グリーンピースは、6月29日、東京電力(東電)の株主総会において、東電福島第1原発に溜まり続ける汚染水の海洋放出について反対の意見を述べました*。

東京電力の株主総会に参加するグリーンピース。脱原発と自然エネルギーの飛躍的導入を求め、株主総会への参加・議決権行使などのために、東京電力の株式を最小単位で購入しています。

放射能汚染水は海洋放出すべきでないと訴え

東電の福島第一原発の敷地内には、放射能汚染水がたまり続け、多核種除去設備(ALPS)で処理した水など合計で126万トンを超えています。

多核種除去設備(ALPS)による処理では、もともとトリチウムは取り除ききれませんが、2018年9月、本来除去されているはずの他の放射性核種についても、排出基準値以上の量が含まれていることが明らかになりました。また昨年、炭素14が除去対象となっていないことを東電が認め、大きな問題になっています。

トリチウムの有害性についても、体内で有機結合型トリチウムに変化すると体内にとどまる期間が長くなることなどが近年わかってきました。

放射能汚染水の海洋放出には、多くの福島県住民も反対しており、これまでに同県内の59の市町村議会のうち、約7割が海洋放出反対や慎重な扱いを求める意見書などを出しています。福島県内はもとより、漁業者の全国組織である全国漁業協同組合連合会も海洋放出に反対をしています。

しかし、2021年4月13日、政府はALPSで処理した水の処分について海洋放出する方針を発表しました。

今回の株主総会で、グリーンピースは、東電に対してALPS処理水(汚染水)の処分についての協議委員会を設置し、福島県および周辺の農林水産業者、住民を加えることを提案し、あらためて海洋放出はすべきではないことを訴えました。

東電の回答は「反対」

出席していた株主から、汚染水に関連し、東電と漁業者の間でかわされた「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」という約束を反故にするのか、という質問がされました。

これに対し、東電の小野常務は、「約束を反故にするとは考えていない」「(理解を得る)努力を続ける」と回答しました。

そして、株主総会で汚染水の海洋放出をせず、処分については漁業者を含めた協議機関を設置するというグリーンピースの提案は否決されました。

東電の取締役会はこの提案に反対し、その理由を以下のように述べています。

「多核種除去設備などの処分につきましては、国の基本方針を踏まえ必要に応じて二次処理を行い、トリチウム以外の放射性物質が希釈前の段階で規制基準値を下回っていることを確認するとともに、トリチウムを大量の海水で希釈してから放出することにより、放出する水が安全であることを確実にいたします。さらに客観性透明性を確保した海域モニタリングの拡充・強化や、正確な情報発信を着実に実施することなどにより、風評影響を最大限抑制してまいります」

東電は、客観性・透明性を確保と言っていますが、グリーンピースはこれまでも、東電に対し、福島第一原発内に保管されている汚染水について、そこに含まれる放射性核種ごとの総量について質問してきました。しかし、総量についての回答はいまだありません。

また東電は、現在トリチウム除去技術を公募しています*。トリチウムを除去せずに海洋に放出していいと考えているなら、なぜ、トリチウム除去技術の公募をしているのでしょうか。株主総会でこの点を聞きました。

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グリーンピースからの質問:トリチウム除去技術を公募しているが、なぜか

東電小野常務:当然ながら、トリチウムの除去ができて、濃度を薄めていくことができればそれは、やはり、それでしっかりやっていくべき技術だと思う

東電小野常務:ALPS処理水については、今の時点で、実用化レベルに達しているトリチウム分離技術がない。またIAEAも同じ見解。ただ、小委員会の報告の中で、新たな研究が進められていることから、引き続き動向を注視すべきと提言されている。政府方針でもそう述べられている。これまでも技術動向を注視してきたが、政府方針を踏まえ、新たなスキームとしてトリチウム分離技術の公募を始めた。

グリーンピースからの再質問:なぜ、除去をして、減らさなくてはいけないと考えているのか

東電小野常務:当然ながら、トリチウムの除去ができて、濃度を薄めていくことができればそれは、やはり、それでしっかりやっていくべき技術だと思う。しかし、今、その技術がないので、海洋放出をしっかりやっていく。当然ながら、しっかり技術動向を注視して対応いくのが大事だと思う。

トリチウムも、除去できるならしたほうがいい、と東電も考えていることがわかりました。

そう思っているなら、たとえば、トリチウムの半減期(半分になるための時間)は約12年なので、長期保管をするだけで、トリチウムの濃度は薄まります。

長期保管ができないのは、場所がないからという説明がされていますが、場所はつくれます。

海は東電のごみ箱ではないー放射能を出す発電方法から脱却を

人間はこれまで、海をごみ箱として使ってきました。しかし、海洋投棄を禁止する国際条約であるロンドン条約をつくり、もう、ごみ箱として使うのはやめよう、と決めました。

東電が、原発事故の核のごみである放射能汚染水を、意図的に海に捨てることは、なんとしてもやめさせなくてはなりません。

東電の小早川社長は、株主総会で、柏崎刈羽原発(新潟県)で起きた、中央制御室への社員ID不正使用、安全対策工事未完了問題などについて謝罪し、「発電所を生まれ変わらせる」として再稼働に意欲を示しました。

しかし、度重なる不祥事は、東電に原発を運転する適格性があるかという問いを投げかけています。

また、今回の株主総会で取締役会が強調したのは、「脱炭素と防災に寄与する新しい電化」を支える「原子力」です。「脱炭素」を口実にして原発の再稼働を進めようとしています。

原発は、通常運転でも、放射能を空や海に放出しています。そのような技術による発電はやめていかなければなりません。

しかし、それだけではありません。これまで日本は原発に頼ってきたばかりに温暖化対策が遅れ、電源に占める自然エネルギーの割合も低く、「脱炭素」を理由に原発の再稼働を進めていくのでは、自然エネルギーという舞台で世界から取り残されてしまうでしょう。

グリーンピースは、これまで、東電福島原発事故の影響について、10年間継続して、独立した立場から調査を続けてきました。また、汚染水については、地元福島の人々や全国の漁師コミュニティに連帯し、海洋放出反対の声をあげ、行動してきました。

政府は汚染水の海洋放出の決定を延期した、と報道されていますが、それは反対の声があったからこそです。

実際に政府と東電が、汚染水の放出を始めるには、少なくとも2年はかかります。

これからも脱原発株主運動のみなさんとともに、東電に対して、汚染水を海洋放出しないことを求めるとともに、原発事故被害者への賠償をしっかりおこなうこと、再稼働しないこと、安全に廃炉を進めること、そして自然エネルギーへの転換を求めていきます。

*グリーンピース・ジャパンのエネルギーチームは、脱原発と自然エネルギーの飛躍的導入を求め、株主総会への参加・議決権行使などのために、東京電力の株式を最小単位で購入しています。脱原発東電株主運動のみなさんと協力して株主提案をしています。