台湾のスーパーマーケット。2022年6月。
台湾のスーパーマーケット。2022年6月。

地球は今、3つの大きな危機に直面しています。それは急激に進む気候変動による気候危機、過去50年ほどの間に著しく進行している生物多様性の喪失、海洋、水質、大気などに代表される環境の汚染です。
実はプラスチックは、この3つの危機すベてに悪い影響をもたらしているのです。

▼この記事を読むとわかること

> 世界と日本のギャップ リサイクルでプラ問題は解決しない
> プラスチックとはそもそもなんなのか
> プラスチックが拡散する環境ホルモン
> 体内で炎症を起こすマイクロプラスチック
> リサイクルにはエネルギーが必要
> 「蛇口」を締める

*市民環境フォーラム第14回「ヒトへの健康影響とリサイクル幻想:プラスチック削減の必要性」(2023年3月13日開催)での、東京農工大の高田秀重教授のお話より

世界と日本のギャップ リサイクルでプラ問題は解決しない

ケニア、ナイロビのごみ捨て場。各国からリサイクル材として輸出されてきたごみが山積みされた集積所では、有毒なガスが発生し火災が頻発、ごみにたかる虫を食べる鳥や、ごみの中から売れるものを探す人々も集まる。2022年4月。
ケニア、ナイロビのごみ捨て場。各国からリサイクル材として輸出されてきたごみが山積みされた集積所では、有毒なガスが発生し火災が頻発、ごみにたかる虫を食べる鳥や、ごみの中から売れるものを探す人々も集まる。2022年4月。

なぜプラスチックは世界的に問題視されているのでしょうか。
日本では、リサイクルでの対策に力を入れようとする動きがあります。

3月21日にオーストラリアのNGOミンデル財団から、プラスチック関係の研究者を集めて、1年の間に行われた研究をまとめたレビューが発表されました。レビューの中心は世界的なプラスチック条約の必要性、その中で生産に対する制限を設け、いつまでにどれくらい減らすのかを決めなければならない、ということが中心になっています。

その理由として、人体への影響が挙げられます。

プラスチックとはそもそもなんなのか

プラスチックというのはポリエチレン、ポリプロピレン、塩ビ、ポリスチレンなどのポリマーから構成されています。ポリマーだけではプラスチックの性能は維持できないので、製品プラスチックには必ず添加剤が加えられています。

香港、ファストフード店で提供される使い捨てプラスチック容器の例。2018年11月。
香港、ファストフード店で提供される使い捨てプラスチック容器の例。2018年11月。

ポリマー添加材加工助剤(Processing aids)と呼ばれる加工のための助剤や、反応を開始させる、あるいは反応終了させるための薬剤、反応して残ったもの「モノマー」も入っています。

添加剤一つとっても、酸化防止剤、紫外線吸収剤、プラスチックを柔らかくする可塑剤、熱が加えられるところに使われるプラスチックについては難燃剤と、色々な種類の添加剤が加えられて初めてプラスチック製品というものが成立しています。

つまり、ポリマーだけ何とかすればいいという問題ではなくて、プラスチックに含まれている添加剤や加工助剤も含めて考えるというのが世界的な流れです。

プラスチックが拡散する環境ホルモン

プラスチック製品35品目について調べたところ、毒性を持ったもの、環境影響、人への影響を持った物質が複数含まれています。
一つひとつの検出頻度は決して高くないんですが、ホルモンの受容体との結合能をもつもの(環境ホルモン)は100種類近くあって、ほとんどすべてのプラスチックから何らかの環境ホルモンが出てきます。

プラスチックごみが管理の流れを外れて環境に出て、海水や河川に流出します。
プラスチックは紫外線によって劣化します。劣化すると添加剤が水に溶出する。
あるいは、劣化して微細化して生物の体内で濃縮されて、最終的には人間に曝露されやすくなる。マイクロプラスチック化することが人への添加剤の曝露を促進しています。

東京農工大 高田秀重教授資料より。魚の体内にプラスチックに含まれる化学物質が蓄積する。
東京農工大 高田秀重教授資料より

プラスチックの生産から廃棄までの間に関係する化学物質が約1万種あるんですが、それを毒性、あるいは環境残留性などを調べていきますと、問題になる物質が2,400見つかったと報告されています。

自動車のタイヤに含まれる酸化防止剤6PPDが、タイヤの摩耗によって川に流入して溶け出して、環境中で6PPDキノンに変成したものが、急性毒性を及ぼして魚が死んでしまうということも起こっております。

