最近、「再エネ賦課金」の増加により家庭の電気料金が値上がりし、自然エネルギーの導入拡大によって電気利用者の負担が増える、という報道を見たことがある方もいるかもしれません。

「再エネ賦課金」とは、自然エネルギーの導入を拡大する仕組みの1つである、自然エネルギーの固定価格買取制度のため、電力の買取費用の一部を電気の使用量に応じて電気利用者が負担するものです。日本の再エネ賦課金単価は、2021年現在1kWh当たり2.98円です。

※経済産業省 資源エネルギー庁より

ドイツでは、「再エネ賦課金」が2014年に6.24ユーロセント/1kWh(約8.7円)まで上昇しました*1。しかし、世論調査では93%が自然エネルギーの更なる継続的な導入拡大を重要視していると答えました。そして、73%もの人々が、一般家庭の電気料金を抑えるために、自然エネ促進を止めることを「無意味」、「あまり意味がない」と回答しました*2。消費者が負担軽減のために電気料金を安くするよりも、将来の便益、自然エネルギー普及を進めることを理解し、重要であると考えたことが、発電量の半分以上を自然エネルギーが占める現状につながったといえます。

自然エネルギーの導入が進むドイツ。ソーラーパネルが設置された「ソーラーシェアリング」の農場では、パネルの下にトラクターを入れて農作業ができる(2020年9月撮影)

また先月、経済産業省は、2021年度の買い取り費用は、全体で約3兆8,000億円で、標準的な家庭の年間の負担額は1,188円値上がり*3、2030年度の自然エネルギーの買い取り費用は最大で4兆9000億円に及ぶとの試算を示しました*4。しかし同時に、日本が化石燃料調達のために、毎年約20兆円を海外に支払い、少なくとも年間1,04兆円の公的支援を化石燃料事業に供与していることも事実です*5。「再エネ主力電源化」を国策として進め、家庭の光熱費負担増加が国民の理解と協力を得る障壁となることがわかっていれば、自然エネルギーの普及によって削減されるべきこれらの化石燃料関連費用を、国民の負担を軽くする公的制度などに還元させるような施策も考えるべきではないでしょうか?

また、報道によっては、今後10年も電気料金の値上がりが続き、意図的でなくても不安を煽ってしまっているようなものも見受けられます。今「電気代が上がる」ということばかり強調せず、将来的には環境省が予測するように、自然エネルギー普及によって自然エネルギーの低コスト化が進み、それに加えて、火力発電に使う燃料輸入にかかる莫大な調達費なども大幅に減少すること、電力の世帯平均負担は下がっていくということも、同時に正しく発信することが大切です。

また特に明確に伝えるべきことは、「再エネ賦課金」が永遠に続くものではない、ということです。将来的には自然エネルギー普及により、環境省の試算では2030-2034年をピークに電気料金単価が下がることが予測されています(下グラフ参照)。

※2030 年までの導入量に対する賦課金単価
(環境省「2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書」より)
※2030 年までの導入量に対する世帯平均負担
(環境省「2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書」より)

そして日本政府は、自然エネルギー普及こそが「最も環境に優しい電力が最も安価な電力でもあるエネルギーシステム」を日本にもたらすというビジョンを国民と共有していくべきなのではないでしょうか?

もちろん、コストの低減や自然エネルギー発電事業者に対する障壁を取り除いていくことは必要ですが、同時に、自然エネルギーの、「純国産で環境性に優れているという環境価値」という大きな意味を国民に伝えることも重要です。

大手電力各社(沖縄電力以外)により一般家庭の電気料金として徴収される、「原発賠償費」は負の遺産に対する支払いですが、「再エネ賦課金」は未来への必要投資です。世界最悪レベルともいわれる東京電力福島第一原発事故に伴う賠償金や廃炉費用を全国民で払い続けても、家族や故郷を失い、いまだに放射能汚染を受けた地元に帰れない福島の人々や、放射能汚染が福島だけでなく世界中そして地球全体に影響を与え続けていることを考えても、私たちが電気を使うために原子力発電は本当に必要なのでしょうか?これだけの代償を払うに値するエネルギーなど存在するでしょうか?

自然エネルギーをもっと安く、身近にするために

自然エネルギー100%を後押しするには、国や地方自治体の積極的な政策立案や技術開発だけではなく、市民意識の高まりも重要です。大手電力会社にとって、一般家庭は契約数としては最大で、私たちのニーズを無視することはできません。国内の大手電力会社の自然エネルギー主力電源化を後押しするのも私たちの世論です。「パワーシフト」のウェブサイトでは、自然エネルギーで電力を供給する電力会社を探すことができます。

一方で、投資家や世論が自然エネルギーへの移行を強く求めることで、需要が顕在化し、契約電力量が大きい需要家である企業がリードし、電力事業者や政府へプレッシャーをかけることにもつながっています。実際日本を代表する企業が、自然エネルギーが高コストで調達困難な現在の市場に対する規制改革を日本政府に求め、産業界の要望から、河野規制改革相のもと、「再エネ規制改革タスクフォース」が立ち上がりました*6

世界経済フォーラムの第50回年次総会(ダボス会議)で、日本の3大銀行(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)に石炭火力発電事業への投融資中止を求めるグリーンピース。(2020年1月撮影)

未来の子どもたちに残したいのは、隠れたコストの存在するダーティーなエネルギーと呼ばれる原子力や化石燃料の未来か、自然エネルギーの未来か?コロナ禍の厳しい状況で、 目先の支出増に敏感になりがちですが、もう一度立ち止まって考えてみませんか?

ポーランド・ベウハトゥフ (Bełchatów) にあるヨーロッパ最大の石炭火力発電所に、プロジェクションマッピングで「気候変動はここから」というメッセージを映すグリーンピース。(2013年11月撮影)
(日本の金融機関は、ポーランドを含むヨーロッパの石炭火力発電にも巨額の投融資している)

次世代の地球環境や社会実現を考える時、目先のコスト削減を最終目標としては何も前進しません。私たちは目先にとらわれない、中・長期的な視点を持って問い直す分岐点に立っているのではないでしょうか?