2月に始まったロシア軍のウクライナ侵攻の影響で、エネルギー市場が混乱しています。世界各国でインフレが始まり、電気料金も値上がりしています。対応策として、一度やめると決めた原発や石炭火力に再び頼ろうとする国々もあります。 この気候危機のもとで、その選択肢は果たして正解なのでしょうか。 |
原発への軍事攻撃のリスク
今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻。
ロシア軍は侵攻初日にチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を占拠、その後、ヨーロッパ最大規模のザポリージャ原発をも攻撃し始めました。所長や職員が拘束されたという報道もあります。
![検問所を通過してチョルノービリ原発に向かうロシア軍](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/09/a43c0dd1-7d6c-43f0-884f-2131f8f8c732.jpg)
原発は常にすべての設備を最上の状態に保っておく必要があります。運転中でもそうでなくても、厳重な放射能遮断状態を維持管理しなくてはなりません。チョルノービリやザポリージャのような状況下では、管理システムが正常に機能しなくなり、深刻な事態を招く可能性があります。
グリーンピースと「原発への軍事攻撃」
グリーンピースの委託を受けた専門家は数十年にわたり、原発や関連施設が軍事攻撃を受けた場合のリスクと影響についての分析をし、各国政府に示してきましたが、国際原子力機関(IAEA)や原子力産業界はこの警告を無視し続けていました。
そして、いま、ウクライナの15基の原発が危機にさらされ、ヨーロッパ大陸の広大な地域が何十年にもわたって居住不可能になるかもしれないという事態に陥っています。
![ウクライナの原発とロシア軍との位置関係を一定時間間隔で見ることができるインタラクティブマップ](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/09/138e31eb-map.jpg)
グリーンピースは5月、ウクライナの原発とロシア軍との位置関係を一定時間間隔で見ることができるインタラクティブマップを公開しました。このマップで、どの原発にどのくらい軍事的な危機が迫っているかがわかります。
7月にはチョルノービリ立入禁止区域での放射能調査実施、ロシア軍の軍事行動が、周辺環境に蓄積されていた放射性物質にどのような影響を及ぼしたかを明らかにし、世界に公表しました。
ロシア軍は現在はチョルノービリから撤退していますが、周辺に地雷が埋設されていることがわかっており、この地で放射線管理にあたる職員や、安全確保のための調査を実施する専門家の活動を妨げています。
軍事攻撃に耐えうる原発はない
いま起きている事態は、決して対岸の火事ではありません。どこかで軍事的な衝突が起きたとき、当事国に原発があれば、同じことが起こる可能性は十分あります。そして攻撃によって放射能漏れが起きたら、無数の人々が世代をこえて苦しみ続けることになるかもしれないのです。
![ベラルーシ、4歳の時から脳腫瘍とたたかっているアンニャ。2011年撮影。チョルノービリ原発事故の被害者と して政府の援助をうけている。](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/12/6c3d7251-gp02ces_web_size_with_credit_line.jpg)
事実、軍事攻撃に耐えられる原発は、世界中どこにもないのです(商業用に限る)。
もし、いま起きている戦争で核兵器が使用されたらどうなるかについては、他ならぬ日本にいる私たちが、世界中の誰よりもよく知っているはずです。
迫る気候危機
その一方で、私たちは気候危機をくいとめるために、一刻も早い脱炭素社会の実現を迫られています。
メコン川流域やインドなどで起きている海面上昇による浸水や、パキスタンやフィリピン、マラウイやマダガスカル、モザンビークなどで起きている洪水、エチオピア、ケニア、ソマリアの干ばつなど、気候変動は、社会的に弱い立場にある人々がより大きな被害を受ける世界的な課題です。
![2019年4月に韓国・江原道東部で発生した森林火災の被害。専門家は、異常気象により乾燥した空気と強風で急速に大規 模な火災に発展したとみている。](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/12/b7e663d2-gp0stt727_web_size_with_credit_line.jpg)
異常気象の被害は日本にも及んでいます。
年々激化する豪雨被害や、規模を拡大している台風で、毎年のように各地で甚大な被害が発生しています。
多くの人が住む場所を失ったり、インフラが破壊されて生活に影響を受けたりするだけでなく、農業、漁業などの第一次産業や、工場や小売業、流通業などあらゆる産業に被害が生じます。
2021年に日本で発生した災害の被害額は、水害だけで3700億円にも及びます。
気候危機は人々の命を脅かす上に、経済活動における大きなリスクでもあるのです。
![2016年、ロシアで融解した永久凍土に埋没していたトナカイの死体から、炭疽菌に感染した男児が死亡した。](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/12/5fbe7f2e-gp0stoqzk_web_size_with_credit_line.jpg)
気候危機に「適応」する
災害大国日本では、防災が最重要課題であることは周知の事実です。だからこそ、脆弱な地域での災害対策を強化すること、それを公正に評価する仕組みが必要です。
ロシアの侵攻によるエネルギー危機に対して、いったんは脱原発・脱炭素を決めた国々が、再び原発や石炭に頼ろうとする動きがあります。
でも、私たちにはもう時間がありません。2030年までに温室効果ガスの排出を半減し、2050年までにゼロにしなければ、この地球は、もう人が暮らせない星に変わってしまうかもしれないのです。
それを阻止するためにも、環境負荷の高い原発や化石燃料にこれ以上依存し続けるのは、あまりにも危険としか言いようがありません。
![福島県内で作業にあたる除染労働者。原発は燃料採掘から使用済み燃料の管理に至るまでのすべての過程 で被ばく労働を要する。(2019年11月)](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/12/5c63053c-gp0stumjz_web_size_with_credit_line.jpg)
いまできること
このエネルギー危機においても、エネルギー関連企業は稀に見る莫大な利益をあげており、例えばヨーロッパではそうした企業に対して利益に上限を設定したり、追加的徴税を行うことが決められています。
私たちが直面している危機は、何世紀も続いた経済システムの結果としての危機です。ここから脱するには、地域で独立したエネルギー供給システムを加速度的に確立し、エネルギーの地産地消を促すことが先決です。
同時に、環境負荷の高い原発や化石燃料への依存をやめ、安全で、少しでも環境に良いエネルギー源への移行が求められているのです。
![2012年、北極圏で石油掘削事業を進めていたシェル社のCEOを訪ねるグリーンピース。世界中の 人々の反対運動により、シェルは2015年にこの事業を断念した。](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2022/12/66e33e92-gp120u_web_size_with_credit_line.jpg)
![](https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2023/04/e5212110-cta-climate.jpg)