インドネシアの中央カリマンタンを襲った豪雨により、避難する子どもたち。1万人以上の住民が被害を受け、地域は14日間にわたって非常事態宣言が出された(2021年11月)

IPCCの最新の報告書は、人間が地球を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」としています。また、近年の気候に関する研究の99.9%が、気候変動は人間が原因であることに同意しています。

そんな中、温暖化の原因は人間ではない、深刻化する異常気象の被害と温暖化は関係がないと発信するシンクタンクに、日本を代表する大企業キヤノンが出資していることのリスクを環境NGOが指摘しました。

気候変動否定論に対して、私たちにできることとは?

▼この記事を読むとわかること

> 「気候危機は何処にも存在しない」
> 99.9%の研究が気候への人間の影響を認めている
> 気候変動の深刻さを否定するキヤノンのシンクタンク
> 温室効果ガス削減目標を引き下げるキヤノン
> 温暖化対策を遅らせるための主張
> 気候変動否定論に対して私たちができること

「気候危機は何処にも存在しない」 

「今後も緩やかな温暖化は続くかもしれない。だが破局が訪れる気配は無い。『気候危機』や『気候非常事態』と煽る向きがあるが、そんなものは何処にも存在しない

これは、キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹の一人が執筆した、2021年4月付けの雑誌記事からの抜粋です。

環境NGO・Action Speaks Louderは2022年に発表した報告書で、キヤノンがサステナビリティを掲げて動物や自然をイメージさせるブランドを築いてきた一方で、同社のシンクタンクが気候変動否定論のプラットフォームとなっていることを厳しく非難しています。

(出典:Shutterstock)

99.9%の研究が気候への人間の影響を認めている

2012年から2020年の間に英語で発表された気候に関する研究88,125件の中からランダムに選んだ3,000件を分析した調査では、気候変動が人間活動によって引き起こされていることを否定するものは4件でした。99.9%以上の研究が、人間が気候を変動させていることを認めていることになります*

この調査の共同執筆者であるコーネル大学のベンジャミン・ホウルトン(Benjamin Houlton) 教授は、

「私たちはすでに、ビジネス、生活、経済において、気候に関連した災害による壊滅的な影響を現在進行形で見てとることができ、新たな解決策を素早く導入するためには、温室効果ガス排出の影響を認めることが不可欠です」

と語っています。

また、2021年に発表されたIPCCの第6次評価報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている*とまとめられています。

九州北部を襲った記録的な大雨で浸水した地域。写真は佐賀県。温暖化によって大気中に水蒸気量が増え、大雨の際の雨量が底上げされて被害が大きくなることが指摘されている(2019年8月)

気候変動の深刻さを否定するキヤノンのシンクタンク

しかし、キヤノンが創立70周年を記念して2008年に設立したシンクタンク・キヤノングローバル戦略研究所は、気候変動は深刻な問題ではないとするコンテンツを発信しています。

キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である杉山大志氏は、人間が地球温暖化を引き起こしていることに懐疑的で、温暖化の影響も否定しています。

2022年1月に発行された著書『15歳からの地球温暖化 学校では教えてくれないファクトフルネス』では、地球温暖化は危険ではないとして、気候変動は誇張されている、気候モデルは欠陥がある、観測データは異常気象と地球温暖化の関係性を裏付けていないと主張しています*

温室効果ガス削減目標を引き下げるキヤノン

キヤノングローバル戦略研究所は、気候科学に関する誤った情報を発信するだけでなく、政策決定にも積極的に関わっています。またキヤノンの温暖化対策が、より消極的になっていることとの繋がりも懸念されます。

Transition Asiaが行った調査では、キヤノンが新たに発表した2030年の温室効果ガス削減目標は、基準年の違いとスコープ3の目標が限定的であることを考慮して算出した場合、従来の50%から約23%に大きく引き下げられていることがわかりました。この新たな目標は、気温上昇を1.5℃に抑えるために必要な水準を大きく下回っています* 

温暖化対策を遅らせるための主張

近年、気候変動否定論は、気候変動自体を否定する主張(Deny)から、温暖化の原因は人間ではない、気候変動は心配に及ばない、再生可能エネルギーは温暖化対策にならない、もう対策は間に合わないなど、温暖化対策を遅らせようとする主張(Delay)へ転換しているといわれます。

気候科学の専門家は、2030年までに温室効果ガス排出を半減させなければ、取り返しのつかない気候変動が起きると警告しています。一刻も早い温室効果ガスの大幅な削減が必要とされる今、対策を遅らせようとする主張は、気候変動を否定することと同様に危険です。

アメリカ西海岸では近年夏になると、異例の干ばつによって、森林火災が加速している(2021年8月)

気候変動否定論に対して私たちができること

キヤノンに声を届ける

報告書を作成したAction Speaks Louderは、キヤノンに対して、気候変動科学を否定する出版物の販売が停止されるまでキヤノングローバル戦略研究所への支援を取りやめること、極端な意見のためのプラットフォームに利用されることを防ぐために公開審査を行うこと、そして1.5℃目標に整合する気候政策を行うことなどを求めて、署名キャンペーンを行なっています。

気候科学の正しい見解を伝える

こちらのBBCの記事では、気候変動否定論でよく使われる主張のファクトチェックをしています。また、こちらのNewsPicksの動画では、国立環境研究所の江守正多氏が杉山氏と議論を交わしています。

グリーンピースも、IPCCの報告書でまとめられた専門家の見解や、世界で猛威を振るう異常気象のまとめなど、正確でわかりやすい情報をお届けできるように記事を作成しています。みなさんが環境問題に関するさまざまな情報を入手する一助として、ぜひグリーンピースのウェブサイトも定期的にチェックしてください。

続けて読む

▶︎国立環境研究所江守正多氏による解説 [Q&A] どうして異常気象が増えているの?

▶︎【気候変動の解決策】IPCCの最新報告書が提示する6つの「人類救済計画」

▶︎2022年に起こった世界の異常気象

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