世界で喫緊の課題となっているプラスチック汚染。日本でも、2020年に始まったレジ袋有料化を皮切りに、やっと国をあげての取り組みが始まりました。一方、市町村レベルでは、世界水準で条例や制度を整え、脱プラスチックを推進しているまちもあります。そんなまちのひとつ、京都府亀岡市で市民活動をしながら、プラスチック汚染を研究しているのが大阪商業大学公共学部の原田 禎夫(はらだ・さだお)准教授です。原田准教授に、日本のプラスチック汚染の現状と、脱プラスチックに向けた市町村の動きについてお話を伺いました*。
原田 禎夫准教授

*以下は、市民環境フォーラム第12回「プラスチック汚染に立ち向かうために~脱プラスチック、そして脱炭素社会へ」(2021年6月30日開催)での原田准教授のお話をまとめたものです。

そもそも、プラスチック汚染とは?

今年のゴールデンウィークに目にしたSNSの投稿で、日本の海岸をクリーンアップしたところ、1986年製のスナック菓子のプラスチック袋が見つかった、というものがありました。なんと、35年も前のプラスチックですよ。このことは、プラスチックの特性をよく表しています。

すなわち、軽くて丈夫で利便性が高く、我々にとって大きな利益をもたらすものである、ということです。だからこそ、プラスチックは私たちの日常の至るところで使われていますが、そのことがプラスチック汚染の原因となり、解決を困難にもしているのです。

例えば、琵琶湖から大阪湾を結ぶ淀川の事例をお話しましょう。淀川は、私の勤務する大阪商業大学からも近く、フィールドワークを重ねている場所のひとつです。淀川の砂を調べると、こんな緑色の粒がたくさん含まれています。

これ、何だかわかりますか?

(原田准教授ご提供)

これは、5mm程度の人工芝の破片です。うちの大学のグラウンドも人工芝ですし、多くの建物の入り口で泥落としのマットにも使われているのも見かけますよね。でも、劣化して粒になった人工芝は、雨が降ると一気に流れていき、淀川に流れ込みます

このようにプラスチックはふだん意識しない場所も含め、どこにでも存在しています。海はもちろんのこと、土壌中にも存在し植物の成長を阻害しているらしいこともわかってきました。大気中にも微細なプラスチックが無数に漂っています。今、「海洋」の言葉を付けずに「プラスチック汚染」とこの問題を表現すことが多くなっているのはそういった理由からです。日に日に新たな情報が追加されるので、全体的に把握することがすごく難しい問題でもあります。

プラスチック汚染の難しいところは、解決すればよい唯一の原因があるわけではないということもあります。全員が加害者であり被害者です。プラスチックは、非常に移動性が高いため、要因となった場所と被害の発生する場所が極めて遠いということもよくあります。これも、問題の把握と解決を難しくする要因になっています。

マイクロプラスチックに汚染された日本の河川 

こちらの地図は、世界の海全体に、マイクロプラスチックがどれだけ漂っているかを示したものです。

カリフォルニアとハワイの間にある大量のプラスチックごみが渦巻く海域、「太平洋ゴミベルト」は有名ですね。この図を見てみると、日本の近海もプラスチックごみの濃度が非常に高いことがわかります。世界平均のプラスチックごみの濃度に比べ、日本近海は27倍という高い濃度で汚染されています。

これには2つ要因があり、ひとつは東南アジアから運ばれてくること。もうひとつは、国内都市部の河川からの流出も非常に多いことです。中国や東南アジアの国々だけが悪いかのような主張もよく目にしますが、その認識は間違っています。たとえば瀬戸内海もプラごみ汚染が進んでいますが、ごみの7割は瀬戸内海にそそぐ河川から、そのまた7割ほどは淀川からのものです。

東京農工大の高田秀重先生は、0.3mm以下のマイクロプラスチックによる日本の河川の汚染が非常に進んでいる、人に毒性をもたらす閾値をもう超えているのではないか、と発表されています。

川にペットボトル4,000万本 プラごみは経済にも影響 

健康被害や生態系への影響だけでなく、経済的側面からもプラスチック汚染は深刻な問題です。

京都北部、遠浅の美しいある海岸は、夏は観光地として有名です。しかし、シーズンオフに行くと、主に台風の時に流出した国内由来のごみがたくさん落ちていました。観光地にとってプラごみは大きな打撃になります。高齢化が進む地方では、広大な海岸の清掃は簡単なことではありません。

京都府北部の本来は風光明媚な美しい海岸に、散乱したごみ。(原田准教授ご提供)

今、海岸の話をしましたが、河川で特に目立つプラスチックごみは何かわかりますか?

