水没しているたくさんの車
©️Greenpeace

気候変動対応の一環として、近年、世界各国の政府が交通分野の脱炭素化を進めるために新たな政策や方針を打ち出しています。米国では、昨年成立したIRA(インフレ抑制法)によってEV(電気自動車)補助が拡充され、国内における普及を促進しています。欧州連合(EU)は、2035年にガソリン車の販売を原則として終了する方針です。中国政府はこれまでバッテリー開発に潤沢な補助金を提供してきており、2023年にはBYDなどの国産EVメーカーの販売量が外国ブランドを上回る勢いです。

気候変動への危機感は、自動車産業に大きな転換と変革を促しています。世界最大の自動車メーカーであるトヨタももちろん、これまで環境に配慮するための様々な取り組みを行ってきました。一方で、株主は、より野心的な気候変動対応を求めるようになっています。今年4月に就任した佐藤社長がいかにリーダーシップを発揮して株主を安心させられるか、注目が集まっています。

▼この記事を読むとわかること

> 1. 気候変動対応に関する投資機関の懸念の声の高まり
> 2. 主要市場での電動化対応の遅れ
> 3. 気候危機によって高まる財務リスク
> 投資家は何ができるでしょうか?

1. 気候変動対応に関する投資機関の懸念の声の高まり

本年5月、トヨタに対して、Kapitalforeningen MP Invest、Storebrand Asset Management AS、およびAPG Asset Management N.Vという欧州の3つの投資機関が共同で気候変動政策に関する活動について定款変更を求める提案を出していたことがニュースになりました。この提案は、トヨタによる気候変動に関するロビー活動が同社にもたらすリスクを減少させることにどのように寄与しているのか、また、その活動がパリ協定の目標年および2050年カーボンニュートラル実現という同社の目標と整合しているかにつき、毎年包括的に評価し、報告することを求めるものです。

また、5月末には、米国の株主議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が上記の提案について賛成することを推奨する姿勢を示しました。時期を同じくして、別の助言会社であるグラスルイスは、グラスルイスが独立していると認める取締役の数が少ないことを理由に、豊田章男会長の取締役選任議案について反対を推奨しています。その後もやはりトヨタの株主である複数の世界の大手年金基金が同会長の再選に反対票を投じたことが報じられました。

これらの一連の動きは、トヨタが気候変動に対応するための積極的な政策立案や実施を遅らせる政治的な働きかけを行っていること、それについて機関投資家や助言会社が疑問視していることを浮き彫りにしています。

2. 主要市場での電動化対応の遅れ

米国では、ガソリン車から電気自動車(EV)への移行が進んできています。本年1月時点で、新規自動車登録台数に占めるEVの割合は7%を超えました。しかしながら同時期にトヨタの市場シェアは低下しています。バイデン政権は昨年8月に再エネ拡大支援として気候変動対応のための大規模なインフレ抑制法(IRA)を採択しました。このなかにはEV普及推進を目的とした米国内で組み立てられたEV車両への補助金も組み込まれています。また同政権は、2030年までにEVの販売シェアを50%にすることを目指しています。さらに、本年4月には環境保護庁(EPA)が温室効果ガスと大気汚染物質の排出基準に関する規制案を新たに打ち出しており、この新基準は、EV化を避けていては満たすことができないであろう内容となっています。

欧州は、世界のなかでもEV販売を先導してきた市場です。2022年における新規登録車のうち、ガソリン車およびディーゼル車の割合はわずか52.8%で、ハイブリッド車の成長は鈍化、バッテリー電気自動車(BEV)は29.3%を占めるまでに上昇しています。とりわけ、ノルウェーでは、新車販売の約8割がEVとなったほか、これまで普及が比較的遅かった英国でも同年のEVの割合は16.5%に達しました。欧州では、ダイムラー社がEV製造を中心にした戦略を取ってきているほか、フォルクスワーゲンも2030年の新車販売台数の5割をEVにするという目標を発表しています。一方、トヨタは欧州で販売するEVモデルを増やすことを発表しているものの、現在購入できるEVはbZ4X、1モデルにとどまっています。

お隣の中国でもEVが急速に普及しつつあり、2022年の乗用車販売の25.6%がEVとなったほどです。国内のEVメーカーも急速に成長し、モデル、販売台数いずれも増加しています。このように中国メーカーの市場シェアが拡大するにつれて、トヨタを含む外国メーカーは劣勢になるという見方もあります。新規登録台数でみれば中国は今や世界最大の自動車市場です。同国でのEVシフトは、ガソリン車の需要の低下につながり、多くの外国メーカーが大幅な遊休生産設備を抱えることになる可能性も出てきました。仮に2030年までに中国の車両の70%がEVを含む新エネルギー車両になった場合、トヨタのガソリン車生産設備の稼働率は44%まで下がる、つまり、5割以上の生産設備が座礁試算になると算出されています。

