東京電力福島第一原発の敷地内に貯留されている放射能汚染水の処分について、政府が「海洋放出」と決定、発表したのは昨年4月。
周辺国には事前になんの断りもなく決められたこの判断に、抗議の声が届いています。

「事前協議を行うような内容の決定ではない」

昨年6月26日、福島県いわき市で「これ以上海を汚すな!市民会議」主催の「廃炉・汚染水 説明・意見交換会」(動画)が開かれ、地元の方々を含めグリーンピースやいくつもの市民団体が出席、オンライン会議サービスのZoomを使って、日本国内だけでなく世界各地の人々が見守る中で、さまざまな意見交換や質疑応答が行われました。

そのとき、海外の反応として、ミクロネシア連邦のデイヴィッド・パヌエロ大統領が菅義偉首相(当時)に宛てた公開書簡が紹介されました。
書簡には、「この方針決定の前に、政治的・歴史的・地理的に深い関係にある太平洋の島々からなる国々に対して、日本政府が事前に協議を行わなかったことにフラストレーションを感じている」とありました。

この会議に政府側として出席していた経済産業省資源エネルギー庁 原子力発電所事故収束対応室長の奥田修司氏は、出席者に「なぜ協議をしなかったのか?」と尋ねられ、「事前協議を行うような内容の決定ではない」と回答していました。

南太平洋の島国・キリバス、海岸に佇む少年。2014年撮影。

もし、太平洋の島々の方がこれを聞いていたら、どう感じたでしょう。
そう思ったグリーンピースは、太平洋諸国の皆さんに「皆さんの声を直接届けませんか?」と呼びかけ、昨年12月18日、こんな声明文*1が東京電力に届けられました(原文は英語、太字部分はグリーンピースが太字にしました)。

太平洋地域の市民社会組織 (CSOs)を代表する「核問題に関する太平洋共同体」(以下共同体)は、日本政府および東京電力ホールディングス株式会社(TEPCO)による、2023年から128万トンの放射能汚染水を太平洋に放出する計画に対して厳重に抗議をする。

共同体は、日本の電力会社である東京電力が2021年11月17日に発表した、東京電力福島第一原発から放射能汚染水を放出するための放射線影響評価(RIA)に基づく前提条件の信憑性に異を唱えます。

太平洋は核廃棄物の投棄場所ではなく、そうなってはならないものです。

したがって私たちは、以下に列挙する根拠に基づき、東京電力のRIAを否定します。

  • 太平洋地域の指導者、政府、太平洋諸島フォーラムが提起した懸念を継続的に無視、パブリックコメントの限られた募集期間、放射線影響評価に加え環境影響評価の必要性を含む、放射線影響評価の設計に対する異議。
  • 環境をまもる責任、人間の健康、食糧安全保障、とりわけ太平洋と太平洋地域の利益をはじめとする、地球規模の人々と環境への影響。
  • 太平洋地域の人々と環境にこれ以上害を与えないことを保証する非核兵器地帯条約等(注:ラロトンガ条約及びバンコク条約)への違反。

共同体は、東京電力及び日本政府が、その活動計画が短期的・長期的に環境や人間に及ぼす損失よりも、利便性と経費を優先させる過ちを犯したとみなしています。

共同体は、東京電力と日本政府に対し、その廃炉計画全体の包括的な見直しに着手するよう要請します。

さらに共同体は、東京電力が多核種除去設備(ALPS)方式を用いて「高放射性廃液を安全なレベルまで処理」して太平洋に放出する計画を中止し、緊急性をもって、人や環境に原則として無害な代替計画を策定しなければならないと考えています。

私たちは以下のことを推奨します。

1. 日本政府と東京電力は、太平洋とその環境及び人々にこれ以上害が及ばないように、福島第一原子力発電所からの放射能汚染水を太平洋に投棄することを中止する。

2. 日本政府と東京電力は、太平洋地域の指導者との協議のもとに行動し、太平洋諸島フォーラムの監督下で、独立した専門家による審査を実施する。さらに、海洋全体の環境影響評価と、影響を受ける恐れのある全領域に関連する放射線ベースライン・データの収集をしていない場合、このような大量の放射能汚染水を放出する提案は認められないものとする。

3. 日本政府と東京電力は、放射能汚染水による太平洋の汚染を可能な限り最大限に防止、軽減、除去するために、放射能汚染水の陸上貯蔵施設を維持するためのあらゆる選択肢を考慮するなど、適切な代替策をすべて検討する。その第一歩として、廃炉計画の包括的な再評価を緊急に実施することが必要となる。これには、安全な封じ込めや貯蔵のためのあらゆる代替オプション、ならびに現行案において太平洋に投棄が提案される放射能汚染水を含む放射性物質を安全に処理できる技術を見出すことなどが求められる。

4. 太平洋地域の指導者や地域機関からの要請に応じ、日本政府は太平洋諸島政府を含む最近隣諸国と協議を行い、市民の参加も保証するために、より良いプロセスを構築する。

Youngsolwara Pacific
Marshall Islands Students Association, Fiji
Pacific Conference of Churches
Pacific Islands Association of Non-Governmental Organisations
Pacific Network on Globalisation

太平洋はゴミ箱じゃない

太平洋ではかつて、アメリカ・イギリス・フランスによる核実験が、合計350回以上行われました。*2
よく「日本は世界で唯一の被爆国」と称されますが、実際には、太平洋のいくつもの島国が、度重なる核実験によって被ばくしています。

核実験で被ばくしたロンゲラップ島の人々を避難させるグリーンピース。1985年。

そして事故当時、東電福島第一原発からは大量の放射性物質が大気に、海中に放出されました。
これ以上、放射性物質を太平洋に捨ててはいけないのです。

海洋放出をくいとめる

海洋放出を、どうしてもくいとめたい。
グリーンピースはそのために、より大型で堅牢なタンクで汚染水を保管し、自然に放射性物質が減少する間に、精度の高い放射性物質分離技術を開発するという代替案を提示し、政府と東京電力にはたらきかけを続けています。

こうしたグリーンピースの環境保護活動はすべて、独自の調査から導き出された科学的根拠に基づいています。
この活動は、子どもたちの未来、あらゆる命がまもられる社会の実現を願う個人の皆さまのご寄付のみに支えられています。

あなたもぜひ、海を放射能からまもる活動に、ご寄付で参加してみませんか。

グリーンピースに寄付する

グリーンピースは政府や企業からの援助をうけず、独立して環境保護にとりくむ国際NGOです。 大切なあなたの寄付が、グリーンピースの明日の活動を支えます。

参加する

1: Media Statement: Pacific Collective Oppose Japanese Government Utility Company’s Plans to Dump Radioactive Waste in the Pacific Ocean
2: 核実験の悲劇の地 南太平洋の体験