それはペットボトルです。今、日本の河川全体で、いったいどれだけのペットボトルが落ちているのか。正解は、かなり少なく見積もって、4,000万本です。500mlペットボトルをつなげていったと仮定すると、沖縄の那覇から、北海道の稚内まで届いてしまいます

淀川のプラスチックごみ(原田准教授ご提供)

ペットボトル飲料の販売量で、主に伸びているのはお茶とミネラルウォーター。少なくとも、水とお茶は、家から持っていこうと思えば持っていけるものですよね。だから、マイボトルを持ち歩くことは、誰にでもできる有効な脱プラの方法だなと思っています。

全国に先駆けてレジ袋を禁止したまち

川で調査をしていると、レジ袋は非常に厄介なプラスチックごみであることがわかります。環境中に流出したレジ袋は簡単に破れてしまうので、「破片」としてカウントされている場合も多く、これまでに「レジ袋」として公表されている調査結果よりももっとたくさん存在しているでしょう。

河川から海へと流れ出したレジ袋は海底に堆積します。関西の府県や政令市で構成される関西広域連合と共同で大阪湾を調べたところ、300万枚ものレジ袋が海底に堆積していることがわかりました

大阪湾に流れ込む淀川のさらに上流部にあるのが「保津川」で、私はこの保津川が流れる京都府亀岡市に住んでいます。

2020年7月から、日本全国でレジ袋が有料化になりましたが、亀岡市では、私も関わり、2020年の1月から条例で完全にプラスチック製レジ袋が禁止されました。今は本当に、町でレジ袋を使う人をまったく見なくなりました

保津川(原田准教授ご提供)

この条例の原点にあったのは、「どうすれば河川のごみは減らせるのか? 」という問いでした。

保津川には保津峡と呼ばれる美しい峡谷があり、世界中から年間150万人が訪れる京都を代表する観光地の一つです。中でも、亀岡から嵐山までの約2時間の川下りはとても人気があります。

しかし、この保津川もプラごみがたくさん流れついていました。最初にこの問題に気が付いたのは、川下りの船頭さんたちです。しかし、船頭さんたちだけでごみ拾いをしても全然追いつかないし、根本的な解決にならないと、市民や行政もいっしょになって清掃活動をするようになり、NPOをつくりました。それが「NPO法人プロジェクト保津川」で、今私が2代目の代表を務めています。

私たちの団体では、ごみを拾うだけではなくて、ごみを調べて「ごみマップ」をつくりました。最初は「そんなにごみは落ちてないんじゃないか」と言っていた人も、可視化することで問題を理解してくれるようになりました。さらに、どこにどんなごみがあるか具体的になることで、みんなにとって保津川のごみ問題が「自分ごと」化されていきました。

清掃だけではどうしても減らない厄介なごみ、レジ袋

清掃活動を続けてきたことで、ごみの量は少しずつ減ってきたのですが、どうしても減らなかったのが、「レジ袋」でした。大雨で流されたレジ袋は、峡谷の木々に引っかかっり、景観を台無しにします。船頭さんたちが1枚1枚回収するしかないのですが、とても骨が折れる仕事です。

そうしたレジ袋を減らすために、有料化、さらには禁止に国内外問わず地方自治体が先行して取り組み、大きな成果を挙げています。亀岡市でも、そうした動きに続こうと、「レジ袋の禁止」を条例化する動きになっていったんです。

保津川の清掃をするボランティア(原田准教授ご提供)

条例をつくる上で、プラスチックの代わりに他の素材の袋が使い捨てられ、ごみとなってしまっても意味がないということは気をつけました。ですから、この条例は「使い捨て」からの脱却をめざし、「紙製や生分解性プラスチックの袋であっても、無償で提供してはいけない」と明記しています。

