新潟県の柏崎市と刈羽村にまたがって位置する東京電力柏崎刈羽原発。7基の原子炉を持ち、1つの原発施設としては世界最大規模と言われます。

首都圏の増え続ける電力需要に応えるため稼働していましたが、2007年に新潟を襲った中越沖地震をきっかけに安全性への信頼が揺らぎ、2022年3月現在、全基停止しています。

地元では、原発の誘致を両自治体が議論していた頃から50年以上、地元を原発から守り、原発に頼らない街をつくるために活動を続けている人たちがいます。

刈羽村で村議も務めた「原発反対刈羽村を守る会」代表の武本和幸さん、そして元柏崎市役所職員で「柏崎刈羽市民ネットワーク」代表の竹内英子さんにお話を伺いました。

子どものころ遊んだ海や山に原発がやってきた

グリーンピース:武本さん、竹内さんは、どのように柏崎刈羽原発の反対運動に関わるようになったんですか?

武本さん:1968年の冬、俺は高校3年でね。この辺りは2、3月に雪が降ってから晴天になると、凍み渡り(しみわたり)といって田んぼや山がガリガリに凍るので、海まで歩いて行ったんですよ。そしたらそこで、ボーリング調査をしているのを見たんです。

東京電力柏崎刈羽原発のある荒浜に立つ武本和幸さん(2022年3月)

その前の年くらいから、荒浜に原発ができるといううわさは聞いていました

本能的に、原発はいやだったね。荒浜は子どもの頃海水浴へ行った場所なんですよ。得体の知れないものが子どもの頃遊んだ山にできて、囲われて入れなくなるっていう。

原発を誘致しようとする人たちは、原発が来ればこの地域は豊かになるっていうんです。そして、放射能は一度に大量に浴びれば体を壊すけれども、酒と同じで1日1合の晩酌なら疲れが取れるように、放射能も少量なら体にいいんだ、なんて平気で言う。こんな連中に任せておいたら大変だと思ったんです。

とても続けられないと思って市役所を辞めた

竹内さん:私は原発誘致の年に生まれているんですが、小学生の頃に反対運動の張り紙などを目にした記憶はあります。

私はずっと柏崎市役所の職員だったんです。市役所の組合が原発反対で、勉強会などで話を聞いて、原発はおかしいよな、と思っていました。

竹内英子さん(2022年3月)

15歳の時にチェルノブイリ原発事故があって、もともと原発なんて絶対安全なわけがないという思いはありました。それで3.11の原発事故があって、それでも柏崎刈羽原発を再稼働するという話になってヨウ素剤が配られたりする中で、市は原発事故が自分たちに起こると思ってないんだな、市民を守ろうという気がないんだなと思ったんです。

こんなのとても続けられないと思って市役所を辞めて、武本さんたちの仲間に入れてもらいました。

たまたまその年に市長選があって、自分も仕事を変えたばかりだったんですが、誰もいなければという感じで立候補した経緯があって、今に至っています(注)。

注)竹内さんは2016年、再稼働反対を訴えて市長選に立候補し1万6千票を獲得したが、現職市長の桜井雅浩氏が選出された

暮らしやすさを上回るほどの原発の怖さ

グリーンピース:お二人とも新潟のご出身ですが、こちらでの暮らしはいかがですか?

竹内さん:海もあるし、山もあるし、それなりに生活に必要なものは揃ってる。柏崎は水が綺麗で、美味しいのが魅力です。スーパーでは地元の野菜コーナーもあります。自分たちで作っていれば買うまでもないですが。

でも、原発を考えたときに、暮らしやすさを上回るほどの怖さやリスクがあるなと感じています。怖いっていうのも、最近ちょっと言えるようになったと思いますが、前までは怖いとさえ言えないような雰囲気でしたね。抑圧されたものがあるような気がします。

東京電力柏崎刈羽原発(2007年7月)

今回のような戦争(ロシアによるウクライナへの侵攻)が始まって、原発が攻撃されているなかで、さすがに若い人も原発が攻撃されたら怖いよねというようなことを言っています。そういうところはひしひしと感じているんじゃないかなと思いますね。

「原発で都会並みに」が推進派の言い分だった

武本さん:新潟県の人口は220万人。どんどん減っている。子どもが2人いますが、2人とも家には寄り付かない。どこでもそんな感じなんですよ。

原発計画が始まる前に、大雪があってね。一週間くらい交通止めになって、陸の孤島になったことがあったんですよ。原発を作って都会並みに、というのが推進派の言い分だった。ところがそれはうまくいかなかったんです。

県外の資本に、東京電力に依存して地域を作ろうというのが原発推進派の考えで、今でもそういうグループは第一勢力になっていると思います。でも、県外の資本に影響された地域づくりはうまくいかないだろうなと、俺は感じていますね。

本音を言えば反対という人は多いんじゃないか

グリーンピース:2007年の中越沖地震をきっかけに柏崎刈羽原発の耐震性が疑われ、現在は全基停止していますよね。2011年の福島第一原発事故以降は、東京電力の安全管理能力が疑われる事例が続いています。地元の柏崎市・刈羽村では、いま原発に対してどのような意見があるのでしょう?