プラスチックのレジンペレット(注:プラスチック製品の中間原料となる数ミリ大のプラスチック粒)中に含まれる、紫外線吸収剤ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が、南極とオーストラリアの間の無人島などの、人が住むところから何百キロ何千キロも離れたようなところからも見つかっています。

だから、国際条約が必要だと思います。

体内で炎症を起こすマイクロプラスチック

魚の体内から見つかったマイクロプラスチック。2015年5月。
魚の体内から見つかったマイクロプラスチック。2015年5月。

海のプラスチックの一番の問題は、海の生物が取りこんでしまうことです。東京湾のカタクチイワシからマイクロプラスチックが見つかったということは皆さんもご存知だと思います。多摩川の河口のハゼなどの小さな生物からも、マイクロプラスチックが見つかっています。

人間の体内、消化器系からのマイクロプラスチックの検出の報告もあります。中国での報告例ですが、人間の糞便中からマイクロプラスチックが検出されています。

人の胎盤からマイクロプラスチックが検出されたこともあり、循環系にマイクロプラスチックが入り込んでいることが明らかにされています。どんな影響があるのかというと、マイクロプラスチックは生物にとっては物理的な異物ですので、炎症などが発生するということになってきます。

東京農工大 高田秀重教授資料より。腸に炎症を起こした患者の体内からマイクロプラスチックが発見されている。
東京農工大 高田秀重教授資料より

先ほどの中国での報告例ですが、健康な方と炎症性の腸炎の患者さんに分けて比較してみると、炎症性の腸炎の患者さんの方がマイクロプラスチックが糞便中に多く存在するだけでなく、炎症性の腸炎が重症化すればするほど、マイクロプラスチックの数が多くなるということで、マイクロプラスチックの存在と疾患に相関関係があることがわかってきました。

リサイクルにはエネルギーが必要

そういうプラスチックを大量に使って、リサイクル効率を上げれば解決するのかどうか。プラスチックが、そもそもリサイクル困難な素材であるということを認識する必要があります。

なぜリサイクルが困難かというと、プラスチックに汚れや臭いが染み込んで、取り除くにもエネルギーも必要です。リサイクルしにくいものを無理にリサイクルするわけですから、エネルギーがかかります。

リサイクルすればするほどエネルギーがかかり、結果として温暖化が進んでしまうということになってしまいます。リサイクルが環境に優しいとは考えないでほしい。

従来のリサイクルだと、ペットボトルを1本作ってリサイクルするとエアコンを30分使用したのと同じCO2が発生していました。水平リサイクルは原料調達に伴うエネルギー消費を抑えることはできますが、決してゼロではないし、その他の輸送や包装でもエネルギーがかかりCO2が発生し、それはエアコンを20分使用したのと同じことになります。

エコだと騙されて水平リサイクルのペットボトルを買うと、温暖化に荷担してしまいます。広告やラジオに騙されないでほしい。リサイクルにも手間もエネルギーもかかります。

このように、プラスチックの大量消費大量リサイクルというのは、決して持続可能な方法ではありません。

温暖化の問題、我々の健康の問題考えれば、決して持続可能な方法ではないので、そもそもプラスチックの使用量自体、減らしていかなければいけないと思います。

「蛇口」を締める

使い捨て容器を使用しない買物用容器。2022年2月。
使い捨て容器を使用しない買物用容器。2022年2月。

日本学術会議では「現状では何にどういう添加剤が含まれているかわかりませんので、予防原則的な観点から、とにかくプラスチックごみの排出量の抑制をしていく必要がある」という提言を、世界に先駆け2020年に出していますが、残念ながら政策に生かされていない。

そして世界にそれに追いつき、追い越し、国際的にはプラスチックの使用自体を減らしていきましょうということになってきています。日本政府は置いてけぼりになっています。

リサイクルする量が増えてしまっては、人の健康も守れないし、温暖化も抑止できない。

廃棄物管理をしっかりするといっても、埋め立ても焼却も解決策として限定的であるとすると、結局は「蛇口」を締めていかなければ、海に流れるプラスチックをゼロにしていくことはできない。プラスチックの生産量自体、減らしていかなければいけないというのが今日の結論となってきます。

どうしてもプラスチックが必要ならば、バイオマスからつくるしかないんですが、いまと同じ量つくれば、当然森林破壊が起こってしまって逆に温暖化が進んでしまうということになります。すなわちプラスチックの使用量の大幅削減が必要になってくる。

プラスチックの素材を変える、プラスチックを別のスタイルに変えるということではない解決の方向をみつけることが重要だと思います。

「国際プラスチック条約」で
使い捨てにさよなら

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