すでに地球の平均気温は1.1℃上昇し、取り返しのつかない気候危機を免れるために残された時間は少ない中で、日本・中国・韓国の3カ国は、ここ10年間で約789億米ドルもの公的資金を海外の石炭事業に投入しています。私たちの税金が、気候危機を加速させるために投資されているのです。

グリーンピースは、日本を含む東アジア各地の事務所で、このお金の流れを変えるためのキャンペーンに注力してきました。今回は、各地域の石炭キャンペーン担当者から、キャンペーンの成果とこれからの課題についてご報告します!

日中韓から65億ドルが石炭プロジェクトへ

意外に思われるかもしれませんが、東アジアの3大経済大国である日本、中国、韓国は、世界の海外石炭発電投資市場を独占しています。

過去10年間で、この3カ国から約789億米ドルの公的資金が海外の石炭火力発電所プロジェクトに投入されました。主な投資先は、インド、インドネシア、ベトナム、バングラデシュなどです。

インドネシア・スララヤ石炭発電所。増設のために日本や韓国などが融資を予定。

日本、中国、韓国は、2020年にCO2の「ネットゼロ」を宣言しています。気候変動の最悪の状況を回避するためには、私たちは「今」、化石燃料の使用を止めなければなりません。来年でもなく、来週でもなく、明日でもない。「今」止めなければならないのです。

グリーンピースの石炭キャンペーンの成果は?

2017年、グリーンピースは、巨額の投資を引き受ける民間銀行、政策銀行、保険会社、石炭への融資をやめ、自然エネルギーへの融資を増やすことを求めるキャンペーンを3カ国で開始しました。戦略的かつクリエイティブなキャンペーンを展開し、その成果を目にすることができるようになっています。

今回、各国のキャンペーン担当者とZoomセッションを開き、どのように銀行に働きかけ、石炭への融資を削減させることに成功したのか、その経験を詳しく聞きました。キャンペーンの舞台裏を、ぜひご覧ください。

韓国:クリエイティブの力で大統領へ働きかける

Yeonho Yang  グリーンピース・東アジア ソウル事務所 / 気候エネルギー担当  

韓国は過去10年間、海外の石炭プロジェクトに約91億米ドルを提供してきました。公的金融機関がその大部分を提供し、公的エネルギー企業である韓国電力公社(Kepco)が建設から管理、メンテナンスまですべての段階に関わっています。

このような強力なステークホルダーが存在するため、私たちソウル事務所のチームは、戦略的に考えなければなりませんでした。建設会社の現代建設がインドネシアの政治家に賄賂を贈り、ジャワ島に石炭発電所を建設していたことが明らかになったとき、私たちはよいキャンペーンのアングルを見つけたと思いました。「汚れたお金」と「汚れた石炭」を結びつけ、ともすれば陳腐化しがちな話題に、多くのメディアの関心を集めました。

このキャンペーンでは、クリエイティビティも重要な役割を果たしました。これは、ソウルのチームが、この問題に対する人々の意識を高めるために作成したアニメーションです。

石炭融資問題はかなり複雑なテーマなので、メディア活動や報告書だけでは、市民の関心と支持を得るのが難しかったので、韓国のアーティストと協力して、わかりやすいコンテンツを作りました。

また、街頭アクションを行ったり、レーザー光線を使ってキャンペーンメッセージを投影したり、新聞広告を掲載して韓国電力公社の役員に海外での石炭発電所建設中止を働きかけたりしました。また、グリーンピース・インドネシアの同僚と協力し、ジャカルタの韓国大使館前でアクションも行いました。

街頭に煙突と煙を展示するクリエイティブなアクション

また、インドネシアなどのこれらの海外の石炭事業が、地域住民の健康に及ぼす影響をまとめた報告書も発表しました。この問題に関心のある国会議員と協力し、これらの石炭プロジェクトにどれだけの公的資金が投入されているかを把握し、確かなデータを元にキャンペーンを展開できるようにしました。

そして、意思決定者のトップである文在寅大統領にも働きかけました。外交的な機運が高まれば、街頭アクションや新聞広告、公開書簡などを通じて、大統領に直接訴えました。

韓国のキャンペーンの成果:韓国電力公社や建設会社数社が海外での石炭火力発電への投資を中止すると発表。文大統領は新たな石炭火力発電所への融資に公的資金を用いないことを表明。大統領の宣言は、石炭に未来はないというセクターへの明確なシグナルとなった。

