国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)には、各国の交渉官だけでなく、若者グループや先住民族の人々、企業、NGOなど、さまざまなステークホルダーが参加しています。

グリーンピースも毎年代表団を派遣していますが、エジプトで開催された2022年のCOP27にはグリーンピース・ジャパンからもシニア渉外担当の小池宏隆(こいけ・ひろたか)が参加しました。

COPでは実際に何が起こっているのか?交渉の現場でNGOができることは?NGOとしてはじめて国連の会議に参加した小池が現地の活動で感じたことをご報告します。
COP27に参加したグリーンピース
COP27に参加したグリーンピースの代表団。左から2人目がグリーンピース・ジャパンの小池

はじめてのCOP

大学の頃から災害ボランティアや防災に携わっていたことがきっかけで国連における議論に関わり、2015年からは日本の若者が国連に関わる仕組み作りや、国際的な若者の国連参画を調整する役割などを勤めていました。その後、シンクタンクや国連において都市関連の仕事をへて、今年1月より現職につきました。

グリーンピース・ジャパンのシニア渉外担当は、「アドボカシー」ともいいますが、対外的に関係構築をしたり、国会議員や環境省などの省庁、企業に対して、政策提言活動を行ったりすることが役割です。

長く国連と関わっていますが、今年11月にエジプトで開催された気候変動COP27が、NGOとしてはじめて参加したCOPでした。

1992年のリオ地球サミットから始まった気候変動COP

リオ地球サミット
1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催されたリオ地球サミットが、国連気候変動枠組条約の起源(写真出典:SGK Planet

いわゆる気候変動COPとはフルネームで、「国連気候変動枠組条約締約国会議」です。

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、1992年に採択され94年に発行した条約で、気候危機を回避するという大きな目標に向けて、国際的な大きな方向性を作ろうというものです。京都議定書やパリ協定のように、条約の下に細かいルールを合意していきます。

現在197カ国と地域が参加していて、COPはこの条約に参加している国々による会議です。1995年に第1回目のCOPがドイツ・ベルリンで開催され、毎年開催地を地域ごとに順番に回して開催されています。

そもそもこの気候変動枠組条約は、今振り返るととても重要な年であった1992年に遡ります。

この方をご存知でしょうか?

セヴァン・スズキさんです。セヴァンさんは当時、若者の代表として、1992年のリオ地球サミットで伝説的なスピーチを行いました。いかに地球環境が重要であるかを、未来を生きていく子どもの立場から大人たちへ訴えたのです。

このリオ地球サミットで、気候変動枠組条約ができました。12月にちょうどカナダで生物多様性条約のCOPが開催されていた生物多様性条約、そしてあまり知られていませんが砂漠化対処条約、さらに国連の議論に若者、女性、地方自治体などの様々なステークホルダーが参加できるようにするための枠組みを作ったAGENDA21も、リオ地球サミットをきっかけにできました。

様々な重要なプロセスがこの年から始まりました。

朝は早くて夜は遅いCOPの一日

エジプトで開催された2022年のCOP27では、私は11月11日に現地に入って、20日の最終日まで参加しました。

COP27は、人生初のCOP、しかも様々な役割を同時にこなしながらのCOPだったので、非常に大変でしたが、大変勉強になりました。

グリーンピース代表団の一日は、朝は早く、夜は遅くまで続きます。

気候変動COPに参加するグリーンピースの一日
COP27参加中の小池のスケジュール例。ハドルとは、作戦会議のこと。

6時半までには起きて、朝のうちにグリーンピースの代表団や、日本から参加しているNGOとの調整会議を行ってから、一日中交渉を追い、交渉内容の議事録を取ったり、政府代表団と意見交換したりしていきます。

また日本に対しては、日本政府がより気候変動に対してより積極的な政策を取るように、他のNGOと一緒に環境大臣と意見交換する場を設けたり、現場にいる日本の記者に対して交渉でどういうことが起きているのか伝えたり、市民の方にCOPの雰囲気を伝えるためにTwitterで発信したりしていました。

