ロンドンでの国際女性ストライキに参加するFALA(ラテンアメリカ・フェミニスト会議)のメンバー

2023年10月11日は国際ガールズ・デーです。この日は、性別や年齢、居住地域など、女の子たちが押しつけられる格差や問題に焦点をあて、その解決にむけて世界各国が取り組む日として国連によって定められました。ジェンダーの不平等に関係のない人は世界に1人もいません。誰もが当事者であるもう一つの問題が気候です。気候とジェンダーについてを考えます。

▼この記事を読むとわかること

> フェミニズムと環境保護活動の繋がり
> 気候変動とジェンダーは同じ搾取構造のもとにある
> 利用されるフェミニズムとエコロジズム
> フェミニズムと気候活動は繋がっているし、もっと繋がることができる
> 「私たちの武器は連帯だ」

フェミニズムと環境保護活動の繋がり

「フェミニズムと気候活動は繋がっている」

こう聞くと不思議に思う人は多いかもしれません。でも実は、フェミニストと気候活動家は、繋がっているどころか、同じであるとすら言えるかもしれません。

国際女性デーのマーチに参加するグリーンピースのメンバー
国際女性デーのマーチに参加するグリーンピースのメンバー。スローガンは「気候正義、ジェンダーの正義」(2019年3月)

フェミニストは、フェミサイド*1やDVや性加害といった女性への暴力、ミソジニー*2、機会の不均衡、押し付けられる役割といった女性差別に反対しています。ですので、気候変動が女性差別を含む不平等を深刻化させることは、無視できない重要な事実です。しかし、フェミニストが気候のために活動する理由はそれだけではありません。

*1 女性であることを理由に引き起こされる殺害。
*2 既存の男性優位なジェンダー勾配を維持、強化しようとする価値観や意識。女性を劣った存在と位置付けたり、役割や振る舞いを押し付けたりするほか、枠を守ろうとする女性へは賞賛や崇拝といったかたちでも発露する。

フェミニストの活動に自然環境ための行動が含まれるのは、人間による自然支配と近代社会による女性支配が同じ構造のもとで行われているからです。

フェミニズムが、フェミニストの人生にもたらしたものは人によって違います。しかし、「当たり前」とされてきた何かが間違っていたら、別の選択肢(例えば新しい家族のかたち、再生可能エネルギー、プラントベースの食生活など)が、そこにあると気づかせてくれるのがフェミニズムです。フェミニストは、ずっと当たり前とされてきたことに立ち向かうことができます。

気候変動とジェンダーは同じ搾取構造のもとにある

二つの問いについて考えてみます。

まず一つ目は、「どうして自然環境はこれほど破壊されてしまったのか」。そして、もう一つは「どうして女性は、女性であることを理由に命を脅かされたり、入試不正に代表される機会の不均衡など、根深い差別に晒されているのか」。

いろんな女性のイメージ
東京医科大の大学入試で、女性の合格者の数を意図的に抑える不正が行われていたことが2018年に発覚した

自然は近代社会でコストのかからない資源として利用されてきました。人は森を切り拓き、化石燃料を掘り出し燃やし、空気と水を汚染して、生産効率を爆発的に上昇させてきました。その速度と規模は今も勢いを増し続けています。

一方、女性は「社会的再生産労働」と呼ばれる育児や料理、掃除、出産、介護といった労働、負担、役割を、長きにわたり割り振られてきました。そして、それらの労働や役割は無賃金であること自体を理由に軽視され、それを根に女性差別が社会にはびこりました。

ワシントンDCでの化石燃料集会で息子を抱いてスピーチするルカジ王女。採掘の影響を受ける地域の人々を代表し国に採掘加担をやめるよう呼びかけた(2015年9月)

自然が完全に壊れてしまった地球で生きられる人間などいないのに、自然は近代社会で人間の経済活動や利便さよりも低い位置に置かれてきました。同じように、ケアを受けずして大人になれる人間はこの世に一人もいないのに、出産や家事、育児のことを有償労働に比べて取るに足らない仕事かのように考える人が少なくありません。

二つの問いに共通するのは「フリーライド(ただ乗り)」です。私たちが生きる近代社会は、これまで自然とケア労働の価値を否定しながら、それに依存することで急激な発展と成長を遂げてきました。フェミニズムが、変化させようとしているのはこの搾取の構造です。

利用されるフェミニズムとエコロジズム

この搾取は、長い間当然のこととして行われてきてしまったため、その実態も不平等さも見えにくくなっています。そのために、「そもそも(気候変動が、または女性差別が)本当にあるのか?」と疑問を持つ人が少なからず存在するという点でも、残念ながら両者は共通しています。

行き過ぎた資本主義は、経済や利便さがこれまで通りに維持できる範囲に限定された、経済的利益を生み出すために使われるまやかしのエコロジズムをつくり出してしまいました。グリーンウォッシュ*3はその最たる例です。

スウェーデンのウプサラで計画されている精製事業者プリームの製油所拡張に反対する抗議行動をするグリーンピース・スウェーデンの活動家
スウェーデンのウプサラで計画されている精製事業者プリームの製油所拡張に反対する抗議行動をするグリーンピース・スウェーデンの活動家。ガソリンスタンドの前で「グリーンウォッシュに注意」と書かれた看板を立ててパフォーマンス

*3グリーンウォッシュとは? 

