気候危機を回避するためには、CO2の大幅な削減が必要です。大都市である東京は、それを率先して実践しないといけません。でも、本当に可能なのでしょうか?

はい可能です。

グリーンピースは環境エネルギー政策研究所(ISEP)に委託して、自然エネルギー100%ですべてのエネルギーをまかなうシナリオをいっしょに検討しました。その結果、自然エネルギー100%にすることで、CO2を大幅に減らすことができるだけでなく、経済的にも得になり、雇用を増やすことにもなることがわかりました。報告書「「東京都の再生可能エネルギー100% シナリオ~グリーン・リカバリーによる脱炭素化ロードマップ~」のポイントを解説します。

(グラフ、図はすべて報告書「東京都の再生可能エネルギー100% シナリオ~グリーン・リカバリーによる脱炭素化ロードマップ~」作成の際に検討したシナリオより)

1. 大幅に省エネする

コロナ禍からの復興にあたり、気候変動対策など環境の視点を重視しながらよりよい社会に立て直すグリーン・リカバリーを前提に、業務部門や家庭部門などの各部門で、実現可能な省エネシナリオを検証しました。このシナリオでは、2030年にエネルギー消費量を55% 削減(2000年比)し、2050年には72%の削減を達成することができます。

グラフ I:省エネルギーシナリオでのエネルギー消費別の推移

業務部門:建物断熱化(ZEBの普及など)による暖房用エネルギーの削減、設備機器の省エネ更新・改修をする→約70%削減

家庭部門:ゼロエミッション住宅(ZEH)の普及など建物断熱化による冷暖房用エネルギーの削減、 設備機器の省エネ更新・改修をする→ 約30%削減

運輸部門:ガソリンから電気化する、交通量も減らす→約70%削減

産業部門:省エネ機器への切り替え、熱の使い回し、ヒートポンプ化、電化する→約70%削減

2. 使うエネルギーをすべて自然エネルギーに切り替える

東京都内や周辺地域の自然エネルギーの導入を中心として、域外からの太陽光および風力発電の電気の調達により、2050年に脱炭素化・CO2排出量ゼロ(ゼロエミッション)を自然エネルギー100%により達成することが可能です。(下図参照)

自然エネルギーの導入ポテンシャルは、環境省のREPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)を使用して導きだしました。

都内の建築物の屋上に設置することが可能な太陽光発電は、住宅用など(商業系建築物、住宅系建築物の屋上)で8.3GW、公共系など(公共系建築物および発電所・工場・物流施設 の屋上、低・未利用地および農地)で4.7GWの導入ポテンシャルがあると試算されており、都内に15.9TWhの導入ポテンシャルがあります。

域外から調達する風力発電については、千葉県銚子沖など洋上風力の導入ポテンシャル を考えました。

グラフ II  再生可能エネルギー100%シナリオでのエネルギー構成(2030年電力再生可能エネルギー50%)

自然エネルギーで地域が活性化 2.6兆円が国内で還流

建物の断熱性を高めたり、機械を効率のいいものに更新したりすることにより、光熱費が削減されます。光熱費の削減額から投資額を引いた金額は、2020年から2050年までの累積で22兆円に達し、設備投資および光熱費削減に伴う経済波及効果は約61兆円(都内31.1兆円、都外29.5億円)にものぼると試算できました(下図参照)。

省エネルギーによる雇用は13.5万人(都内6.5万人、都外7.0万人)が見込めます。 

自然エネルギーの導入による経済波及効果は、2030年までの再生可能エネルギー電力の比率を100%とした場合、2020年から2050年までの累積で約41兆円(都内7.7兆円、都外33.7兆円)となり、雇用は9.5万人(都内1.4万人、都外8.1万人)が見込めます。

東京都は電力や化石燃料を主に都外から買っていて、その額は、2017年度推定で約2.6兆円(内訳は電気 1.6兆円、化石燃料1.0兆円)にのぼります。自然エネルギーの導入により、これらの費用の域外流出(化石燃料費の場合は海外へ)を大きく抑制できるため、地域活性化と雇用拡大に寄与することが期待できます。

グリーンピースとISEPは、今回の検討をもとに以下の10の提言をまとめました。

今後、国や自治体に提言していきます。

10の提言

  1. 再生可能エネルギー 100% による 2050 年ゼロエミッションの実現
  2. 野心的な目標の法定化
  3. 再生可能エネルギー 100% に向けた域内の設備導入の促進
  4. 再生可能エネルギー 100% に向けた調達の仕組みの構築
  5. 情報提供の拡充
  6. 業務部門と家庭部門の断熱建築・ZEB/ZEH、再生可能エネルギーの確実な普及
  7. 業務部門の面的な省エネルギーおよび再生可能エネルギー等利用の推進
  8. 運輸部門のエネルギー効率化と支援
  9. 市民参加・マルチステークホルダーの推進および専門家による支援制度
  10. 公正な移行に基づくエネルギー転換の推進

ぜひ、このレポートを、みなさんの自治体の担当者や、自治体議員にも共有してください。

*国際環境NGOグリーンピース・ジャパン、認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所では、通常、太陽光や熱、力、地熱など自然由来のエネルギーを「自然エネルギー」と表現しています。東京都はそうした自然由来のエネルギーについて「再生可能ネルギー」と表現しており、東京都の資料からの引用の場合、「再生可能エネルギー」を使用しています。