異常気象は「当たり前」になってしまうのでしょうか?

日本では2週間以上続く豪雨による河川のはん濫や土砂崩れによって何百万もの人々が緊急避難を強いられ、韓国では灼熱の夏の中、多数の人々が熱中症で病院に運ばれ、シベリアでは長期にわたる干ばつと猛暑の影響で森林火災が起こり、大気中に煙が充満しています。 

これは2021年の前半に、しかも地球上の一角であるアジアで起きた数例にすぎません。こうした光景は、世界中で何度も繰り返されています。
7月の記録的な大雨によって発生した熱海市の土砂災害では、100以上の家屋が被害を受けた。7月1日から3日にかけての熱海の降水量は411.5ミリに達し、この3日間の降雨量は7月の歴史的な月平均値226ミリを上回った。(2021年7月)

IPCCの最新報告書が警告するアジアへの影響 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から発表された最新の報告書は、世界の第一線の気候科学者たちが、私たちの地球に何が起こっているのか、地球温暖化の科学的根拠・最新の科学的知見をまとめた作業部会の報告書です。

「第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)」と呼ばれるこの報告書では、気候危機が陸地、海洋、氷、大気など、地球上のほぼすべての場所に影響を与えていることが説明されています。

これらの変化の中には、もはや不可逆的なものもありますが、そうでないものもあります。 確かなことは、今後10年間で二酸化炭素の排出量を大幅に削減しなければ、さらに悪い事態が起こるということです。各国が現行の気候目標を維持するだけでは、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために残された炭素排出予算(残余排出可能量)は、2030年までに使い果たされてしまいます。

こうした報告に、目新しいことは何もない、と思う方もいるかもしれません。しかし、7年ごとに発表されているIPCCの報告書が他と違うのは、30年間にわたる最高峰の科学の集大成で、これまで以上に多くのことがわかっているということです。

そして、気候変動の壊滅的な影響を私たちが身の回りで経験している中で、今回の報告書は発表されました。気候危機はもはや未来の予測ではなく、今日の現実なのです。

このブログでは、IPCCの地域別報告書から得られた、気候危機がアジアに与える5大影響を解説していきます。

1. アジアは暑くなる

韓国・ソウルを襲った2018年の猛暑。東アジアでは、30℃を超える真夏日がより早く、より頻繁にきて、より長く続くようになっている。(2018年8月)

事実:アジアの気温は上昇している

極端な暑さは増えているが、極端な寒さは減っている。この傾向は今後数十年にわたって続くだろう(確信度高)。- IPCC気候変動2021-地域別報告書(アジア)自然科学的根拠 

先日開催された東京オリンピックでは、記録的な猛暑となり、複数の選手が熱中症で倒れるという事態が発生しました。

グリーンピースが発表した、日本、韓国、中国本土の57都市の数十年分の気温データを集計した報告書では、東アジア地域で真夏日がより早く到来するようになり、猛暑日が増加しているという結果が明らかになりました。

これは、人々の健康、食糧安全保障、生態系、そして経済に多大な影響を及ぼします。

今年の夏、東アジアを襲った熱波によって、韓国では家畜が大量死し、中国では電力需給が逼迫し、停電などでいくつもの工場が操業停止に陥りました。また、特に北アジアでは、猛暑によって森林火災や山火事の危険性が高まり、壊滅的な被害が発生しています。人間が引き起こした気候危機が、地球を焼き尽くそうとしています

2.アジアは乾燥化が進む

台湾・台南市官田の干上がった湖と陸地

事実:アジアは干ばつに悩まされることが多くなる

“東アジアの多くの地域で、干ばつがより頻繁になっている(確信度中)” – IPCC気候変動2021-地域別報告書(アジア)自然科学的根拠 

今年、台湾での干ばつは世界的な注目を集めました。世界的な半導体不足の中で台湾がグローバルな半導体サプライチェーンにおいて、世界の半導体製造能力の約4分の1を担うという重要な地位を確立しているからです。

雨季以外でも年間を通して雨の日が多い続くことで有名な台湾で、記録的に降雨量が少なく、過去56年間で最悪の干ばつに見舞われました。半導体は製造工程で大量の水を使い、水と電力が不足すれば半導体生産に支障を来すことになります。巨大な貯水池や湖はほとんど干上がってしまい、観光名所である日月潭(にちげつたん/リーユエタン)の湖底が割れている様子は、まるで月面の写真のようでした。

今回の干ばつの主な原因は、台湾に重要な水資源をもたらす台風が昨年に続き上陸せず、降雨量も減少したためだといいます。

台風のパターンの変化は気候危機と関連しており、科学者は2100年までに台湾を通過する台風の数が半減する可能性があると予測しています。 熱波が東アジアでより強く、より頻繁に発生するようになると、干ばつも今後数十年の間に非常に頻繁に発生するようになり、主要な産業や食料生産を脅かし、日常生活に支障をきたし、時には致命的なダメージを与えることになるでしょう。