導入にあたって、当初は商工業者からの反対は大きかったですし、条例の延期を求めての意見書なども提出されました。しかし、市民の7割は賛成してくださいました。グリーンピース・ジャパンにも賛同いただきましたが、亀岡市内を中心に54もの団体が連携して、市長と市議会に対して「早期施行を求める要望書」も提出することができました。結果として、議会でも全会一致で条例は可決されました。

世界に目を向けると、2018年時点で、127カ国が何らかのレジ袋の規制をしていて、禁止する動きもどんどん広がっています。世界でみたら、亀岡の条例は特別なことではないんです。条例が施行されて、亀岡市内のレジ袋(紙袋)の辞退率はスーパーで98%、コンビニでも93%を達成しました。

禁止条例でレジ袋のごみは1/6に激減

すると、川のごみは大きく変わったんです。ゴールデンウィーク恒例のBBQごみの清掃活動で見つかったレジ袋を比較すると、2019年は405枚もあったのが、2021年は63枚と激減しています。

亀岡市では、条例に止まらず、プラごみを減らす使い捨てない暮らしを進めていこうと、さまざまな取り組みが続けられています。例えば、コロナ禍ではテイクアウトの使い捨てプラ容器が激増していますが、亀岡市では飲食店のみなさんが率先して容器削減に取り組み、市もプラごみゼロクーポンを発行して支援しました。

また、「おいしい水プロジェクト」として、マイボトルを持ち歩きペットボトルを減らしていこうとする活動も始まっています。無料給水スポットアプリ「mymizu」を運営する一般社団法人 Social Innovation Japanと協定を結び、市内の高校生たちが市内飲食店に給水スポット登録を呼びかけるなどしています。

環境に良い取り組みが経済的利益になる時代

「脱プラスチック」は、プラスチック汚染に加え、石油利用からの脱却という意味もあります。石油資源はまだ枯渇するわけではありません。しかし、地球温暖化を止めるための「パリ協定」目標達成のためには、世界の化石燃料すべてを使うわけにはいかないんです。推定される世界の埋蔵量の3分の1しか利用できない、残りは「座礁資産」と呼ばれます。

今私たちは、第二次エネルギー革命の時代に立っています。脱炭素によって、価値転換が起こり、サーキュラーエコノミーをいかに実現していくかということが、経済全体のテーマになっていくでしょう。

同時に、企業にとってはこれから、「社会的営業免許」(Social Lisence to Operate)がいっそう重要視される時代になっていくと思います。「社会的営業免許」とは、企業活動が法的に、政治的に問題がないだけでなく、社会から「いいことしてるね」と免許を与えられることです。良い取り組みをしていたら人々から支持されて、経済的利益も得られ、社会から擁護される。これからはそんな時代になっていくと思います。

使い捨てからの脱却を、自分ごとに。「すこし先のあたり前、この一歩から」

プラスチック汚染には、単一の解決策はありません。政府による規制には多くの時間と費用が伴います。

亀岡市も、船頭さんたちの清掃活動から20年かかって、ようやく条例制定まで辿り着きました。国、地域、企業、個人、それぞれが自分ごととして問題を捉えて、各レベルでできるアプローチをし、組み合わせていくことが重要です。

そのためには「共感」が大切ですよね。亀岡市でも、条例を周知するキャンペーンの際には、アーティストのみなさんの力を借りて、「禁止」とか「ダメ」とか、マイナス・ネガティブな言葉ばかりを使わないよう注意しました。

「すこし先のあたり前、この一歩から」。このポスターのコピー、すごく気に入っているんですよ。

亀岡市には「エコウォーカー制度」というものもあり、ごみ拾いしながら歩く人に、かわいいオリジナルバックやごみ拾いグッズを無償でプレゼントしているんですね。そしたら、登録者がまもなく1000人に達しようかと大人気で、SNSでも話題になっているんです。楽しい・かわいい、そういうエッセンスも加わることで、関わる人が爆発的に増えるんだなということを実感しています。

みなさんにも、自分ができることをまずやってみて、ポジティブにそれを伝えていくことから、ぜひ始めてみてほしいなと思います。