フェミニズムも同様に資本主義との隷属的な関係を強いられてきました。家父長制を侵害することなく謳われるフェミニズムにスポットライトがあてられ、家事や育児をしながら働く主婦を指して「女性の社会活躍」とするなど、結局は一家庭における労働時間を増やすことに加担させられたのです。

市場経済に巻き込まれたエコロジズム、資本主義に取り込まれたフェミニズム、そのどちらもが搾取の上にしか成り立たない社会構造を変える必要性を証明しています。自然は私たちを儲けさせるためにあるわけではないし、家族や家庭は国を繁栄させるための容れ物ではありません。

フェミニズムと気候活動は繋がっているし、もっと繋がることができる

よくある誤解ですが、フェミニストは搾取によって一部の者に富を集中させる仕組みの中で自分たちのパイを取ろうとはしていません。このままの社会で女性の権利や地位を向上させても、構造に搾取があれば問題が解決したことにはならないからです。

「金曜日のFire Drill(消火訓練)」に、ハート上院議員会館内の広間を占拠する俳優のジェーン・フォンダや活動家たち
俳優のジェーン・フォンダや活動家たちは、「金曜日のFire Drill(消火訓練)」に、ハート上院議員会館内の広間を占拠して逮捕された。この日までにジェーン・フォンダはすでに4週連続で、毎週金曜日の抗議行動によって逮捕されている(2019年12月撮影)

世界を変えるフェミニズムがやろうとしているのは、これまで資本主義が利益を得つつも対価を支払うことなくきたものについて、社会全体の認識を変化させること。つまり、「人間にとって出産、家事、育児、介護とは何なのか」、そして「地球にとって自然環境とは何なのか」といった認識をまったく新しくさせることだといえます。

その先にある世界では、誰も何も搾取されず、人間も自然も利用するべきものとしてではなくそこにあり、経済は公正に回るようになるのです。

「私たちの武器は連帯だ」

1%の富裕層ではなく、「99%の私たち」のためのフェミニズムについて書かれた素晴らしい本『99%のためのフェミニズム宣言』で、著者たちはフェミニズムの目指すところを以下のように述べています。

「私たちのフェミニズムは大多数の要求と権利を擁護する。ここで言う大多数とは、貧しい女性たちであり、労働者階級の女性たちであり、人種化された女性たちであり、移民の女性たちであり、クィアやトランスジェンダーの女性たちであり、障害を持つ女性たちであり、資本に搾取されているにも関わらず、『中産階級』の自負を抱くよう促されてきた女性たちである。

しかしこれだけではない。このフェミニズムは、これまで定義されてきたような『女性の問題』のうちに留まることはない。搾取され、支配され、抑圧されてきたすべての人々のために立ち上がることで、人類全体の希望の息吹になろうとするものである。私たちが99%のためのフェミニズムと呼ぶのはそのためだ」

『99%のためのフェミニズム宣言』シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー著

チリのサンティアゴで行われた国際女性デーを記念するマーチ
チリのサンティアゴで行われた国際女性デーを記念するマーチ。グリーンピース・チリのメンバーが、何千人もの女性たちとともに行進に参加(2020年3月)

フェミニストはケア労働の位置付けの見直しを求めます。
環境の公正さ、クリーン・エネルギーを使う権利を求めます。
子どもや若年者の権利の侵害、人種差別や外国人差別、性的マイノリティ差別、ジェンダーマイノリティ差別、戦争、植民地主義に反対します。

この日に、未来について考え、連帯しましょう。連帯できることこそ、私たちの最大の武器です。

環境のために行動する人がフェミニストであること、そしてフェミニストが環境のために行動することが当然であるのは、これからの未来を地球の上で生きていく女の子たちの存在が証明してるのですから。

(2022年10月11日公開記事を再編)

参考:
書籍「99%のためのフェミニズム宣言」シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー共著
プラン・インターナショナル 国際ガールズ・デー(10月11日)
Nancy Fraser「How feminism became capitalism’s handmaiden – and how to reclaim it
ナンシー・フレイザー「フェミニズムはどうして資本主義の侍女となってしまったのか」 おきく’s第3波フェミニズム(菊地夏野)
エコロジカル・フェミニズム再考──「オルタナティブ」を実践するために 栗田隆子