試験を受ける生徒たち

夏はうだるような暑さ、冬は身体の芯まで冷える寒さ……。公立学校で学ぶ子どもたちが、どんな環境で過ごしているのかご存じでしょうか。エアコンが設置されても、教室が「暑くて寒い」原因は、断熱されていないことにありました。子どもたちの健やかな学習環境と省エネを実現をするには、学校の断熱化が急務です。

▼この記事を読むとわかること

> 学校が快適な学習環境とはいえない理由
> エアコンが効かないのはなぜ?
> 大人優先、日本の断熱事情
> 35℃を超える教室
> 大人は何ができる?

学校が快適な学習環境とはいえない理由

猛暑日が増え続ける夏、急な冷え込みをもたらす寒波がめずらしくない冬。教室を快適な環境にするためには、昔とは違う対策が必要です。

「エアコンが設置されているはずでは?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。確かに、日本では2018年に学校の室温規定の努力目標が「17℃以上28℃以下」*に改正され、それにともなって教室へのエアコン設置が急ピッチで進みました。

*2022年、文部科学省よりさらに「18℃以上28℃以下」に改正(学校環境衛生基準)

2022年には設置率は約96%となり、現在ではほとんどの教室にエアコンが設置されています。それではどうして学校は、依然快適な学習環境になっていないのでしょうか。

エアコンが効かないのはなぜ?

肝心の問題は「エアコンが効かない」ことです。エアコンをつけても光熱費が増すばかりで適温にならない、その根本的な理由は学校が「断熱」されていないことにありました。

冬はエアコンをつけても屋根、壁、窓から教室内の熱が逃げてしまいます。保温性がないためなかなか暖まらず、スイッチを切るとすぐに寒くなります。

冬の教室があたたまらない理由
冬の教室

夏はさらに深刻です。窓からの日射熱で室温が上がり、換気をしなければ二酸化炭素濃度が基準値を超えてしまう恐れもあります。しかし、窓を開けると高温多湿の外気が入ってきます*

夏の教室がエアコンで冷えない理由
夏の教室

公立の学校は、そのほとんどが無断熱だといわれています。そのせいで、エアコンが十分機能せず、教室のような面積の広い空間では特に、温度にムラができたり、維持費用がかさむといった新しい問題も浮上しました。電気代の高騰の影響もあり、財政負担の増加に対応するため、保護者がエアコン代を負担する高校もみられます*

大人優先、日本の断熱事情

「暑くて寒い教室」には、日本の住宅事情が関係しています。日本の住宅の省エネ基準は他国と比べて後進的です。さらに、その不十分な省エネ基準も学校には適応されてきませんでした。学校の断熱改修が国主導で行われたことはこれまで例がありません。多くの市民の後押しがあり、2025年度からはすべての新築の住宅に、一定の「断熱基準」を守ることが義務付けられますが、この基準も既存の学校には適応されません。

そもそも、オフィスなど、大人が働く環境の室温には規定があります。事務所衛生基準規則によって1972年に「17℃以上、28℃以下」、2022年の改正後には「18℃以上、28℃以下」という基準が定められており、違反すれば、法人と代表者は罰則を科される可能性があります*

日差しが差し込む教室

一方、学校はというと、2018年までの文部科学省が設置した基準は「10℃以上、30℃以下が望ましい」と、オフィスの室温に比べて倍にもなる幅が持たされています。さらにこれは努力目標であるため、実質教室室温の規定はないも同然でした。前述の通り2018年に「17℃以上28℃以下」、2022年に「18℃以上28℃以下」にと基準値が変更されましたが、この数字は依然として努力目標にすぎません。

35℃を超える教室

実際の例を見てみましょう。東京大学の前真之准教授が、さいたま市の小学校の最上階でおこなった計測では、設定17℃でエアコンをフル稼働させた教室の室温が35℃を超えていました。日射熱で高温になった屋根の熱で、天井の温度は42℃に達し、窓際の気温も非常に高くなっていることがわかります。

東京大学、前真之准教授の発表資料
東京大学、前真之准教授の発表資料より。解説動画はこちら

適切な断熱改修を施した場合の効果は歴然です。同じく前真之准教授の計測では、断熱改修前に32〜36℃が計測されていた教室が、窓を遮熱し、天井を断熱したところ26〜28℃まで下がっていました。

断熱改修前と後

問題は夏場だけではありません。2016年に実施された首都圏の小学1〜6年生の児童と保護者300組を対象にした調査では、74.3%の子どもが、暖房環境のある学校で寒さを感じていることがわかっています*

学校からの声

教育現場からは悲鳴のような声が聞こえてきます。夏季は高温多湿、冬は非常に寒く乾燥傾向の太平洋岸式気候に分類される愛知県春日井市では、市立中学校の先生が「冬場、生徒は寒さのためウインドブレーカーを着用したまま授業を受けている。夏は集中するのが難しく、耐え難い暑さ」と話します。

教室の様子

同校からは、そのほかにも教室の温度について以下のような証言がありました。

<冬>

・生徒はコートやウインドブレーカーを着用して授業を受けている

・エアコン1台の稼働では教室全体が暖まらない

・授業や試験の直前まで手袋をしたままの生徒が見られる(授業中は禁止)

・ホッカイロを使う生徒が多い

・制服の下にセーターを着るなど、服装で調節している

・タイツがOKになるなど、校則が変更された

<夏>

・4階(最上階)は、屋上からの熱で、まったくといっていいほどエアコンが効かない

・暑すぎるため、設定温度を下げたいが、エアコンのモーターが稼働しなくなってしまう

・熱中症対策のためにスポーツドリンクを許可するようになった

・生徒は登校するとすぐに体操服に着替えている

・職員室も教室と同様に暑いため、ファン付きベストやハンディファンを使う先生もいる

・生徒はファンの使用が許されていないため、タオルなどの冷感グッズを使っている

・生徒も先生も汗をかきながら授業をしており、集中するのが難しい

・「帰りたい」という生徒もいる

・夏は冬場と違って服装での調節ができないからより厳しい

大人は何ができる?

すべての大人たちが、こうした状況に手をこまねいているわけではありません。2019年以降、学校教室を断熱するための取り組みが各地で始まっています。

断熱の重要性について知る人がまだまだ少ないこともあり、国が主導するかたちでの本格的な学校断熱の取り組みはまだ行われていません。しかしその中で、教室をDIYで断熱改修する取り組みが各地で開催されています。中には子どもたちが主体となって行われたワークショップもありました。

また、グリーンピースに事務局を置く「ゼロエミッションを実現する会」の横浜のチーム「ゼロエミ横浜」は、全国から教室の断熱改修を求める署名26,816筆を集め、文部科学相に提出しています。

文科省は2013年度に開始した、学校の改修費の3分の1を補助する交付金(学校施設環境改善交付金)を断熱改修にも使えるとしていますが、耐震改修や老朽化による不具合の修繕が優先され、断熱にまで手が回っていないのが現状です。しかし、現在小中高等学校では毎年5000件*前後の熱中症が発生し、死亡事故も報告されています。これ以上子どもの学習環境を後回しにすることはできません。

学校の管理下における熱中症の発生状況
文部科学省「学校における 熱中症対策ガイドライン作成の手引き」より

学校の断熱化を地域の人々やボランティア任せにせず、緊急事項として予算を取って取り組む必要があります。子どもたちが長く時間を過ごす学校の断熱は喫緊の課題です。

(学校へ通う児童と保護者のみなさま、教員の方へ向けたアンケートです)

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