カリフォルニアのマテル本社の前で、バービーに扮してアクションするグリーンピースのメンバー
カリフォルニアのマテル本社の前で、バービーに扮してアクションするグリーンピースのメンバー。アメリカ(2011年6月)

『バービー』と『オッペンハイマー』をかけ合わせた「バーベンハイマー」のミーム画像が物議を醸すなど、話題となった『バービー』が8月11日に劇場公開を迎えました。映画未公開の時点で紛糾してしまった「バーベンハイマー」の問題点とは? そして、正反対の2本の映画を環境問題の視点で読み解いてみます。

▼この記事を読むとわかること

> 「バーベンハイマー」何が問題なの?
> 『バービー』:森林伐採とプラスチックとの長い歴史
> バービーだけじゃない、おもちゃ業界の問題点
> 『オッペンハイマー』:熱に浮かされた夢の先に潜む核兵器の恐ろしさ
> 核兵器のない世界への一歩
> ハッピーエンドはどこにある? 私たち全員が幸せに暮らす未来のために

「バーベンハイマー」何が問題なの?

全米で7月21日に同日公開された対照的な2本の映画『バービー』と『オッペンハイマー』が、現地を中心に「バーベンハイマー」ミーム(SNSからインターネットを通じて模倣され、爆発的に広がっていく一種の「ネタ」のこと)となってSNSを賑わせました。

「バーベンハイマー(Barbenheimer)」のイメージ画像

ミーム画像の数々で、原爆を想起させる表現がおもしろおかしく消費的に扱われており、日本ではこうした画像に批判が集まっていました。そんな中、X(旧Twitter)の『バービー』米公式アカウントが画像の一部に好意的に反応したことで、日本では「#NoBarbenheimer」のハッシュタグを生むほどに「バーベンハイマー」が紛糾する事態に。日本の配給会社から公式声明が発表され、その後、米配給からも謝罪のコメントが出されています。

「バーベンハイマー」は、もともとは米俳優組合ストライキやコロナ不振にあえぐハリウッドに差し込んだ二筋の光のような映画の対比現象を名付けたもの。「バーベンハイマー」の日本での紛糾はアジア人蔑視、歴史観、ミームの広まり方、映画の宣伝方法まで、さまざまな論点を含んでいます。

映画の内容やメッセージとは関係の薄いこうした要因が、日本未公開の時点で、パワフルな2本の映画をネガティブに騒動化させたことは日本の映画ファンにとって、少なからず残念なことですが、「バーベンハイマー」から考えることができる問題は騒乱から離れたところにも多くあります。

※以下の記事は映画のストーリーにかかわる軽いネタバレを含みます。お気をつけください。

『バービー』:森林伐採とプラスチックとの長い歴史

『バービー』は、れっきとしたフェミニズム映画です。俳優のマーゴット・ロビー演じる主人公のバービーが「死」について考え始め、それをきっかけに完璧だった世界のすべてがうまくいかなくなる様子はとてもユーモラスで、感動的です。バービーは、自分の人生に疑問を持ち、「現実世界」ロサンゼルスへと旅に出ます。

現実世界のバービーは、60年前にマテル社から発売されたプラスチック製の人形です。マテル社によれば、毎年5,800万体、1分間に約100体のバービー人形が150カ国の人々に販売されているといいます。ガーウィグのバービーは使用期限切れ(バービーにとっての死)を心配するかもしれませんが、現実世界のバービーは、埋め立て地に紛れ込んだり、ゴミ捨て場に捨てられたりしながらも、永遠に生き続ける可能性が高いのです。

ヨハネスブルグのプラスチックごみ捨て場に捨てられた人形
ヨハネスブルグのプラスチックごみ捨て場。南アフリカ(2022年2月)

バービーは長い間プラスチックと切っても切れない関係にありました。それでも、激しい反対運動をうけて、森林伐採には加担しないという決断をしています(非現実的なボディ・イメージの助長や、ジェンダーのステレオタイプ、ありもしない美の基準の拡散、有色人種の排斥といった過去のことはとりあえずは置いておくとして……)。

グリーンピースの調査員は、おもちゃメーカーであるマテル社が、パッケージにインドネシアの熱帯雨林の破壊で摘発されたアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)の資材を使用していることを突き止めました。

カリフォルニアのマテル本社の前で、バービーに扮してアクションするグリーンピースのメンバー
カリフォルニアのマテル本社の前で、バービーに扮してアクションするグリーンピースのメンバー。アメリカ(2011年6月)

