異例の6月の猛暑の中、電力ひっ迫のニュースでパニックとなった日本。電力ひっ迫の原因は、平年より早く梅雨が明けて連日の熱波に襲われ、平年では電力需要がピークではない時に、電力需要が急拡大したことでした。

しかし、「脱炭素が原因」「太陽光発電の問題」などの誤解もあるようです。状況と問題を正しく把握するために、電力工学が専門の京都大学の安田陽特任教授にお話を伺いました。気候変動対策と電力の安定供給を両立させる方法について考えてみましょう。

何が起きた?「電力需給ひっ迫注意報」とは

6月26日から、東京電力管内で「電力需給ひっ迫注意報」が発令されました*。

これは、電力の需要に対する供給の余力を示す「予備率」が広域で5%を切った時に、注意を呼びかけるために発令されるものです。安定して電気を供給するには、3%以上の予備率が必要と言われ、広域で3%を切ると「電力需給ひっ迫警報」が発令されます。

今回の「電力需給ひっ迫注意報」は6月30日18:00に解除され、実際に停電は起きませんでした

原因は「季節外れの異常気象」と「電力需要の急拡大」

今年2022年は平年よりも梅雨が短く、九州南部・東海・関東甲信では6月27日に梅雨明けとなりました。東京では、平年よりも22日も早い梅雨明けです*

そして、群馬県伊勢崎市で6月25日と29日に、観測史上6月で初めて40度を記録*するなど、連日の危険な熱波が全国を襲いました。

電力工学が専門の京都大学の安田陽特任教授の分析によれば、東京で6月に電力需要が50GWを超えたケースは、過去7年でありませんでした

電気は、需要に合わせて供給を調整しています。つまり、暑い夏など電力需要が高まることが予想される時には、出力を増やします。通常は6月から8月にかけて気温が上がるとともに徐々に電力需要が高まり、6月は電力のピークとはされていません。

そこに異例の熱波で急激に電力需要が高まったことで、電力供給の余力が少なくなってしまいました。

「異常気象を前もって察知するのは今の気象予報技術では難しく、今回のように、前日に電力需要が高まることを察知して注意報を出したのはむしろ素晴らしいこと。点検のため休止していた発電所を1日2日でも早く稼働させる努力をして、7月3日時点で注意報は出ていません。東京電力パワーグリッドや政府の対応を評価すべきでしょう」(安田氏)

パニックになる必要はない

安田特任教授は、「電力需給ひっ迫注意報」や「電力需給ひっ迫警報」が発令されても、不安が先行してパニックにならないように、と注意を呼びかけます。

「予備率が3%を下回ったその瞬間に停電するわけではありません。数%の余力を残すのは不測の事態に備えるためなので、0%になった瞬間にブラックアウト(広域全停電)するわけではありません。注意報が出ているときは、慌てて何かするのではなく、不適切な行動をしないことが重要です。まず、不安商法に加担しないように注意しましょう。その上でできるのは、余裕があれば無駄な電気を消すことですが、これは家庭よりも産業界の方が重要です」(安田氏)

「電力需給ひっ迫注意報」は、例えて言うなら電力を安定的に供給するための「四重の防護壁」の第一段階です。

予備率が低下した時には、まず5%で注意を促す「電力需給ひっ迫注意報」が出て、3%を下回ると「電力需給ひっ迫警報」、さらに仮に供給が足りなくなった場合でも全域で停電になる前に「計画停電」のアナウンスがあり、それでも需給のバランスが足りなくなると一部地域のみ「部分停電」があります。「電力需給ひっ迫注意報」は、注意して情報をウォッチしてくださいと呼びかけるもので、決してパニックになる必要はありません

8月にも、電力がひっ迫する可能性があると言われています。安田特任教授によれば、非ピーク時に突然電力需要が高まった6月とは違い、8月には発電所の準備が間に整っていたとしても、供給力がぎりぎりになる可能性がありますが、「四重の防護壁」があることを思い出して、冷静に対応しましょう。

電気代高騰との関係は?

