2050年までに少なくとも1億4300万人が住む場所を失う「気候難民」になるという推計があります。原因は気候変動。
いまのままでは、豪雨や巨大台風や熱波や干ばつといった異常気象の増加は抑えられず、海面上昇や生態系破壊による食糧難や水不足、未知の病原体の拡散も懸念されます。
そんな状況下で、わたしたちは平和をまもれるのでしょうか。
戦争が起きて、電力事情が混乱していても、気候変動は待ってはくれないのです。
ウクライナ・ドロスデン村、ブランコで遊ぶ子ども。2011年撮影。

戦争で気候変動が悪化する可能性

ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって3ヶ月以上過ぎました。
すでに多くの方が難民として故郷から避難し、残念ながら亡くなった方も大勢います。

1日も早い戦闘の終結を願いながら、グリーンピースはいまも、24時間体制でウクライナの原発を監視し続けています。
発電量の半分以上を原発に依存しているウクライナで、いつどの原発でどれだけの放射性物質が漏洩したら、どんな速さでどこまで汚染が拡散するかを予測し、速やかに地域住民やメディアに情報を伝え、人々の安全をまもるためです。

現在までは大きな異常が発生した事実は確認されていませんが、実際には、軍事攻撃に耐えうる原発は、世界中どこにも存在しません(*商業用に限る)。

一方、ロシアへの経済制裁や、ロシア産の燃料の禁輸によって世界のエネルギー市場は大きな影響を受けています。
電気代が高騰し、これまで各国がとりくんできた脱原発・脱炭素にブレーキがかかっています。

もしこの状態がこのまま続いたら、一刻の猶予もないほど悪化した気候変動問題はどうなるでしょうか。
2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させなければ、わたしたちのこの地球は、いま目にしている姿をそっくり失ってしまうかもしれないのです。

北極海、氷の上のホッキョクグマ。氷の減少とともに絶滅が危惧されている。

気候変動は待ってくれない

北極圏の氷は年々最小記録を更新し続けています。
アラスカやグリーンランドや南極の氷は融け続けています。
融けた氷と上昇した気温を吸収して温まった海水が膨張し、海面が上昇しています。
永久凍土が融けて、氷に閉じ込められていた未知の病原体が大気中に放出されるだけでなく、大量のメタンガスが爆発するリスクも高まっています。

いったん融け出した氷を元通り凍らせることはできません。
できることは、せめて、これ以上の融解をなるべく緩やかに、できるだけ小さく抑えることです。

崩壊し始めているのは氷の世界だけではありません。
豪雨や巨大台風や熱波や干ばつといった異常気象の発生は増加傾向にあり、水害や森林火災の規模も拡大し続けています。

気候変動によって生態系も危機にさらされています。
いま、1年間に絶滅する生物はおよそ4万種。*1凄まじい勢いで生きものたちの命が失われ続けているのです。
生態系が変われば、農業も打撃を受けます。水温の上昇とともに、大気中に放出されている二酸化炭素を吸収した海水が酸性化し、海の生態系も破壊されつつあります。
となれば、これまで通りの漁業ができなくなります。

世界中の政府と企業が、地球の平均気温の上昇を産業革命以降1.5度に抑えようと対策に奔走していますが、現状のとりくみのままでは、気温は今世紀中に2.7度上昇します。

戦争が起きていても、エネルギー市場が混乱していても、気候変動は待ってはくれないのです。

インドネシア・ボルネオ島の煙害。世界中で消費される加工食品や日用品の原料となるパーム油生産のため、インドネシアでは原生林が燃やされ、破壊され、気候変動に悪影響を与えている。
東南アジアでは大気汚染が原因で年間約11万人が命を落としている。

気候変動が引き起こす紛争のリスク

実際に、気温が2.7度上昇した世界では何が起こるでしょう。

海面上昇はすでに始まっていて、2100年までに最大2メートル上昇、浸水によって数億人が住む土地を失うと指摘する研究結果も発表されています。*2
海面上昇だけでなく、森林火災や災害も、人々から住まいを奪います。世界銀行は、気候変動の影響によって居住地からの移動を余儀なくされる人々が2050年までに少なくとも1億4300万人発生すると推計しています。*3

塩害で海抜の低い地域での農業は不可能になり、食糧不足が起こります。清潔な真水も不足します。感染症の拡散リスクも高くなります。

こうした環境下で、わたしたちは果たして平和を守れるでしょうか。
すでに起こっている紛争の原因のひとつとして、気候変動による環境の悪化が挙げられている例が複数あることも指摘されています。*4

インド、ガンジス川の河口、ベンガル湾に位置するゴラマラ島の住民。
島は気候変動による海面上昇や水害によって、過去25年で9平方kmから4.7平方kmに縮小した。

いまできること

グリーンピースでは、ウクライナの原発を監視する活動を続けながら、国際社会や政府や企業に、より意欲的な脱炭素対策を求めるはたらきかけも続けています。

たとえば日本の発電量はその3割ほどを石炭火力発電に頼っていますが、エネルギーの中でも最も多く温室効果ガスを排出する石炭火力をやめるよう、資金を融資しているメガバンクに方針の見直しを求めて対話を続け、新規の石炭火力事業への投融資をしないという合意を勝ちとりました。

自治体に実効的な脱炭素政策を実施するよう、地域住民が自らはたらきかけるネットワーク「ゼロエミッション を実現する会」を立ち上げ、運営し、実際にどうすれば自治体を動かすことができるのか定期的な勉強会を開いたり、はたらきかけをサポートする活動を展開しています。

温室効果ガス排出量の14%を占める畜産の中でも、環境不可の高い工業型畜産による安価な肉や乳製品を大量に消費するのではなく、植物を中心とした食生活を推進しています。

やはり温室効果ガスを排出する自動車メーカーに対して、新車を大量に製造・販売する現行のビジネスモデルを改め、最低限必要なだけの自動車を、化石燃料ではなく環境に安全な再生可能エネルギーで走行するEV車として販売し、リニューアルやアップデートで利益を得る、持続可能な産業への転換を求めて対話を続けています。

2020年11月、台風22号の被害。フィリピン・リサール州。

いま、気候変動の危機にさらされているのは、実際には温室効果ガスを大量に排出するような生活などしていない、途上国の経済的に貧しい人々や、自然とともに暮らしている先住民や少数民族の人々です。

何の罪もない彼らの暮らしだけでなく、わたしたち自身や、子どもたちの世代の暮らしも、気候危機に脅かされる日がまもなくやって来ます。
そうなる前に、目に見えない危機がどれほどわたしたちの身近に迫っているか、一人でも多くの人に知っていただきたいと思っています。

そして、今日、誰にでもできる何かひとつに、トライしていただきたいのです。
それが、あらゆる命がまもられる未来のために、どうしても必要な一歩なのです。

*1: 環境省
*2 : BBC 海面上昇、従来予測の2倍に 氷解が加速=英研究 2019年5月21日
*3 : WORLD BANK GROUP : Groundswell: Preparing for Internal Climate Migration
*4 : アフリカにおける気候変動と紛争 東京大学未来ビジョン研究センター 講師 華井和代