近年、世界中の自動車メーカーが電気自動車(EV)を発表するようになりました。多くの国や自動車メーカーがEVを推進する大きな理由のひとつは、ガソリン式の自動車が地球環境に与える影響です。

一方、EVは本当にエコなのかという指摘も少なくありません。日本で特に見られる疑問である「EVでも電気が化石燃料なら意味がない」「ハイブリッドの方がエコ」「電池の環境インパクトを考えるとガソリン車の方がいい」「充電場所がなく、長距離移動できない」の4点についてグリーンピースの考えをまとめました。

「EVでも電気が化石燃料なら意味がない」って本当?

これは非常によくある議論ですが、電気自動車は電力の種類に関係なく常にライフサイクルアセスメント(自動車の製造から運行、廃棄までのライフサイクルを通じて排出される炭素量の総量)が最も低くなっています。

電力中央研究所「電動車と内燃機関車の製造と走行に伴うGHG排出量評価 ー事業用火力発電比率に応じた比較分析ー」

電気自動車のライフサイクルアセスメントが最も低いことを裏付ける研究は、電力中央研究所IEAICCT などが行っています。

ICCT(THE INTERNATIONAL COUNCIL ON CLEAN TRANSPORTATION)のレポート(2021年)では、欧州、米国、中国、インドの比較において現在登録されているバッテリー式電気自動車(BEV)のライフサイクルGHG排出量は、中型ガソリン内燃機関自動車(ICEV)を下回っています。

ICEV:内燃機関車 / BEV:Battery Electric Vehicle(=バッテリー式電気自動車)の略。燃料の生産、燃料の消費、メンテナンス、バッテリーメンテナンス、自動車の製造(バッテリー製造も含む)を合わせたライフサイクル全体での温室効果ガス排出量の比較。 / 参照:「A GLOBAL COMPARISON OF THE LIFE-CYCLE GREENHOUSE GAS EMISSIONS OF COMBUSTION ENGINE AND ELECTRIC PASSENGER CARS」

バッテリー式電気自動車(BEV)のグラフ上の黒いバーによって示されるように、政策によるパリ協定に整合したエネルギー政策が達成され、再生可能エネルギーが増えれば、さらに大きな炭素削減となります。

現在の化石燃料由来の電気が多い送電網ですべての人がEVを運転したとしても、バッテリー式電気自動車(BEV)の炭素の排出量は、ガソリン車よりも少ないことが分かります。

また電力消費量の増加を懸念する意見も多く聞こえますが、自動車の80%をEVにした場合、エネルギー消費量は全体の5%しか増えないという調査結果が出ています。* 

「ハイブリッドの方がエコ」って本当?

ハイブリッド車とは、2つ以上の動力源を持つ自動車の通称です。ガソリンで動くエンジン(内燃機関)と、電気で動くモーター(電動機)の2つの動力が採用されているハイブリッド車が一般的です。

走行時の温室効果ガス排出は少ないEVですが、製造時と使用後のリサイクルにおける温室効果ガス排出量はハイブリッドと比較してどうなのでしょうか?

ハイブリッド車は通常の化石燃料車と比較してCO2排出量の削減率はわずか30%で、バッテリー式電気自動車 (BEV) と比較すると39%もCO2を多く排出します。*

自動車のライフサイクルインパクトは、自動車の製造、燃料サイクル、燃料補給のすべての活動から生じる温室効果ガスの合計ですが、リチウムイオン電池の製造には、レアアースの抽出・精製が必要で、高熱と無菌状態を必要とするため、エネルギー消費が大きくなるという問題があります。

ハイブリッド車はバッテリー式電気自動車(BEV)と比較してバッテリーの搭載量が少なく、走行中の温室効果ガスもガソリン車と比較して少ないので、環境に良いと感じますが、欧州の平均的な電気自動車は、最初の15万キロの走行でライフサイクルの温室効果ガス排出量を50%削減することができ、欧州の電力を使用した場合、約2年で製造時の温室効果ガスは相殺されるとされています。*
そのため、走行時のCO2排出量が少ないバッテリー式電気自動車(BEV)の方がライフサイクル上での温室効果ガスの排出は少なくなります。

では、バッテリーにおける環境負荷はどうでしょうか?

「電池の環境インパクトを考えるとガソリン車の方がいい」って本当?

