東京電力福島第一原発事故からまもなく11年。

事故当時は15万人が避難を強いられました。でも、実際に影響を受けた人は数千万人に及ぶといわれています。
そしていまも、事故の影響は現在進行形で続いています。
そのことをお伝えしたくて、被害をうけた方々にこれまで伺ったお話を改めてご紹介します。

今回は、原発事故当時、福島県郡山市で農産物直売所を開いていた大塚利明さんのお話です。
(記事中の情報はすべて2019年当時のものです)

食の安全をまもるには知識と情報

もともと子どもの頃から環境に興味があったんです。何か貢献できるような仕事ができないかと、農産物直売所を始めました。

有機野菜を中心に、調味料も油も加工食品も無添加のものを揃えて、商品の評判が良くて、とくにお母さんや妊婦さん、健康志向のお客さんが多くて、そういうお客さんの携帯ブログで紹介されたり。

福島県福島市の野菜の直売所。大塚さんのお店の写真は残っていないという。

原発事故が起きたのは、開店から2年10カ月のときでした。

原発事故のあと、農産物や食品に対する消費者の意識はもっと高まるんじゃないかって期待したんです。福島の農産物や海産物の放射能汚染に関心が集まってるから、農薬や化学物質も注目されるんじゃないかと思ったけど、そうはならなかった。

現場では行われない議論

日本人の2人に1人がガンになるとか、認知症の患者数が700万人になるなんて報道もあります。一方では、日本は単位面積当たりの農薬使用量が世界一との情報があります。

発がん性が指摘される除草剤はホームセンターで簡単に手に入ります。仕事柄、農業と食と健康の関係性について関心を持っていますが、職場をはじめとして野菜・米作りの現場ではそのような議論はほとんど行われません。

神奈川県の消費者支援型エコロジー農園

政府は「安全性が確保されていない食物は流通させない」といいます。

原発だって「安全だ」といって動かし、事故を起こして多くの被害者を生み出しました。子どもたちや若者の将来の健康に不安を感じます。

本当の被害は伝わらない

福島の農産物は美味しいです。
でもそこに放射性物質が降ってしまった。
意識の高い健康志向のお客さんは、もう食べない。


売上が60%も減って、家賃も借金の返済も待ってもらっていました。

お店を始める時、実家を担保に融資を受けたんです。
いまその実家には、家賃を払って家族が暮らしています。
借金が返済できなくなったからです。

農家さんたちと共同で代理人をたてて、ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)に申し立てをしました。
何の落ち度もないんだから、失ったものは返してもらえるはずだったんです。

2011年4月、グリーンピースの郡山市での放射能調査

経営が行き詰まって従業員が半数になっても、仕事が半分になるわけもなく、12時間労働の毎日。単身赴任のため借りていたアパートの家賃が払えなくなり、店の事務所に寝泊まり。

長時間労働と一向に進まない損害賠償交渉に疲れきってしまい、とても納得できなかったけれど、あきらめて受け取った賠償金はたまった店の家賃に消えてしまい、経営を立て直すだけのお金は残りませんでした。

過去も将来も奪われた

原発立地地域は福島だけじゃない。
国や電力会社は再稼働をいいますが、 賠償の仕組みが現状のままではダメなんです。
損害賠償は得られるはずだった利益が基準。数字です。
私が被った損害は売上だけじゃありません。

事業主としての過去も将来も奪われました。
借金も返せず、税金も納められなくなった事業主に融資してくれる人はいません。

被害の広がりや深さは、メディアが伝えているようなものではないんです。

大塚利明さん。福島県内、無農薬で育てているイチゴのビニールハウスで。2019年撮影。

グリーンピースの活動は、事故直後から始めた現地での放射能調査活動の結果から導き出された科学的根拠に基づいています。
調査活動も、事故の影響を受けている方々の人権保護活動も、これからも続いていきます。

二度と事故のない、原発のない未来のために。
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