他の主要メーカーとは対照的に、トヨタはガソリン車の販売終了時期や市場ごとのEV販売数・割合を明示してきていません。

充電中のEV車両
中国は世界のEV販売を支配する最大の自動車市場です。 ©️Greenpeace

3. 気候危機によって高まる財務リスク

気候変動の深刻化と企業の事業活動の財務リスクの関係も最近話題になることが多くなってきました。地球環境の悪化によって、市場や社会も激変し、それによって資産の価値が毀損する可能性が指摘されています。特に最近注目されているのは石炭、石油、天然ガスなど化石燃料資産ですが、自動車産業にも当てはまる点があります。地球の平均気温を2℃以下に抑えるために、再エネの普及が進められていますが、その結果、化石燃料資産の約8割が座礁するという試算もあります。これらのリスクは投資家にも大きな影響を与えることになります。

2022年にグリーンピースが実施した調査では、地球の気温上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定を守る、という前提に立つと、フォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズ、トヨタ、ヒュンデの自動車会社4社の生産計画と照らし合わせた際に過剰生産が起きる可能性があることが判明しました。

さらに、生産設備そのものが気候変動の直接的影響を受ける状況もすでに発生しています。昨年8月に中国で発生した記録的な高温によって広範囲で停電が発生、トヨタを含む企業が製造活動を停止しなければならない状態に置かれました。高温のほか、洪水や台風によって生産設備が物理的損害を受ける可能性もあります。グリーンピースは、2022年にムーディーズESGソリューションが出しているデータをもとに分析を行った結果、トヨタの生産施設の実に9割は気候変動関連の損害のリスクに晒されていることを指摘しました。このような高いリスクにも関わらず、同社の気候関連の財務リスクの情報開示は十分とは言えません。

日本で洪水によって立ち往生し、損傷を受けたトヨタの車両 ©️Greenpeace
洪水によって立ち往生し、損傷を受けたトヨタの車両 ©️Greenpeace

投資家は何ができるでしょうか?

トヨタは、現在も販売台数では世界一の自動車会社で、これまでに排出ガス抑制やハイブリッド車の先駆的な開発を通し、世界の自動車産業をリードしてきたことは紛れもない事実です。現在、同社は、EVに限定せずに多様な「環境車」を提供する「全方位戦略」で臨む姿勢を示しています。現在世界中で使用されているガソリン車が一夜にしてEVに転換することはありえないので、当面、様々なパワートレインの車両が路上を走り続けることは確かでしょう。しかし、EVの技術の進歩や価格の低下は進んでおり、生産から使用、廃棄という自動車のライフサイクルで考えれば最も二酸化炭素排出量の少ないEVを中心に据えた戦略が求められているのではないでしょうか。

6月14日に開催される年次総会において、投資家、株主は直接トヨタに気候変動対応に関するより具体的な措置を求めることが期待されています。より野心的な措置を取ることが財務リスクを減らすことにつながるのです。

株主だけでなく、気候変動を抑制するために、みなさんも私たちと共に立ち上がり、トヨタに対して以下の点について声をあげていきましょう。

  1. 2030年までにガソリン車の生産・販売を段階的に廃止する。
  2. サプライチェーンを脱炭素化する。
  3. 部品のリサイクル、再利用をより野心的に行う。
  4. 自動車産業従事者に対して公正な移行を保証する。
  5. 一家に一台、一人一台という車の使い方から脱却し、ゼロエミッションのモビリティサービス構想を描き出し実施する。

私たちの投資家向けブリーフィングの完全な文書を閲覧するには、ここをクリックしてください

続けて読む

▶︎脱炭素化でトヨタが果たす役割に強く期待ーーグリーンピース、積極的な対策求め本社前で訴え

▶︎【脱炭素】もうガソリン車は製造できなくなるって本当? 調査結果から見えた、残された生産台数

▶︎【トヨタ株主総会レポート】電気自動車(EV)化をためらうトヨタの2つの主張

参考資料:
Toyota: Opinion of the Board of Directors on the Shareholder Proposal
Reuters: ISS backs Toyota shareholder proposal on climate disclosure
Reuters: Glass Lewis recommends investors vote against Toyota chairman
Insideevs: All-Electric Car Sales Surged In January 2023 – 7% Market Share
The White House: President Biden Announces Steps to Drive American Leadership Forward on Clean Cars and Trucks
ACEA: Fuel types of new cars: battery electric 12.1%, hybrid 22.6% and petrol 36.4% market share full-year 2022
Kepler Cheuvreux: Climate change scenarios–risks and opportunities
Toyota: Battery Electric Vehicles
OFV: Bilsalget i desember og hele 2022
SMMT: Chip crisis subdues new car market but EVs now second only to petrol
KBA: Fahrzeugzulassungen im Dezember 2022 – Jahresbilanz
Marklines: Automotive sales in china by month 2022
Greenpeace East Asia: Foreign automakers on track to lose market share in China due to slow shift to EVs
Reuters: Carney backs call for climate risk to be baked into company financial accounts
OECD: Financial Markets and Climate Transition
UBS: Stranded Assets–What lies beneath
Greenpeace: The Internal Combustion Engine Bubble
Greenpeace: Toyota, Honda Top List of Carmakers Facing Climate-Change Risks
Nikkei Asia: Chongqing orders factories to shut to save power during heat wave