025年から、住宅の断熱が義務化されることをご存知ですか?この義務化も、思いを同じくする人々の活動があったからこそ実現しました。

学校断熱改修についても、一人ひとりができることをしていくことで、きっと実現できます。

私たちに今すぐできる6つのこと

先生
生徒
保護者
誰でも

署名をする

署名をする

今すぐ簡単にできることは署名です。横浜のお母さんたちが、「学校断熱改修をすすめて」と文部科学大臣や都道府県知事に求める署名を続けています。ぜひ参加しましょう。

声を届ける

声を届ける

グリーンピースでは、教室に関する先生、保護者、生徒の声を募集しています。学校の断熱改修を実現するには、当事者の声がチカラになります。ぜひ、アンケートにご参加ください。以下のアンケートフォームから、ご意見をお聞かせください。なお、温度測定調査に協力してくださる方も募集しています。

断熱の良さを子どもたちに伝える

断熱の良さを子どもたちに伝える

断熱すれば、夏涼しく冬暖かい教室になることを当事者の子どもたちに伝え、解決策をともに考え、実現させていくこともとても重要です。

地球温暖化と断熱について授業ができるこちらのスライドをぜひご活用ください。

自分たちで教室を断熱する

自分たちで教室を断熱する

教室の断熱改修を地域の工務店や専門家の力を借りて、先生や生徒、保護者がみずからの手でおこなう「ワークショップ」が全国で行なわれています。ワークショップのやり方については、こちらをご参照ください。

予算要望をする

予算要望をする

私たち市民も、国や自治体に「学校断熱に予算をつけて」と要望できます。国へは、自分の選挙区の国会議員を通して。自治体へは、直接行政に要望できるほか、議会に陳情や請願をする方法があります。

政策を提言する

政策を提言する

予算を増やすだけでなく、「学校環境衛生基準」の温度の基準を規則に格上げする、国の計画で学校施設の断熱改修を進める、など政策を提言をすることも、国の方針を定める意味でとても重要です。この政策提言も、国へは、自分の選挙区の国会議員を通して、自治体へは、直接行政に提言できるほか、議会に陳情・請願の形で提言ができます。