マテル社はその後、森林破壊に関連した素材をパッケージに使用しないことを約束しています。これは世界最大の熱帯雨林を脅かし続けているパルプ・製紙企業に変化をもたらす歓迎すべき選択でした。

2011年にグリーンピースが製作した動画。バービーを製造するマテル社が熱帯雨林の破壊を引き起こしていることを表現している。

バービーだけじゃない、おもちゃ業界の問題点

バービーと「プラスチック 」の望ましくない関係は今も大きな問題です。2014年の国連環境計画の報告書によると、おもちゃ業界は他のどの部門よりも、実際の製品に使用するプラスチックの量が多いとされています。

2022年、アメリカの研究者たちは、バービー人形1体あたりが気候に与える損害コストを数値化しました。プラスチックの生産、製造、輸送などで、182グラムのバービー人形1体あたり、約660グラムの炭素排出に寄与していることがわかっています。

ジャカルタの大手スーパーマーケットで販売されているバービー人形
ジャカルタの大手スーパーマーケットで販売されているバービー人形。インドネシア(2011年6月)

プラスチックの99%は、採掘されたガスや石油などの化石燃料から作られているということはあまり知られていないかもしれません。プラスチックは偽装された化石燃料なのです。プラスチックは、製造から廃棄までのライフサイクル全体を通じて気候変動の原因の一つとなっています。

グリーンピースは、今まさに内容が話し合われているプラスチック条約に、新しくつくられるプラスチック生産の段階的廃止を含む、プラスチック生産の制限と段階的削減を求めています。

『オッペンハイマー』:熱に浮かされた夢の先に潜む核兵器の恐ろしさ

1920年代後半、J・ロバート・オッペンハイマーは、アメリカを離れてヨーロッパに留学した有望な物理学者のひとりでした。彼はすぐに量子力学に熱中し、静寂の中で、原子、物質、宇宙線、そして核崩壊といった世界に没頭するようになりました。

映画「オッペンハイマー」のイメージ画像

研究に没頭するオッペンハイマーは、自分が原子爆弾の製造に貢献し、何十万人もの死者を出すことになるとは思いもよりませんでした。これまでに作られた中でも、最も破壊的な兵器を生み出してしまったにもかかわらず……。

核兵器のない世界への一歩

2021年1月、国際社会は大きな節目を迎えました。「核兵器禁止条約」が国際法として発効されたのです。この新しい条約は、世界のリーダーたちの言い訳(「核兵器は安全保障をもたらすための合法的で有用な手段だ!」)を許しません。核兵器禁止条約は、核兵器に反対する世界的な基準を作り出し、核兵器のない世界へと導いてくれるでしょう。

広島市への原爆投下による被害を悼み、ライプツィヒの市街地図に、原爆の被害域を書き込むグリーンピースのボランティアグループ
広島市への原爆投下による被害を悼み、ライプツィヒの市街地図に、原爆の被害域を書き込むグリーンピースのボランティアグループ。政府に核軍縮を呼びかけた。ドイツ(2021年8月)

「世界中の指導者は核抑止論は破綻しているということを直視し、具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」

2011年から広島市長を務める松井一実氏による、78年目となる今年の原爆の日(8月6日)に行われた平和宣言です*

核兵器を廃絶することが、核兵器が決して使用されない唯一の保証であることは明らかです。原発と核兵器は表裏一体。すべての核の脅威をなくすためには、その両方を段階的に廃絶することは欠かせません。

ハッピーエンドはどこにある?

気候変動、不平等、脅かされる健康……。こうした危機を乗り越えて、いつまでもずっと、幸せに暮らしていくことのできる未来、最高のハッピーエンドを迎えるために、私たちはどうすればいいのでしょう。

原爆投下から60年となった2005年に、平和の鳩を飛ばすグリーンピースのボランティア
原爆投下から60年となった2005年に、グリーンピースのボランティアが平和の鳩を飛ばした。広島市(2005年8月)

危機に立ち向かうやり方はひとつではありません。「貪欲さ」がひとつの原動力になることは間違いないでしょう。しかし、同じ貪欲さでも、企業利益の追求やエリートの成果主義よりも、人々と地球を優先する持続可能で公平な未来を「貪欲に」求めることこそが必要です。それは可能なことです。

より良い世界は、確かに私たち全員の手の届くところにあります。

私たち全員が幸せに生きる未来のために

グリーンピース・インターナショナルの記事の翻訳をもとに、加筆および編集

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