電気代の高騰と電力ひっ迫の直接的な関係はなく、分けて考えることが必要です。

コロナ禍やウクライナ危機によって天然ガスや石炭の価格が高騰し、電気料金にも反映されていますが、安田特任教授によれば「価格高騰はむしろ正常な市場反応で、燃料が供給途絶にならないかぎり、価格が高騰することと工学的に停電になるかどうかは別の問題」です。

ウクライナ危機の最中、ロシアからフランスへ輸送される天然ガス(2022年3月)

まず大切なのは「バケツの穴を塞ぐ」こと

今後の安定した電気供給のためにはまず、「電気が必要だから電源が足りない」という考え方から「無駄が多いから足りなくなっている」という考え方に変える必要があります。

私たちはエアコンで部屋を冷やしたり暖めたりするのが当然と思っていますが、実はそれは日本の建物の断熱性が非常に低いからで、夏の暑さや冬の寒さの影響を受けにくい建築なら、電気の使用量を大幅に減らすことができます。これは、住宅だけではなく、建物全般に言えることです。

日本の家や建物は、例えていうなら穴の空いたバケツです。欧州では人権侵害で訴えられるレベルの粗悪なものが売られています。穴の空いたバケツに、足りないから水を注ぐのではなく、まずは穴を塞ぐことが必要です」(安田氏)

窓を二重窓にするなど、新築でなくても断熱性を高めるためにできることはあります。誰もが断熱対策できるように、自治体や国が補助金を出すことも必要です。

そして、日本では省エネというと家庭での努力が強調されがちですが、それ以上に大切なのは企業による努力です。

「断熱よりももっと短期的にできるのは、家庭部門で我慢するのではなく、企業や産業部門に行動変容を促すことです。例えば、私たちが真っ先にできるのは、商業施設などで冷房設定が低すぎると、やんわりとクレームを入れることです」(安田氏)

太陽光発電が原因?

6月の電力ひっ迫について、太陽光発電が原因と説明するメディア報道もありますが、これは明らかに誤りです。

一般に夏の需要ピークは太陽が出て気温が上昇する昼間なので、太陽光による発電は電力不足を確実に緩和します。夕方は急速に出力が落ちるので注意が必要ですが、ここだけを見て太陽光が原因とするのは本末転倒です。

再生可能エネルギーは、そうしたそれぞれの特徴を踏まえて、夜に発電できる風力発電やバイオマスなどの他の再生可能エネルギーと組み合わせて使うことが基本です。しかし日本では、太陽光発電は過去10年で大きく成長し、2020年時点で8.5%の発電を担いますが、他の再エネは伸びておらず、風力は0.9%です。

福島県三春町のコミュニティショップの屋根に設置される太陽光パネル。お店の電気を賄うだけでなく、余った電気は売電できる(2016年1月)

日本は、老朽化して再稼働には事故のリスクが高く金銭的コストも高額になりつつある原発と、世界的に廃止の流れが加速する火力発電に固執した結果、再エネを大量に導入するための政治の意欲が十分ではありませんでした

自然エネルギー財団の大林ミカさんも、電力ひっ迫を特集したBS-TBS「報道1930」で「脱炭素が原因と言われているが、脱炭素を強力に進めなかったこと、再エネを進めなかったことが原因」と指摘しています*

太陽光や風力は、国産・無料・無限のエネルギー源なので、天然ガスや石炭のように国際情勢によって燃料価格が左右されることもなく、電気料金を安定させることにも繋がります。

グリーンピース・ジャパンが、ISEP(環境エネルギー政策研究所)に委託して作成した東京都の再生可能エネルギー100%シナリオでも、2030年にエネルギー消費量を2000年比55%減、2050年に72%減にすることで、太陽光と風力などの組み合わせによって再生可能エネルギー100%が可能です*

「バケツの穴を塞ぐ」ための徹底した省エネ、そして再生可能エネルギーを主力電源にするための政治の主導力が必要です。

私たちに今できること

電力ひっ迫に対して、私たちにできることは「省エネ」でしょうか?

必要以上に使っている電気があれば、省エネすることも大切でしょう。しかし、生活者に責任を転嫁するエネルギー政策は、もう終わりにするべきです。

今すぐできることは、エアコンが効きすぎているお店では「エアコンの設定温度を上げてください」と伝えるなど、”お客様の声”を利用して企業の行動変容を促すことです。

グリーンピース・ジャパンが事務局を務める「ゼロエミッションを実現する会」では、市民が自分が暮らす街の自治体から脱炭素を実現するために、役所や議員に働きかけて、「ゼロカーボンシティ」を宣言するよう請願をおこなったり、地域内の建物の断熱性能の向上などの省エネや再エネの導入を求めたりしています。

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