朝まで続いた最終日の交渉

スケジュールが遅れに遅れた今回のCOPでは、最終日は日を跨いで朝9時ごろまで夜通し会議が続きました。

最終日の交渉では、交渉官もみなさん疲れを隠すことはできず、髪型やネクタイは乱れ、目の下にはクマも出て、交渉の調整がうまくいっていないことに怒りを露わにする交渉官もいて、なかなか大変な土曜日でした。

これはほぼ終わりかけの朝6時くらいの写真ですが、ほとんど半分くらいが帰って閉まっています。残っているのはEUやアフリカ連合などをはじめとして交渉の中心となっている国だけです。

COP27

しかし、疲れたから帰ってしまっているわけではありません。国によっては予算がなくて何日も延長して滞在できなかったり、大人数を派遣している国とは違い1〜2人しか交渉官が参加していないために本国に帰らなければならなかったりと、事情がある国もあります。

夜遅くまで続けなければいけない会議は、全ての国の声を効果的に反映するのに効果的ではないということがわかります。

基金設立の裏に、被害国の粘り強い交渉

今回のCOP27での成果の中でも、特に重要なのは気候変動による避けられない損失と損害(ロス&ダメージ)を補償する新しい基金が設置されたことです。

洪水で大きな被害を受けたパキスタンの気候変動大臣は、夜遅くまで残って、基金を設置するということについてずっと交渉をしたり、記者会見をしたりして、力強くたたかっていました。

パキスタンによる地球温暖化への責任度は1%と言われています。一人当たりのGDPの差や、教育・医療の水準の違いにもかかわらず、2021年の温室効果ガス排出量は2.3億トンで、日本の約1/5です。産業革命以降の歴史的な排出量をみたらもっと大きな差が開きます。それに対して洪水被害の損害額は、464億ドルにのぼるともいわれています。

COP27
COP27に集まったNGOや市民が、気候変動ですでに起きている損失と損害を補償する基金を求めてアクションを行った(2022年11月)

しかし、気候危機によって出てしまった被害を補償するための「お財布」を作ることになりましたが、「誰が出すのか」「何に出すのか」はほとんど決まりませんでした。経済発展途上国が求める気候正義のためのたたかいは、来年のCOP28に持ち越しになります。

やっぱり国連、そしてNGOは大事

今回は私にとって久しぶりに参加した国連会議でした。そして感じたことは、「やっぱり国連って大事だよな」ということです。

気候変動、軍事、汚染、人権など、国境を越えた課題がたくさんある中で、私たちがいま持っているツールは国家間の協調しかありません。

G7、G20などの意思決定の場がありますが、国連は唯一、参加国が限られておらず、すべての国が参加できる場です。損失と損害資金がCOP27で設立するに至ったのは、すでに気候危機の被害を最前線で受けている国が基金が必要なんだと訴え、新興国を巻き込んだからです。G7やG20では、国の政治的な責任を問うことにはならなかったはずです。

そして、NGOもやはり大切です。

日本でもCOP前に経産省、外務省、環境省と日本のNGOが意見交換を行いましたが、各国のグリーンピースが自国の交渉官に対して要望を伝えたり、COP中も政府の代表と対話をしたりしました。

ほかにも、なぜ損失と損害基金が必要なのか客観的に判断できるデータを提供したり、基金設立を目指す途上国に情報提供して理論的な支援をおこなったりするなど、立場の弱い途上国の支援も行いました。

こうしたことは、国や企業の利益とは独立したNGOだからこそできる活動です。

COP28まで、私たちにできること

COP27は終わりましたが、来年のCOP28まで何も議論がないわけではありません。

COPは毎年11月12月ごろに行われますが、中間地点の6月に補助機関の会合が開催されますし、各国においてより野心的な政策が出なければ国際的な気候変動対策は進んでいかないので、グリーンピースも国内外で継続的に気候変動に関する進展や交渉を追いかけて行きます。

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