アーチェリーのロシア代表選手が熱中症で失神*複数のトライアスロンの選手が競技後に嘔吐や熱中症で倒れる事態*テニスのスペイン代表選手が、準々決勝で暑さで歩けなくなり棄権*オリンピックの最初の7日間に、30人の大会関係者が熱中症*

東京オリンピックが始まってから連日のように、猛暑によって選手やスタッフの健康やパフォーマンスへ影響が出ていることが報道されています。東京の夏は、地理的条件でもともと高温多湿です。しかし、今私たちが経験しているような「危険」で「極端」な猛暑は、気候危機の傾向と一致していることが科学的なデータからも見て取れます。

地球温暖化により、世界の平均気温はすでに人為的な温暖化が起きる産業革命前から1.25度上昇しました*。極端な高温現象の頻度と強さが、世界中で高まっています。「史上最も暑い」と言われる猛烈な暑さの中開催されている東京オリンピック・パラリンピックは、気候危機の深刻さを示す警告なのでしょうか?

東アジア57都市の高温の日数・頻度を調査

グリーンピース・東アジアの調査で、その答えの一つが示されました。新たに発表された報告書では、東京を含む東アジアの57都市の、数十年分の都市気温データを調査しました。その結果、東アジア地域の夏は、平均してより早く高温を記録するようになっていること、そして暑さがより長く続いていることがわかりました。結果を詳しく見てみましょう。

この調査では、日本、中国本土、韓国の人口の多い57都市を選び、気温データを収集しました。その年で30℃以上の高温を記録した最初日とそれがどのくらい続いたかを集計しました。

また、気象パターンの短期的な変化ではなく、実際の長期的な傾向を把握するために、数十年前の記録を使用しています。

猛暑がより早く来て、より長く続く

調査の結果、東アジアの57都市のうち80%以上にあたる48都市で、その夏初めて最高気温が30℃以上の真夏日になる日が、年々早くなっていることがわかりました。

例えば、東京とソウルでは、1981年から2000年の間と比較して、2001年から2020年の間に、その年で最初に30℃を記録する日が平均して11日早く訪れています。上海では12日早くなり、札幌ではなんと23日も早くなっています。札幌では、東京オリンピックのマラソン大会を前にしてすでに気温が34℃を超え、1924年以来となる、16日連続の最高気温30℃超の記録を出しています*

東京五輪のマラソンと競歩の会場となる、北海道・札幌市。(2021年8月)

中国のデータからは、夏の熱波が長く続くようになっていることもわかりました。1990年代後半から2019年まで、広州市ではほぼ毎年熱波が記録され、熱波は平均で3〜6日、最大で7日続きました。しかし、1960年代と1970年代には、熱波の年間平均期間は最大4日で、半分以上の年は、熱波が発生していませんでした。

猛暑がより頻繁に来るようになっている

さらに、夏の猛暑がより頻繁に発生するようになっていることもわかりました。 

東京では、33℃以上になる日は1960年代には年間平均13日でしたが、2011年から2020年の間にはその倍以上の27日に達しています。

北京では、2001年から2020年までの20年間で、熱波の頻度は過去40年間と比べて約3倍になっています。中国で最も早く熱波が増加したのは上海市でした*。南部の広州市では、1961年以降98回の熱波が記録されており、そのうち73回、つまり4分の3が1998年以降に発生しています。

韓国でも気温が上昇しています。韓国のすべての都市を調査したところ、過去10年間で35℃になる日数が過去60年間で最も多くなりました。釜山では、1961年から2010年まで、年間10日以上、33℃以上を経験したことはありませんでしたが、2018年には18日もの33℃以上を記録しました。

2018年の夏、日本や韓国を熱波が襲った。(2018年8月)

東アジア全域で猛暑被害が増えている

猛暑がより頻繁に、より激しくより長く続くことは、オリンピックで選手が体調を崩すだけでなく、私たちの健康や生態系にも影響を及ぼします。そして、経済や食糧供給も危険にさらしているのです。

今年の夏も、東アジアでその一端を垣間見ることができます。

今年5月、中国の広東省では異常な暑さのためエネルギー需要が急激に高まり、工場が数時間から数日間にわたって操業停止に追い込まれました*。韓国では、7月に全国各地で熱波警報・注意報が発令され*熱波により数十万頭の家畜が死亡した*と報告されています。

最もリスクが高いのは、高齢者、子ども、屋外で働く人(農家など)、慢性疾患のある人です。

2018年に日本を襲った猛暑では、1,581人もの人々の尊い命が奪われました。2018年までの10年間での死者数は9,055人に上り、99年〜08年は計3954人、89~98年は計1708人なので、単純計算では、10年ごとに2倍以上増えています*

今、私たちに何ができるか?

こうした傾向が気候危機と関連していることを、様々な科学的調査が示しています。今回の報告書は、この事実を裏付け、気候変動のリスクが高まっている地域をマッピングし、数年の間に深刻な規模にまで発展していることを明らかにしたものです。

こうした調査結果は、これ以上、猛暑による健康への影響が悪化しないように、私たちにできることがあるということも示しています

まず各国政府は、異常気象の被害が増加する中で、人々の命や健康を守るための早急な対策を講じなければなりません。

石炭、石油、ガスといった化石燃料の燃焼は、気候危機の主な原因です。化石燃料を燃やすのを今停止することで、あしたの命を救うことができます

そのためには、石炭火力や天然ガス火力発電所の新設計画を中止し、化石燃料関連事業への融資を取りやめ、既存の化石燃料の発電所の廃止を加速させ、地域に根付いた持続可能な自然エネルギーのネットワークの構築に全力を注ぐことが必要です。

各国政府は、すでに二酸化炭素の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を約束しています。今、世界のリーダーたちには、この約束を守り、真の変化を起こすことが求められています。

夏がスポーツをできない季節になってしまわないように、そして、私たち一人ひとりの健康が守られるように、世界各国の政府が、気候危機をとめるためのアクションでお互いを高めあい、金メダルを目指すことを期待しています。

実際にはメダルではなく、私たちの命や地球が、その行動かかっているのですから。