武本さん:柏崎刈羽原発では今、約6,000人が働いているはずです。東京電力は1,000人くらい、下請けの人が5,000人くらいです。6,000人が原発で働いていると、刈羽で5軒に1人、柏崎で12軒に1人くらいの割合で、原発で収入を得ている人がいる。これはものすごくでっかいですよ。

でも、そういう人が決して原発を無条件に支持しているわけじゃないっていうのも分かっているんです。2001年5月に、プルサーマル(注)の是非を問う住民投票を行って、反対1,925票、賛成1,533票(保留131、 無効16)という結果が出ています。

そしてこれは2007年の中越沖地震の前ですからね。地震を経験したり、3.11を経験して、原発が本当にいいか悪いかを問われれば、いやだっていう人が多くなっているはずだって思いますね。本音を言えば反対、という人も多いんだろうと思います。

2007年7月16日に地域を襲った中越沖地震は、柏崎刈羽原発が建つ浜の10キロ沖で発生(2007年7月)

注)使用済みの燃料を、MOX燃料に加工して、原発で再利用すること

差し迫るもう1つの危機 – 気候変動

グリーンピース:政府は、発電時にCO2を出さないという理由で、原発を気候変動対策に使う方針を示していますよね。原発のリスクと同時に、気候変動も私たちの生活に差し迫った危機になっています。新潟県で暮らしていて、気候変動の影響を実感することはありますか?

武本さん:大きな水害が頻発するようになっています。九州とかよそだけでなく、2019年10月に台風19号で長野にすごい雨が降ったときに、長野から流れて日本海へ出る信濃川で、水害が起きましたね。水害は2004年にもあったし、昔に比べて水害が増えているという感じはありますね。

それに、お盆頃のフェーン現象で、コメの質が低下すると聞きます。昔の夏はこんなに暑くなかった。

竹内さん:真夏日が当たり前のようにありますからね。

電気を原発に頼ろうとする前に

グリーンピース:気候変動対策として原発を使おうという政府の方針について、お二人はどう感じていますか?

竹内さん:まずある程度、電気を使わないようにするしかないと思うんですよね。そして、原発以外の再生可能エネルギーに、国がお金をかけて欲しいなと思います。個人個人の家庭もだけど、リニア新幹線とか電気をたくさん食うものをどんどん運営しようとする傾向には歯止めをかけて欲しいと思います。家庭でいくら省エネしても焼け石に水になってしまいますから。

安心して子どもを産んで – そう言える世の中に

グリーンピース:お二人は、子どもや孫世代が暮らしていく未来に、柏崎市や刈羽村、そして日本にどうなっていて欲しいと思いますか?

竹内さん:戦争が起きる。災害が起きる。放射能が降る。そういうことがなくて、落ち着いた世の中になればいいなと思いますけれども、人間に都合がいいようにしていくのでは、破綻してしまうんだろうなと思います。人間も謙虚になって、自然と調和できたら。

なんとか間に合って、子どもたちにも、ちゃんと未来があるから安心して子どもを産んで、と言えるような世の中になるといいなと思います。

人間も電気も都会へ流れる構造を変えなければ

武本さん:効率を求めて都会はどんどん大きくなって、この地域から、人間も電気も水も東京に流れるという構造がある。こういう流れを変える必要があると思います。

世の中では都会が進んでいて、一次産業が残っている地域は遅れているという見方が一般的にあると思います。この地域では、林業は衰退してしまいましたが、農業も漁業も残っている地域ですよね。昨今の戦争を見ていると、自分で食べるものは自分で生産するようにしない限り、うまくいかないんじゃないかと感じていますね。

一つひとつの原発立地地域で、武本さんや竹内さんのように活動を続けてきた方々の働きかけによって、全国に59基ある原発は、2022年3月現在8基しか稼働していません

原発は、働く人や住民をリスクに晒し、賛成・反対で地域を分断するだけでなく、コストが高く発電が不安定な上に、何万年も管理が必要な核のごみを排出します。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻によって、原発がいかに危機に脆弱であるかを世界中が思い知らされました。

このような原発に頼ろうとし続ければ、それだけ再生可能エネルギーへの移行がますます遅れ、手遅れになる前に気候危機を止めることは不可能になるでしょう。

原発事故を経験した日本から、原発に頼らない未来を実現する意思を世界に示すよう、あなたも声を届けませんか?