新型コロナウイルス肺炎と森林火災

近年、世界中の森がしばしば大規模な火災に見舞われ、現地の生物多様性や先住民の人々、周辺住民が甚大な被害を被っています。
火災は年を追うごとに拡大する傾向にあり、もともとは空気中の二酸化炭素を吸収して地球の気温を保ってくれていた森が、いまや、大量の植物が燃えることで膨大な二酸化炭素を放出し、気候変動に悪影響を及ぼすほどの壊滅状態まで追いつめられています。

その森林火災が、新型コロナウイルス肺炎のリスクを助長する、という論文が今年8月に発表されました。
ハーバード大学の研究では、森林火災の煙の微粒子PM2.5が呼吸器や免疫に悪影響を与えることで、新型コロナウイルスの感染リスクが高くなり、亡くなる人も増えると指摘しているのです。1

2019年の森林火災の煙に霞むオーストラリア・シドニーのオペラハウス。
呼吸器系疾患のある人は屋内にとどまり、屋外での運動を避けるよう警告された。

煙害で危機にさらされる命

森林火災や石炭火力発電に起因する「煙害(ヘイズ)」という言葉は日本ではあまり馴染みがありませんが、頻繁に森林火災が起こる国の周辺国では、政府が汚染指数を発表して国民に注意喚起する2ほど、当たり前のものになってしまいました。

インドネシアでは大規模なプランテーション(農園)開発などを目的とした人為的な森林火災が毎年起きています。そこで燃やされる森や泥炭地から立ちのぼる煙は、季節風にのってマレーシアやシンガポール、ブルネイなど近隣国まで運ばれます。
この煙には二酸化硫黄、二酸化窒素、PM2.5などの有害物質も含まれていて、目や鼻や喉の粘膜を刺激し、呼吸器系の感染症や肺炎を引き起こすリスクがあります。
高齢者や子ども、乳幼児、心臓や肺に基礎疾患を持つ人にとって、この煙はより危険です。

東南アジアでは煙害で毎年推定11万人が命を落としています。3この数値は新型コロナウイルス流行前の調査結果なので、現在はもっと悪化していることも考えられます。
もちろん、こうした危険にさらされているのは人間だけではありません。同じ地域に住む他の生きものたちも、生息地を奪われることに加え、同じ危機的状況に直面しています。

インドネシアの病院で酸素吸入をうけるラファくん。生後50日。2019年9月撮影。

4,000キロを飛ぶ危険な煙

今年、アメリカ・カリフォルニア州では、街がまるまるひとつ焼失してしまうほど大規模な森林火災が多発4、9月に入っても次々に新たな火災が発生し、5万人に避難命令が出されています。5
そしてその煙が、広大なアメリカ大陸を横断して約4,000キロも離れたニューヨークにまで到達していることも報道されています。6

煙害は視界を低下させ、飛行機や車など交通機関の運行を著しく妨げ、日照不足による農業被害や、観光業や外食産業が打撃を受けるなど、産業や経済にも悪影響を及ぼします。
2019年末から世界中に拡散した新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的損失からの回復に、森林火災の煙害がさらなる追いうちをかけることにもなります。

煙に包まれたアメリカ・カリフォルニア州のジェンキンソン湖。2021年9月撮影。

森と健康をまもるには

森林火災の原因は、気候変動による干ばつと熱波、プランテーションをはじめとする農場開発などを目的とした人為的な森林破壊。
これ以上の被害をくいとめるには、まず、一刻も早く、原因となる異常気象の多発を抑えるために気候危機の悪化を防ぎ、乱開発をやめさせる必要があります。

グリーンピースでは気候危機を解決し森林破壊をなくすために、世界各地で下記のような活動を実施しています。

  • 世界各地で森林火災の現場を監視し、地域住民に消火活動を指導、協力する
  • 国際社会、各国政府、地方自治体に実効的かつ迅速な気候変動対策を促す
  • 企業や金融機関にはたらきかけ、化石燃料に依存する事業をより持続可能な事業に改善させる
  • 森林破壊由来の原材料の使用をやめるよう企業に調達方針の変更を求める
  • 森林保護のための法規制を強化するよう各国政府にはたらきかける
インドネシア、防護マスクを着用してダルサラーム・モスクで礼拝に参加する一家。2019年8月撮影。

一人ひとりにできることもたくさんあります。

  • 森林破壊由来の原材料を使用した製品を買わない
  • そうした商品の製造・販売をやめるようにメーカーや流通企業に意見を届ける
  • 自然エネルギーを積極的に導入している電力会社に乗り換える(こちらのウェブサイトで全国の電力会社の情報がチェックできます)
  • 食生活を植物由来の食材中心へと見直す
  • グリーンピースが発信している情報を、SNSなどを通じて周りの人たちとシェアする

二酸化炭素排出実質ゼロ=ゼロエミッションを実現するために、市民が自ら自治体や企業に対策をはたらきかけることも重要です。
グリーンピースは、地域の人たちとつながっていっしょに活動するための「ゼロエミッションを実現する会」を運営しています。

世界中どこでも、綺麗な空気を胸いっぱい呼吸できる地球をまもるために、小さな一歩を踏み出してみませんか。

インドネシア・ボルネオ島、濃い煙害の中で遊ぶ子どもたち。2015年10月撮影。

1: https://www.hsph.harvard.edu/news/press-releases/wildfire-smoke-may-have-contributed-to-thousands-of-extra-covid-19-cases-and-deaths-in-western-u-s-in-2020/
2: https://coffee.officegfix.com/haze_malaysia2018/
3: https://www.greenpeace.org/southeastasia/story/2354/help-stop-the-haze/
4: https://www.afpbb.com/articles/-/3360498
5: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210902/k10013238391000.html
6: https://www.afpbb.com/articles/-/3357831