「気候にもクィアにも正義を」

LGBT当事者が、こうしたメッセージを掲げて気候変動ムーブメントに参加することがあります。LGBTの人権と気候問題の解決を求める運動は、生きる権利を守る活動であるということが共通しています。さらに、異常気象の被害を受けた現場で、LGBT当事者が差別を受け、十分な支援を受けられないことがあるなど、LGBT当事者と気候変動の被害当事者が重なり合うこともあります。

今回はTokyo Rainbow Prideの開催にあわせて、2013年にフィリピンを襲った観測史上最強と言われる台風30号(ハイエン)で被災したLGBT当事者のアーサーさんとニティアリラさんのストーリーをご紹介します。2人のストーリーは、私たちが連帯することの大切さを、思い出させてくれます。

ありのままの私を、誰も変えることはできない

アーサー・ゴロンさん (コミュニティリーダー)

育った村で唯一のLGBT当事者だったアーサーさん。台風ハイエン以前、人と話すことが苦手で、人との接触を避けて過ごしていました。しかし、被災当初、唯一家族で食料や水を探しに外に出られたのはアーサーさんだけでした。

当事者の中でも特にトランスジェンダーの女性や、カミングアウトしている中性的なゲイの男性、ジェンダー・ノンコンフォーミング(世間の一般的なジェンダー像と合致しない性自認を持つ人々)に対するハラスメントや性的暴力のケースは多く見られます。

避難所では食料や水、物資を受け取る列に並ぶことを許されなかったり、「お前はここに並ぶべきじゃない」などと一蹴されたり、列の最後尾に並ばされた挙句、何も配給されないこともしばしばあります。男性には男性用トイレの利用を嫌がられ、女性には女性専用施設の使用を疎まれることも。

スーパー台風ハイエンに襲われた被害地域で、飲料水を配る警察(2013年11月)

しかし、台風直撃後、救援物資の配給を手伝っていたアーサーさんは、次第に人と話すことへの恐怖を克服し、逆に今度は自分から、避難を余儀なくされた人たちのニーズを訴えるために声をあげるようになりました

その後、議会や政府関係者、メディアと話す機会もあり、現在は38市町村から避難してきた数百人ほどの住民と対話することを主軸に活動しています。しかし、地域で信頼されるようになったものの、当事者であることで差別を受けることもあると言います。

「ありのままの私を、誰も変えることはできません」と語るアーサーさん。

「周りには私のリーダーシップスキルや能力で判断してほしいです。どんな格好をしようと、働いているのは私自身ですから」

支えてくれるコミュニティがあってこそ力強く声をあげることができる

ニティアリラさん  (シンガーソングライター、環境活動家、気候変動アーティスト)


台風の多いフィリピンで、ニティアリラさんと家族は何度も台風の深刻な被害を受けてきました。

「2002年に、台風ミレニョの影響による深刻な被害を受けました。両親が10人兄弟を支えるために35年かけて築き上げてきた大切なビジネスがたった数時間で崩れ去りました。以来、気候変動がとても身近なものに感じるようになりました。2009年には、台風16号オンドイが直撃したときは、土砂降りの中、父と兄妹2人で24時間近く屋根の上で命からがら避難しました」 

ミュージシャンとして、気候危機の最前線で最も脆弱な立場に置かれている人々の現状を知ってもらうために啓発活動を行っていたニティアリラさん。さらに2013年の台風ハイエンの被害を目の当たりにしてからは、声をあげるだけでは不十分だと痛感し、団結して行動を起こすべきだと思ったといいます。

2013年のスーパー台風ハイエンで壊滅的な被害を受け、物資が不足する街から出るため、飛行場で待機する家族(2013年11月)

「私は2016年にミュージシャンとアーティストとしての活動を広げるために渡米しました。アメリカのLGBTQIAコミュニティに受け入れてもらえたことをきっかけに、ありのままの自分を隠さずに生きていきたいと思うようになりました。1年後、長年交際していた異性のパートナーと別れ、家族や友人にカミングアウトすることを決意しました。差別される恐怖や、愛する人に受け入れてもらえないかもしれないという不安と葛藤もありました。カミングアウトをしたとき、友人の中には真実を受け入れられず、話に耳を傾けようとしない人もいました。数人と絶縁することになりましたが、ありのままの私を受け入れ、応援してくれる人たちもたくさんいました」

そのときニティアリラさんは、「支えてくれるコミュニティがあってこそ力強く声をあげることができるのだ」と実感したと話します。

「ストーンウォールの反乱*と同じように、今、世界中に広がっている気候ストライキは、自分たちの権利を守るために立ち上がるコミュニティが増えていることの表れだと思います。まだまだ多くの憎しみやいじめ、差別が身近に存在するものの、前進してきたことも事実です。世界規模の連帯と行動は、同性愛者であろうと、気候変動による影響に直面していようと、1人で戦わなくてもいいと教えてくれます

* ストーンウォールの反乱:アメリカで同性間性交渉を禁じる法律があった1968年、ニューヨークにあるゲイバー・ストーンウォールインで、警察によるLGBT当事者の抑圧があり、当事者が警察権力に抵抗した

「LBGTQIAの人権や気候問題の解決を求める運動に共通しているのは、生きる権利を守る活動であることです。LGBTQIAコミュニティは、迫害やメンタルヘルス、自殺などの課題を抱えています。気候変動ムーブメントは、異常気象による自然被害のみならず、否定論や人間の不作為、貪欲さや無関心による人為的災害にも悩まされています。

どちらも多くの課題を抱えていますが、最前線に立つ人々が連携し共に行動すれば、希望はあります

関心を寄せ、一緒に立ち上がることから希望が生まれる

不平等や抑圧構造は社会の一部であり、すべてつながっています。

他の社会問題を無視し、ひとつの側面のみからアプローチする方法では、包括的な解決には及びません。性別、人種、肌の色、SOGIE(性的指向、性自認、性表現)、宗教、年齢、地位など関係なく、すべての人に活躍する機会がある公正な社会を目指す必要があります。

この社会を構成する私たち一人ひとりが、不平等を解決することに関心を寄せ、立ち上がることで、より良い未来へと希望をつなぐことができるはずです。

グリーンピース・ジャパンは、4月22日〜24日に代々木公園で開催されるTokyo Rainbow Prideに出展しています。ぜひ、私たちのブースにも立ち寄ってください!