世界中で増えている異常気象。気候危機は情報通信技術(ICT)企業にも、今や無視できない影響を及ぼすようになっています。同時に、ICT企業が気候危機への対応としてカーボンニュートラルにどう取り組んでいるのか、ますます重要になってきています。
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ICT産業を襲う異常気象

今年初め、歴史的な厳冬の吹雪に見舞われた米国テキサスではサムソンの半導体工場が休業に追い込まれ*、3億4800万ドルもの損失を出しました。

2月には、世界の半導体受託生産の5割超を生産する台湾のTMSCが、貯水池が旱魃で干上がったため、水をトラック輸送で調達する事態となりました。半導体の不足の理由として、新型コロナ感染症による需給バランスの不安定化が指摘されますが、原因はそれだけではなく、世界各地で発生した干ばつや渇水、豪雪も、世界的な半導体不足に拍車をかけているのです*

台湾・台南市官田の干上がった湖と陸地

ICT業界は電力を多く使い、東アジアで最も急増している二酸炭素排出源のひとつとなっています。今後も大きく伸びることが予想されていて、気候危機対策を実施する上で重要な産業です。

東アジアの大手ICT企業30社の年間の電力消費量をすべて合計すると、タイの全電力消費量を超えるほど。だから、2030年までに自然エネルギー100%の電力を使用する目標サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを掲げ、達成に向けてスピードアップすることが大事なのです。

気候危機と自然エネルギーへのシフトの必要性を背景に、グローバル企業では、アップル社が2030年までにサプライチェーンを含めた100%自然エネルギー目標を掲げたり*、グーグル社が2030年に全ての消費電力をローカル調達の自然エネルギーで賄うとの目標を打ち出したり*、というニュースを見たかたもいらっしゃると思います。

アメリカ・バージニア州にあるアマゾンのデータセンター

東アジアは情報通信技術(ICT)産業が急速に成長していて、今後も大きく伸びると予想されていますが、今、アジアの有名・巨大ICT企業は、どんな対策を考え、実施しているでしょうか。

アジアのICT企業の気候危機対策 — グリーンピースのランキング

グリーンピース・東アジアは東アジア3カ国(日本、中国、韓国)の代表的なICT企業30社(各国10社)を対象に、気候危機を抑えるための目標設定や、自然エネルギーの導入状況がどうなっているのか、分析・評価を行い、ランキングした報告書『ハイテク企業は再生可能エネルギー競争を勝ち抜くことができるか? 』を発表しました。

日本の企業ではソニー、富士通、パナソニック、ルネサス エレクトロニクス、楽天、ソフトバンク、日立製作所、東芝、ヤフー、キヤノンの10社を、その他韓国のサムスンやLG、中国のファーウェイやアリババなどの有名企業を対象としています*

分析・評価のおもな指標は次の4つ

  1. 気候変動対策の目標設定 (20XX年までにカーボンニュートラルにする、など)
  2. 自然エネルギーの導入などの実施状況
  3. 情報開示
  4. アドボカシー(政府への提言やサプライチェーンの企業への意見・支援等)

この指標から、グリーンピースでは企業の公開情報**(サステナビリティ報告書や報道など誰でも見られる資料)をもとに分析をしました。詳しい結果はこちらにまとめていますが、ここでは日本の企業についてご紹介します。

**企業の公式ウェブサイト、年次報告書、サスティナビリティ報告書、ESG報告書など。2021年9月30日までの情報を調査対象にしました。

ソニーがトップ、でもどの企業も総合評価はCかD

分析結果では、1位がソニー、そして富士通、パナソニックが続き、他の日本企業も3カ国30企業の中ではほぼ上位に入りました。でも、トップのソニーも含めてほとんどの会社がCかDの成績にとどまりました。

主な原因は、多くの企業が次の点で得点を伸ばせなかったことです。

  • 2030年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げているか。
  • 2030年までに使用する電力を自然エネルギー100%にする目標を掲げているか。
  • 企業の総排出量の大半を占めるサプライチェーン全体を含めた目標設定ができているか。