現状、EVの製造はガソリン車の製造よりも二酸化炭素排出量が多く、電池には責任ある原料調達に関する問題があることは事実です。

多くの電気自動車のバッテリーの素材であるリチウムやコバルトは、資源として限りあるだけでなく、採掘や精製の工程で深刻な環境問題や人権問題につながる物質です。特にコバルトはその多くが紛争地帯で採掘されています。

鉱山労働者の健康や安全の問題や、児童労働の問題、地元住民や動物・植物への影響も含めて、大量に生産することにリスクがある素材であると指摘されています。

リサイクルされる電池の比率は非常に低く、自動車メーカーは資源を効率的に利用するための電池のリサイクル計画を持ち、電池材料を持続可能かつ倫理的に調達する計画を持つ必要があります。

また、技術革新によるリサイクル比率の向上や電池の改良も期待されており、トヨタやフォルクスワーゲンなどの製造メーカーであるレッドウッド社のような企業は、バッテリーのリサイクルを改善し、クローズドループシステム*1 を実現しようと取り組んでいます。

コバルトフリーやリチウム以外を使ったバッテリーなども開発されていますが、実用化には、時間を要するとされています。研究によれば、ソリッドステートバッテリー(全個体電池)などの新技術は、EVのトータルコストを下げるだけでなく、排出ガスをさらに最大で39%削減することができます。

1* クローズドループとは、従来の「Take(資源を採掘して)」「Make(作って)」「Waste(捨てる)」というリニア型経済システムのなかで活用されることなく「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉えて、循環させること。クローズドループはサーキュラーエコノミーの根本的な概念です。

「充電場所が長い。長距離移動できない」って本当?

電気自動車は一回の充電で、平均的に400km以上(東京〜静岡市往復に相当)走行可能です。最長でも640km以上(ほぼ東京〜青森に相当)走行することができます。

「EVの充電時間は長い」と考える方もいるでしょうが、具体的にどれくらい長いかを知らない人も多いはずです。国内の公共EV用急速充電器を使った充電時間は、ゼロから満了まで充電する場合でも1回最大30分程度と言われています。* 充電に必要な時間も、移動の休憩時間などを使用してできる程度で済みます。

充電時間は長くても、いつも100%充電しておく必要はありません。日常的には80~90%くらいの充電量で使いこなすのが良いとされています。

2030年までにガソリン車廃止が必要

IPCCによると世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、2030年までにガソリン車を廃止する必要があります。2050年までのネットゼロ実現は、ハイブリッド車やガソリン車(ICE)では不可能であることは、科学的にも明らかです*

グリーンピースが昨年発表した最新のレポートでは、世界の大手自動車メーカー10社の気候変動対策が明らかになり、化石燃料車からの脱却、サプライチェーンの脱炭素化、資源のリユース・リサイクルなどの取り組みについて、自動車メーカーを評価しています。

残念なことに、C以上のスコアを獲得したメーカーはありませんでした。

また世界最大級のメーカーであるトヨタは、特に残念な結果となりました。ここ数年、同社は米国を含む主要市場で、気候変動対策に反対するロビー活動を行っています。

化石燃料に頼った、ガソリン車の段階的な廃止時期についても、全く示していません。日本が世界に誇るトヨタだからこそ、自動車業界の変革をリードしてほしいですね。

調査結果に基づいて企業に働きかけるグリーンピースのキャンペーン

調査結果に基づいて企業に働きかけるグリーンピースのキャンペーングリーンピースのキャンペーンは、企業の環境インパクトを調査し、気候変動対策を評価して、明らかになった事実に基づいて企業に働きかけ、ビジネスモデルの改善を求めるものです。

現場から始まるグリーンピースの活動

環境問題が起きている現場でその現状を調査し、明らかになった事実を元に、企業や政府へ働きかけ、共に解決策を実現することを目指しています。

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共に解決策を実現

自動車のゼロエミッション化を加速させるキャンペーンでは、今年の秋にも、自動車メーカーの気候変動対策をランキングする報告書の第二弾を発表予定で、トヨタへの働きかけも継続していきます。

みなさんも、自動車メーカーの気候変動対策を”ドライブする”大きな力になることができます。ぜひこちらから署名して、トヨタをはじめとした日本の自動車メーカーに、声を届けてください!

あなたの「運転」で、
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実現させよう