それぞれ市民が、自分が暮らしたい社会を思い描いて、同じ課題意識を持った議員、思いを代弁してくれる議員に一票と託す選挙。2021年7月、コロナ禍で行われた東京都議会選挙で、都内在住の笠井貴代さんは、候補者や周りの有権者への働きかけを行い、気候変動への危機感を共有する議員を、都議会に送り出すことに貢献しました。悩みながらもはじめて選挙アクションに挑戦した笠井さんに、具体的にやってみたこと、そしてその時の思いをお聞きしました。衆院選挙や地方選挙に向けて私たちができることを、笠井さんのお話から探ってみませんか?
笠井貴代さん(撮影:千葉愛子)

子どもたちにこんな未来が待っているのか

私が環境問題に関心を持ち始めたきっかけは、子育てでした。

子どもがアレルギーを持っていたこともあって、食べものは無農薬がいいかな?環境は大丈夫なのかな?と、地球環境について考えるようになりました。

そして一昨年の夏、実家がある帯広が、39.5℃の猛暑になりました。もともと涼しいので、ほとんどの家にエアコンはありませんでした。母と電話で話していても本当に辛そうで…。私が子どもだった時と、大きく変わってきていることを感じたんです。

そうした不安が募って、もっと知りたいと思い、元アメリカ副大統領のアル・ゴアさんが主宰する「クライメート・リアリティ」に参加しました。気候変動について正しく学び、知識を伝達してアクションを広められる人を育成するための二日間の合宿です。

アル・ゴアさんの膨大なデータが詰まったプレゼンテーションを聞き、ショックを受けました。

「子どもたちにはこんな未来が待っているのか」「時間がない」

ぼんやりとしていた不安が、危機感に変わりました。

その時はITの仕事をしていて、お給料も良かったのですが、気候変動を止めるためのタイムリミットと言われるこの10年、お金をたくさんもらっても意味がない、と感じました。この10年で後悔したくない、と。

そこから、環境に関する仕事に変えて、ほとんど毎日、気候変動のことを考えるようになりました。

「クライメート・リアリティ」で、同じグループのメンバーと(ご本人提供)

政治を変えるには、選挙が一番有効

活動の一つとして、グリーンピース・ジャパンが立ち上げた「ゼロエミッションを実現する会」に参加しました。草の根の活動で、自治体からCO2排出ゼロを実現していくことをめざすボランティアグループです。

温室効果ガスの削減目標を引き上げることを求めて請願を出すなど、目黒区の地域グループで活動をしていました。

自治体から気候変動対策を加速していくために、7月の都議会選挙はチャンスだと思いました。政治を変えるには、選挙が一番有効だと思ったんです。

でも、候補者のホームページや、アンケート結果を見ても大きな差を感じず、投票先を選ぶには情報が不足していると感じました。

自分で候補者とコミュニケーションをとりたいと思い、各候補者にメールを送ってみることにしました。

メールで聞いたのは、この3点です。

1) 今回、コロナ対応について大きく注目が集まっていると思いますが〇〇様の政策としてコロナ以外で注力している事項は何でしょうか。(オリンピック・災害対策・子育て支援・SDGs・etc)

2) 私自身として今回の感染症について、環境問題も大きく関わっていると考えており、今後の政策としても取り上げていただきたい課題です。〇〇様の方では気候変動等、環境問題についての問題点を感じることやどのような対応をすべきか等、お考えがございましたらお伺いしたいです。

3) 私の周囲の友人(有権者含む)に今回お伺いした内容をSNS等で共有しても宜しいでしょうか。もちろん、NOでも構いません。NOでしたら開示はいたしません。私自身の投票行動を決めるための情報源にのみさせていただきます。

「政治家は、声を聞いて届ける姿勢が大事」

「政治家は、声を聞いて届けてくれる姿勢が大事じゃない?」

友人のこの言葉をきっかけに、政治家はコミュニケーションが取れることが大事と考えるようになりました。

候補者に送ったメールでは、二人から返信をもらうことができ、そのうちの一人は、区議員時代に気候非常事態宣言の発出を提案したことがあったり、自身のブログでも気候変動について発信していたり、さらに気候変動の請願を出す際に私達のグループをサポートして下さったりするなど、気候変動について実際に行動している人だとわかりました。返信の内容からも、私の声を聞いてくれそうだな、と感じました。

私の気候変動への危機感を共有し、声を届けてくれそうなこの候補者に、投票することに決めました。

しかし、投開票日が迫り、当選するかどうかギリギリのラインにいる、と候補者からの連絡がありました。特定の候補者に投票を呼びかける行動をしたことはありませんでしたが、同じ選挙区の人にも伝えなければと思いました。

たくさん考えて友達に送ったメッセージ

目黒で一緒に活動している仲間や、子どもの保育園のママ友に連絡してみることにしましたが、ママ友には、政治の話をしたことはなかったし、どんなメッセージにしようかすごく考えました。

「政治の話でごめんね」「気に触ったらスルーしてもいいよ」なんて言葉も添えて、メッセージを送りました。

日本では政治は一般的な話題でもないので、正直、「嫌われるかもしれない。」という不安な気持ちもありました。

でも「子どもの未来のためにも、ここで嫌われることを怖がっている場合じゃない」と最後は「送信」ボタンを押しました。

勇気を出して送ったグループLINEのメッセージには、グループ内では反応がなかったのですが、その後何人かから「全然関心がなかったけど、ぜひまた教えてください!」というDMをもらいました。不安な気持ちのままメッセージを送ったので、そのDMをもらってすごく嬉しくて、元気が湧いてきました

そして、嬉しいことに、それは選挙結果にも現れました

私と目黒チームで投票を呼びかけた人のなかで、その候補者に投票すると教えてくれた人は10人になったのですが、最終的にこの候補者は、6票差で当選しました。

もし私や目黒チームのメンバーが周りの人へ声かけをしなかったら、結果は違ったかもしれません。身近な人から声をかけてみるということに、すごく希望を感じました

気候変動を考えることは、社会を考えること

私は、気候変動を止めるためのこうした日々のアクションに、希望を感じていますうまくいけば、必ず社会が良くなる、と信じているからです。

固定観念で、できない・変わらないと思ってしまうけど、私たちが声を上げて、みんなが気候変動対策を求めれば、政治は絶対に変わらざるを得ません。世界には、声を上げることすら安全ではない国、地域もあります。日本は民主主義で、声を上げる自由があるし、必ず変える方程式はあります

「ゼロエミッションを実現する会」の目黒区チーム・ゼロエミッション目黒のメンバーと目黒区議員を訪問し、区の気候変動対策についてディスカッションした。(ご本人提供)。

そして、アクションを起こしている人たちは、他者や生きものを愛している素晴らしい人ばかりです。コロナ禍になって、人との関係が薄くなった時、今後どんな人たちと一緒に過ごしたいかを考えることが増え、環境のことに関心を持っているこうした人たちと充実した時間を過ごすことができて、ラッキーだなとしみじみ思います。

お金はたくさん残せませんが(笑)、このような素敵な人たちとの繋がりをソーシャル・キャピタルとして子どもたちに残せることも嬉しいことの1つです。

気候変動を考えることは、他者や社会について考えることです。

気候変動について考える人が増えるということは、他者を想える人が増えるということであり、子どもたちに残したい社会、そして私自身が見たい世界につながる。そう思って、活動を続けていきます。

……

笠井さんも活動する「ゼロエミッションを実現する会」に参加しませんか?