各社の状況–目標をもっと高く、早く

総合評価

総合評価ではソニーの「C+」が最高で、富士通、パナソニックが「C」でした。

ソニーは、自然エネルギーを100%にし、サプライチェーン全体で排出量を削減するというという目標設定をしていることが高評価に繋がりました。一方、今は自然エネルギー電力の利用率が7%にとどまることなどから、総合的点を伸ばせませんでした。

日本企業のカーボンニュートラルの目標設定状況

対象とした日本企業10社のうち5社が、自然エネルギー100%の目標を掲げていました。このうちヤフーと楽天の2社がそれぞれ2023年、2025年という、2030より早い時期の移行を目標としていることは注目すべき点です。

他8社は、今世紀半ば(ソニーは2040年)でした。企業の自然エネルギー100%を推進する国際的な取り組み「RE100」に参加している企業の目標年が平均2028年となっていることを考えると、これら8社にも目標の前倒しが期待されます。

サプライチェーンを含めた目標設定

サプライチェーン全体を温室効果ガス排出削減計画に含めていたのは、ソニー、東芝、日立製作所の3社だけでした。

温室効果ガス排出量削減活動

自然エネルギーの利用比率は、総電力消費でみると楽天(64.8%)を除き、残る9社はいずれも総電力消費の15%以下と、まだかなり低いところにいます。

政府の方針が足かせに?

日本の電力は昨年実績でみると約75%が化石燃料による火力発電です*。中でも二酸化炭素発生量の多い石炭火力発電を、政府は2030年になっても約19%も使う方針です。これでは、企業が自然エネルギー電力の使用を伸ばし、カーボンニュートラルの達成を早める上で足枷ともなりかねません。

企業が取り組みを加速するためにも、日本政府には次のことが求められます。

  • 石炭火力発電は例外なく2030年までに停止させる
  • 2030年までに自然エネルギーを全体の電力供給の50%以上とする目標を掲げ、達成のための明確な道筋を示す
  • 現在進行中の自然エネルギーの電力に関連する制度改革では、現在の仕組みの不公平さや複雑さを解消し、自然エネルギー電力の販売事業社にも、契約企業にも使いやすく、かつ地域と共存できる方法で自然エネルギー電力を増やせるような制度にする
畑の上にソーラーパネルを設置して、農業と発電を両立させるソーラーシェアリングは、日本で注目される方法の一つ。

そして、ICT企業も、こうした課題を乗り越えるよう政府に働きかける役割があります。その点では、今回のランキングの4つめの評価の柱「アドボカシー」では日本企業は6社が「A」の高い評価となっています。

とはいえ、企業が自ら高い目標を掲げ、達成するためには、現状ではぜんぜん追いつきません。政府へのさらなる提言を行うと同時に、サプライチェーンの企業に働きかけ、関連する産業のカーボンニュートラルを牽引する役割を果たすことが今まで以上に求められます。

市民の働きかけでICT企業をグリーンに

グリーンピースはこれまでも、ICT企業に対して、自然エネルギー100%へ切り替えること、製品から有害物質をなくすこと、修理しながら長く使えるようにすることなどを求めて、国際キャンペーンを展開して、変化を実現してきました。影響力が大きく、製品の環境インパクトも大きい大手ICT企業が変わることは、業界全体を大きく動かします。

2009年
アップルが、MacbookとiMacの新製品で、有害な塩ビ(ポリ塩化ビニル、PVC)フリーを実現。製品が安全になり、リサイクルも簡単に、廃棄時の汚染も減るようになった。

2011年
Facebook(現:メタ・プラットフォーム)社が自然エネルギーにシフトし、同社の立地方針に、未来のデータセンターはクリーンな自然エネルギーの供給が受けられる場所が好ましいと記された。
2018年

サムスン電子が、米国、欧州、中国で2020年までに100%自然エネルギーを実現すると約束。
Facebook本社の上に、”Join the Energy Revolution エネルギー革命に参加して”と書かれた飛行船を飛ばし、企業にメッセージを送った。 (2011年4月)

各国がカーボンニュートラルを達成するために、成長を続ける東アジアのICT企業が、サプライチェーンを含めて脱炭素化することが欠かせません。

グリーンピースが、ICT企業に対する調査や働きかけを通して、ICT企業とともに解決策を実現するキャンペーンに、ぜひこれからもご注目ください。

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