2021年8月、九州や中国地方など西日本を中心に、各地で平均降水量を大きく上回る大雨が降り続き、河川の氾濫や土砂災害による被害が相次ぎました。大雨による被害に遭われた方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。

こうした豪雨被害を毎年のように経験する私たち。なぜ豪雨被害は増えているのでしょう?そしてどのように対処できるのでしょうか?

年間降水量の半分が1週間で降った

8月11日の降り始めから8日間の総雨量は、長崎県雲仙の1290.5ミリ、佐賀県嬉野の1170.5ミリをはじめ、九州と四国の10のエリアで1000ミリを超えました。

多くの地点で1週間足らずの総雨量が平年1年間の降水量の5割近く、もしくはそれを超えたことになります。2018年の7月豪雨(西日本豪雨)を上回る記録となったエリアもあります。

内閣府の8月27日の発表では、死者12人、負傷者16人並びに住家被害は、全壊19棟、半壊30棟及び一部破損154棟(※広島県、佐賀県の住宅被害については2021年8月30日現在も調査中)などの被害が報告されています。

毎年のようにこのような、集中的な豪雨や長雨が、日本を襲っています。

大雨の長期化 その原因は?

気象庁などのデータによれば、このような気象条件が、2021年8月の九州などでの長雨の原因となりました。

  • 南西からの暖かく湿った空気の流れが、南シナ海から大量の水蒸気を日本に運んできた
  • 低温のオホーツク海高気圧による北からの冷たい空気の塊と、南からの暖かい空気の塊が押し合い、前線が停滞し続けた
  • ゆっくりと移動する停滞前線が、数日間継続して大雨をもたらした
  • 南西からの気流は非常に湿っていて、一部の地域では上空500mから14km(対流圏の最上部である対流圏界面)まで、相対湿度※はほぼ100%だった
南西からの暖湿流が日本上空に多量の水蒸気をもたらし、北からの冷たい空気と出会って暴風雨となった –  https://rammb.cira.colostate.edu/

※相対湿度とは、大気中に含まれる水蒸気量を、そのときの気温における飽和水蒸気量で割った割合。飽和水蒸気量は、1㎥の空気中に存在できる水蒸気量のことで、気温が高くなると多くなり、気温が低くなると少なくなる

異常気象はこれからも増え続ける

8月9日に公表された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書*では、人間の活動が地球を温暖化させていることは「疑いの余地がない」とはじめて断定し、地球温暖化がすでに熱波、豪雨、台風(熱帯低気圧)、干ばつなどの極端気象の発生に影響を及ぼしていること、そして地球の気温の上昇に伴い、これらの極端な現象の強度と頻度が増加することが示されました。

*IPCC第6次評価報告書の第1作業部会報告書

そして、気温の上昇が1.5℃で安定している場合でも異常気象の発生頻度は高くなることが予測されており、2℃上昇すると1.5℃での頻度に比べて少なくとも2倍に、3℃上昇すると4倍になるとしています。

今回IPCCは、今後20年以内に気温上昇が少なくとも1.5℃に達してしまう可能性が高いと警告しています。これは、2018年時点のIPCCの想定*より10年も早まっています。

気温の上昇に伴い、地球の水循環にも大きな変化が生じます。

すでに雨の多い地域はさらに雨が多くなり、すでに乾燥している地域はさらに干ばつに見舞われやすくなります。気温が1℃上昇するごとに、極端な降雨量が7%増加することもわかっています。

*IPCC「1.5℃特別報告書」

下のグラフは、1991〜2020年の30年間の平均降水量を基準値として、各年の降水量の基準値からの偏差を表したものです。降水量の年ごとの変動が大きくなっていることがわかります。

出典:気象庁「日本の年降水量偏差
各年の降水量の基準値(1991〜2020年の30年間の平均降水量)からの偏差。青い太線は、偏差の5年移動平均値。

これまでの防災では太刀打ちできない

現在、降水量を観測する観測所は全国に約1,300カ所、17km2に1地点の割合で設置され、気象庁の地域気象観測システムは、精度の高い気象警報、大雨警報、台風情報、気象情報などを発表しています。

気象学者やIPCCに参画する研究者や科学者は、異常気象がもたらす被害や人間の活動が地球温暖化の要因であるということを理解していますが、政策立案者はその分野の専門家ではないことがほとんどです。

政策立案者は、将来のリスクに対する考え方を変えなければなりません。

2019年8月、佐賀県などを襲った豪雨で、多くの民家や施設が浸水・灌水の被害を受けた

国や自治体の危機管理は、何百年、何千年に一度といったまれな異常気象事態を想定できていません。しかし、近年、こういった異常気象現象が頻発し、その頻度は高まることが警告されています。国や自治体は、私たちが災害が起こりやすい世界に住んでいるという事実を認識し、何百年、何千年に一度の規模の大雨や台風などが増すことにも備える必要があります。被災地の復旧・復興を進めるとともに、次の災害への備えも始めなければなりません。

命を守るための対策、次の異常気象や災害への備え、極端気象を減らすための予防対策

気候変動によって、ハザードマップの作成、防災訓練、堤防の増強などの短期的また応急処置的な対策だけでは、地域社会や命を守ることはますます難しくなります。

今必要な備えには、例えばこのようなことが考えられます。

命や生活を守るための対策:

  • 命を守る防災情報と早期警報の共有(5~10日の早期警報で異常気象に備える)
  • 地域住民の防災コミュニティの醸成(防災訓練などにより防災意識を高める)
  • 避難所運営を軸とした防災・減災に取り組む地域づくり
  • 避難所マップ、ハザードマップの作成・アップデート
  • 復旧・復興資金の調達

次の異常気象や自然災害への備え:

  • 「気候変動×防災」教育の義務化するなど、市民の認識を変える防災教育
  • 現在・将来の気象災害の激甚化を想定した都市別行動計画を策定
  • 全ての分野の政策において、気候変動対策と防災・減災対策を効果的に連携して取り組む
  • 気候変動の適応策を取り入れた都市開発やインフラ(治水方法の転換などインフラをより気候変動に強いものに再設計する)
  • 自然災害被害を補償する保険制度(異常気象時の損害を減らすために、災害モデリング会社や保険会社と連携する)

極端気象を減らしていくための予防対策:

  • 地球温暖化の現状をあらためて理解したうえで、全ての公共セクターと民間セクターが直ちに温室効果ガスの排出量を削減し、ネット・ゼロを達成するための計画を立て、実行する(政府や企業が対応を遅らせている間にも、気候変動が私たちの生活にもたらすリスクは深刻化してしまう)
  • 重要なインフラや、病院・老人ホームなどの脆弱な人々がいる施設は、河川の氾濫や洪水の危険性がある地域では、なるべく再建しない
  • 日本政府は気候危機リスクの高いエリアで、財政的に厳しい地域のインフラ整備に投資する

脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあて、誰も置き去りにせず、災害による死者や被災者数を大幅に削減していくインフラと、これ以上異常気象による災害を増やさない未来を作る時なのです。

また、今回の報告書では世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることはまだ物理的には可能ですが、そのためには全てのセクターでかつてない変革が必要で、2030年までにCO2排出量を半減し、2050年までに排出実質ゼロにすることが必要であることが示されています。そして、日本のように排出量の多い先進国にはそれ以上の削減努力が求められます。

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