使い捨てプラスチックは、ごみになって海や川を汚染し、CO2を出すだけでなく、原料の採掘や生産の過程で有害物質も排出されています。そして、そうした有害物質による環境汚染や健康被害は、一部の、特に所得が低く社会的立場の弱い人々に集中しているという現実があります。
米国ルイジアナ州のタフトカーバイド工場近くの墓地(2001年1月)

海洋汚染、気候変動、そして差別問題

1年間にプラスチックの生産から廃棄までの間に排出されるCO2は、日本の1年間の排出量よりも多く、このままのペースでプラスチック生産が増え続ければ、プラスチックによる気候変動への影響はますます大きくなります。

気候変動、そしてすでに誰の目にも明らかな海洋汚染だけでなく、プラスチックによる汚染はほかにもあります。

その一つが生産地域の住民コミュニティへの直接的な汚染、そして健康被害です。

原料となる化石燃料の採掘現場や、精製所、石油化学工場は、どれもさまざまな有害物質や発がん性物質を大気中に排出し、近隣の地域社会と生態系を危険にさらします。

さらにフラッキング(水圧破砕法による開発)の場合には、地表水と地下水に深刻な汚染が起こることもあります。

こうした地域の汚染被害は、世界中で平等に起きているわけではなく、一部の、特に所得が低く社会的にも立場の弱い人々が住む地域に偏っているのが現実です。

石油化学系の工場が集まった米国ルイジアナ州の地域で生まれ育つ少年。生まれつき呼吸器障害を持つ。(2001年1月)

プラスチックによる「有害な負担」は、不平等

例えばアメリカでは、操業中の石油またはガスの採掘現場から1マイル(約1.6キロメートル)以内に住む人の数は全人口の6%ですが、精製所がもたらす「有害な負担」の56%を有色人種(全人口の39%)が負い、19%を低所得層(全人口の14%)が負っています

石油化学工場の有色人種への影響はさらにひどく、有害な負担の66%が有色人種、18%が低所得層の人々にかかっています

精製所も石油化学工場も、その有害な負担が集中しているのは、有色人種の占める割合が平均よりも高く、かつ所得レベルが平均よりも低い地域です。

米国テキサス州カーンズ郡に住む女性は、2011年から稼働しているガス掘削の水圧破砕用井戸から放出される硫化水素ガスなどの化学物質による重篤な反応に悩まされている。(2015年3月)

廃棄後の影響についても同様で、焼却時に排出される有毒なガスも近隣住民の健康を脅かしますが、アメリカではごみ焼却炉の約80%が、低所得者層の人々や有色人種、あるいはその両方が住む地域にあるのです。イギリスでも同様の傾向が見られます。

キャンサー・アレー(がん回廊)と呼ばれる街

アメリカのルイジアナ州ミシシッピ川下流に、11郡から構成される「キャンサー・アレー」と呼ばれる地域があります。この地域で特にがんの発生が多いという疑いがあったことから、1980年代にこう呼ばれるようになりました。

この地域には多くの石油化学系の工場があり、その数は現在では150近くにのぼります。

そしてこの地域で暮らす人々の人種の構成を見ると、アフリカ系米国人が全国平均よりも高いのです。汚染を引き起こす産業が集中しているために、住民の人権がひどく脅かされていると国連も指摘しているほどです。

環境正義を訴える団体ライズ・セントジェームズ(RISE St. James)の創設者は、汚染を引き起こす産業は「黒人の住む地域にやってくる。なぜなら、誰も何も言わないと思うからだ」と語っています。

自宅のすぐ横でガスパイプラインの設備工事が進む米国ルイジアナ州の女性。ガスパイプラインと住居からの距離を定める規則はない。 2018年6月2日

国内の格差だけでなく、国際的な格差も

さらに、先進国は長年、自国でリサイクルできないプラスチックごみを中国、そして近年では東南アジアやアフリカの国々に輸出をしてきました。

これらのプラスチックごみが途上国で不法投棄されたり、不適切な焼却によって現地の環境を汚染し、地域住民に健康被害をもたらしていることが、グリーンピースなどのNGOやメディアによる調査報道で明らかになっています。

日本は、アメリカに次いで世界で2番目の廃プラの輸出大国です。途上国への廃プラ輸出問題に密接に関わっている分、責任も大きいのです。

u先進国から輸出されたプラスチックごみが不法投棄され、燃やされているマレーシアの路肩。(2019年8月)

「脱使い捨て」がもたらす環境正義

現在プラスチックの最大の生産地域はアジア・北米・欧州ですが、プラスチックが海や気候変動に与える影響、一部の地域や国に「有害な負担」をもたらしている状況を知ると、いかにプラスチック汚染が世界規模で根深い問題かわかります。

だからこそ、私たちはプラスチックを増やすのではなく、大幅に減らす方向に移行していかなければいけません。目指すべきは「脱使い捨て」で、それを実現するためのリユースの仕組みの導入や、パッケージフリーの製品を大幅に拡大していく必要があります。

このシフトを日本を含めた世界規模で起こしていくことが、いま世界中の政府・自治体、企業、市民に求められているのではないでしょうか。

グリーンピースでは、多量の使い捨てプラスチックを世界中に流通させているコカ・コーラ、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバに対し、「脱使い捨て」を世界で先導していく立場になってもらうため、国際キャンペーンを行っています。

すでに世界中から700万人が参加しているこの署名に、あなたも参加しませんか?

世界規模の変化を、市民一人ひとりのアクションから起こしていきましょう。

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この記事で紹介した事例について詳しくは:グリーンピース報告書『気候緊急事態をひもとく』

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