日本:データに基づき、確固とした証拠を持ち、対話に臨む 

ダニエル・リード グリーンピース・ジャパン / 気候エネルギーキャンペーナー 

グリーンピース・ジャパンのキャンペーンチームは、民間の金融機関、つまり、MUFG、SMBC、みずほの3メガバンクに焦点を当てました。この3つのメガバンクは、石炭を利益の出る投資先と考えていて、深く関与しているのです。それを説得するのが、私たちのキャンペーンのミッションでした。

私たちは、まずこれらの石炭プロジェクトを調査することからはじめました。そして例えば、多くのプロジェクトが集中していたインドネシアのジャカルタ周辺では、これ以上電力を必要としておらず、新規プロジェクトは過剰な生産能力を生み出していることを調べ、恩恵を受けるはずの人々の電力需要との間に大きな食い違いがあることを突き止めました。

JBIC(国際協力銀行)と3メガバンクを含む銀行団が融資機関となるインドネシア・バタンの石炭火力発電所 (2020年12月)

また、石炭プロジェクトへの融資が「原則禁止」であっても、実際には政策や法律に多くの抜け道があって融資が継続しているため、石炭融資政策の具体的な内容についても調べました。

主な戦略は、直接対話を行うことでした。 どの銀行からも似たような答えが返ってくることが多く、レンガの壁に頭をぶつけるような思いでしたが、この活動の良いところは、3大銀行のうちの1行から行動を引き出すことができれば、3大銀行すべてが動いてくれることです。つまり、一つの銀行への働きかけに全神経を集中させることができたのです。

株主としてみずほフィナンシャルグループの株主総会に参加 (2020年6月)

また、多くの報告書を発行し、その中で特に、日本では絶対に認められないようなエネルギープロジェクトを海外で承認しているという、日本のダブルスタンダードに焦点を当てた報告書は、注目を集めました。

脱石炭のキャンペーンでは、石炭よりも再生可能エネルギーの方が投資対象として優れているということを主張することが、最も有効な手段のひとつです。そこで私たちは、東南アジアの再生可能エネルギー分野が大きく成長していることを図にし、環境だけでなく財政的な観点から、いかに再生可能エネルギーが良い投資機会となるかを説明しました。

日本のキャンペーンの成果:さまざまなNGOと協力して、大手金融機関に気候変動関連の株主決議を提出し、34.5%の票を獲得。石炭プロジェクトへの融資に関する規制が強化され、抜け道が縮小された。

中国:信頼を獲得し、マインドセットを変える 

Li Danqing  グリーンピース・東アジア  北京事務所 / 気候エネルギープロジェクトマネージャー

中国は、「一帯一路」構想などの「外向き」戦略もあり、海外の石炭プロジェクトでは世界最大の投資国です。

このキャンペーンは、私たちにとって大きな挑戦でした。非常にスマートな戦略が必要だったのです。

海外の石炭プロジェクトに投資することのリスクをすべて明らかにし、意思決定者の意識を変えるという目標に目を向けました。そのためには、リスクを洗い出し、背景を調査・分析し、可能な限り強い主張をする必要がありました。

 そして、ビジネス界の人々が関心を持ち、最終的に意思決定者へのメッセンジャーとなれるような言葉で伝える必要がありました。そこで、私たちは、環境・社会リスク、過剰設備リスク、エネルギー転換リスク(再生可能エネルギーが石炭よりも魅力的になり、政策的な支援も受けられるようになる)、気候変動リスク、政治的リスクなどの分析に集中的に取り組み、提起しました。

北京では、大気汚染が大きな問題となっており、石炭火力発電による健康への影響への関心は高い。(2012年1月)

主な資金調達先はどこかを調査しました。中国工商銀行(ICBC)を筆頭に、保険会社であるシノジャーもターゲットにしました。

中国の海外石炭火力発電プロジェクトを網羅した独自のデータベースを構築し、出資、資金、設備など、関与の種類によって分類し、主要なステークホルダーと投資先国を特定し、予測される投資リスクを説明するために実際のケーススタディーを作成しました。この豊富なデータは、世界のメディアにも取り上げられました。

中国のキャンペーンの成果 :2021年9月、中国が海外の石炭プロジェクトへの出資を停止することを約束

これからも成果を出し続けるために、東アジア各地にある事務所の経験やネットワークを生かしてキャンペーンを前進させていきます。

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