3.アジアの海面は上昇し続ける 

事実:アジアの海面は上昇し続ける

アジア周辺の相対的海面水位の上昇は世界平均よりも速く、干潟や砂浜などの沿岸地域の喪失と海岸線の後退が見られる。地域平均の海面水位は上昇し続ける(確信度高)。- IPCC気候変動2021-地域別報告書(アジア)自然科学的根拠 

海面の上昇は、低い土地を飲み込み、海岸線を侵食します。地球の温暖化によって異常気象が勢いを増しているため、高潮はより激しく、より頻繁に発生するようになるでしょう。海岸線が損なわれ、海面が上昇することにより、沿岸部の都市が深刻な高潮浸水に見舞われ、家屋や人命、経済が危険にさらされるなど大惨事が起こる可能性があります。

低地が広がる東京や大阪などの都市には、たくさんの人が住み、産業などが集中するため、海面上昇が与える影響は深刻です。

今年の夏、グリーンピースは、極端な海面上昇(台風に伴う高潮など極端な気象現象によって生じる一時的・局所的な海面水位の上昇)による潜在的なリスクを、高い空間解像度データを用いて調べた報告書を発表しました。この報告書によると、2030年には東京を含むアジアの主要7都市で最大1,500万人が海面上昇の影響を受け、早急に対策を講じなければ7,240億米ドルの経済的損失が生じる可能性があります。

4.アジアは雨が多くなる 

長雨による土砂崩れに見舞われた熱海の伊豆山地区で、泥に埋もれた道路を清掃する救助隊員。(2021年7月)(C) Charly TRIBALLEAU / AFP

事実:アジアでより激しい洪水や地滑りが発生する

激しい雨の頻度と強度が増し(確信度高)、一部の山岳地帯で地滑りがより頻繁に発生するようになる – IPCC気候変動2021-地域別報告書(アジア)自然科学的根拠 

極端な集中豪雨は、すでに悲惨な事態を引き起こしています。7月末、中国の河南省が悲劇に見舞われました。記録的な豪雨で300人以上もの人々が亡くなったのです。この1000年に1度と言われる豪雨ではわずか3日間で、1年分の雨が降ったことになり、1兆4000億円相当の経済損失がでたと言われています。

気候変動に対する強力な対策がなければ、このような雨は「数年に一度」の出来事になってしまうかもしれません。

そして8月に入ってからは、記録的な大雨が日本を襲っています。道路、家屋、橋、畑が流され、土砂崩れが発生し、死者が出ています。このような異常気象は、気候変動の危機的状況の加速に伴い、より深刻で、より頻繁に起きるようになり、アジア地域はその最前線に立たされています

5.氷河は減り続ける

グリーンピースの遠征調査で、エベレストのふもとのロンブグ氷河で、1968年の写真と比較して40年で2キロも氷河が後退していることが確認された。(2007年8月)

事実:積雪期間が短くなり、氷河の量はさらに減少する

アジアの高山域における氷河の流出は、21世紀半ばまでは増加し(確信度中)、その後は氷河の貯留量の減少により、流出量が減少する可能性がある。- IPCC気候変動2021-地域別報告書(アジア)自然科学的根拠 

アジアの高山域には、ヒマラヤの氷河など世界で3番目に多くの雪氷が集中しています。 中国西部チベット高原には46,000以上の氷河があります。

気候危機の影響で、こうした地域では世界平均の2倍の速度で気温が上昇しています。氷河の融解が進むと、堆積した氷や岩でせき止められた湖ができます。自然のダムが結界すると、雪解け水は下流に向かって流れ落ち、下に住む人々に致命的な洪水や土砂崩れをもたらします。過去には村が丸ごと流された例もあります。

最初は氷河からの流出量が増えますが、氷河が干上がると、流出量は再び減少し、氷河から流れ出る川の水量に、影響を与えます。その下流に住む何百万もの人々の生活や命に大きな影響を与えることは明らかです。

時間は刻々と過ぎています。

IPCCの報告書は厳しい内容でしたが、最後は、希望で締めくくられています

平均気温の上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標を達成することができれば、最悪の影響から逃れることができ、温暖化の暴走を止められなくなるティッピング・ポイント(臨界点)を超えるリスクを大幅に減らすことができるとしています。そして、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることはまだ物理的には可能で、原理上は実現可能だということも示しています。

この目標を達成するためには、二酸化炭素の排出量を急激に削減し、ネットゼロにしなければいけません。世界の多くの国の政府は、すでに二酸化炭素など温室効果ガス排出ネットゼロの実現を約束していますが、今必要なのは、これらの約束を野心的な目標とし、具体的な行動計画に落とし、今日から行動に移すことです。

11月にはスコットランドのグラスゴーでCOP26気候会議が開催されます。各国政府に、IPCCの警告を真剣に受け止め、1.5℃目標を実現するための大胆な温室効果ガス削減計画を発表することが求められています。

時間は刻々と過ぎています。私たちには、気候危機を解決するために、あと10年しか残されていませんが、すでにそのための技術と知識はあります。

今重要なのは、私たちが「次に何をするか」ということです。

あなたの一歩が、明日を変えます。

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