鹿児島七ツ島メガソーラー発電所

「私は太陽と太陽光エネルギーに賭けよう。何というパワー源!石油と石炭が枯渇するまで待つ必要もないだろう」
これは、世界的に知られている近代発明家トーマス・エジソンの晩年、1931年の言葉です。エジソンは、今から90年も前に将来のエネルギーミックスにおける自然エネルギーの重要性と、化石燃料への過度の依存の危険性を理解していたと言われています。

パリ協定が目指す地球温暖化による気温上昇を1.5度未満に抑える鍵と期待される自然エネルギー。気候変動を抑えるのに有効なだけでなく、多くの国で、自然エネルギーは最も安価な電力源になっています。一方で日本では他の電源と比較して発電コストが高いと言われています。世界では価格低下が進み、火力発電よりも安くなる国が増える中、なぜ日本ではコストダウンが進まないのでしょうか?

「自然エネルギーは最も安価な電力源」

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2019年時点で、「世界の多くの地域で自然エネルギーが、現時点で既に最も安価な電力源になっている」と発表しました*1

2020年のBNEFの分析でも、世界各地で自然エネルギーの発電コストは低下し続けています。世界人口の少なくとも3分の2にあたる国々で、自然エネルギーが最も安価な新規発電の供給源です*2。そして、コストが低くなることにより、自然エネルギー導入がさらに広がるという好循環が生まれています。

国際エネルギー機関(IEA)は、2016年には自然エネルギーが石炭を抜いて世界最大の電力供給源になったと発表しました。直近の2020年に発表された報告書でも、世界の自然エネルギーが2020年の新規発電のほぼ90%と過去最高を記録し、化石燃料による発電はわずか10%でした。2025年までには、自然エネルギー電力が世界最大の発電源となるだろうとしています*3。そして、IEAのファティ・ビロル事務局長は、「コロナ禍で他のエネルギーが苦戦する中、自然エネルギー等への投資は増加傾向が続き、力強い成長を見せている」と述べています。

5年間で洋上風力発電による電力のコストとが50%削減になったイギリス。俳優のエマ・トンプソンさんが、「洋上風力50%引き」と書かれたプライスタグを掲げる。(2017年9月撮影)

どうして日本ではコストダウンができないのか?

ではどうして日本では自然エネルギーのコストが高いのでしょうか?ここでは2つの大きな要因について触れたいと思います。

日本で自然エネルギーが高い理由① 原子力・石炭が優遇されてきた

1970〜80年代の2度のオイルショックを経て、日本は、国策で原子力や石炭、天然ガスなど、石油代替エネルギーの開発・導入を進めてきました。日本も一時期太陽光発電においては世界を牽引する存在でしたが、欧州各国では日本に先行して、試行錯誤しながらも自然エネルギー発電の導入を意欲的に進めてきました。実際自然エネルギー優等生と言われる欧州でも、自然エネルギー発電導入拡大初期には、固定価格買取制度(FIT)*がうまくいかなかったり、国民負担が増えたりするというようなこともありましたが、それらの問題もほとんどが解決にいたっています。

つまり、欧州各国が自然エネルギー導入を支援する電力網の拡大を含めた大規模なプロジェクトやインフラ投資を進めていた時代に、対照的に日本はダーティーなエネルギーと呼ばれる化石燃料や原発関連企業に対しての過剰な補助金や投融資を続けてきたことで、大きな遅れをとってしまいました。そしてさらに問題なのは、巨額の公的支援が今も続いていることです。

関西電力の高浜原発3号機、4号機。(2016年3月撮影)

*固定価格買取制度(FIT)とは、自然エネルギーで発電した電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買取ることを義務付け、電気事業者が買取りに要した費用の一部を、電気を利用している消費者から使用量に応じた「再エネ賦課金」という形で集めることを認めた制度*4

日本で自然エネルギーが高い理由② 電力システム

もう1つの課題は、石炭や天然ガス、原発の発電所を所有する大手電力会社が、電力の生産から消費までの発電、送電、変電、配電の一連の電力システムを独占していることです。

日本では、大手電力会社が送電網を独占しています。そして、利益が競合する可能性がある新規発電事業者を受け入れようとしないことが、自然エネルギー発電事業者への大きな参入障壁になっています。

大手電力会社は送電線の空き容量不足を理由に、自然エネルギー発電事業者に対して、送電線の増強のための高額な費用負担を求め、自然エネルギー発電事業者が事業を諦めざるをえない状況にさえ陥っています。

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経済産業省は自然エネルギーの導入拡大には固定価格買取制度等の見直しが必要とし*5、自然エネルギー事業者のコスト低減努力が足りないかのように論点をすり替えていますが、実際の問題は電力の生産から消費までの発電、送電、変電、配電の一連の電力システム中に制約があることです。

一方、自然エネルギーの導入が進むヨーロッパの国々では、発電事業と送電事業の所有権を明確に分離している国と、発電事業者と送電事業者同士に資本関係があることが許可されている国に分かれますが、どちらにしても発送電分離の構造が確立されています。

欧州の電力システムの運用者のネットワークであるENTSO-Eが2016年に取りまとめた10カ年発展計画では、1,500億ユーロ(20兆円弱)のインフラ投資を想定し*6、送電インフラへの投資が盛んに行われています。また、欧州では自然エネルギーを優先して接続すること*が徹底されているため、容量不足が生じたとしても、周辺火力発電所の出力を低減させ、自然エネルギーの発電設備を接続するという自然エネルギー発電事業者を支援する体勢が整っています。

*例えば、2000年に施行されたドイツの自然エネルギー法(Renewable Energy Sources Act, EEG)は、自然エネルギーの接続申込みは、送電線に優先接続することができると定めている

日本政府が菅首相の表明した「再エネ主力電源化」を本気で目指すのであれば、自然エネルギーを優先する制度設計と自然エネルギー発電事業者の送電などの障壁を取り除くことが不可欠です。

日本における自然エネルギーのポテンシャルを最大限活かし、自然エネルギー導入量を大幅に増やし、発電コストが下がったとしても、発電した自然エネルギーをつなぐことができなければ、国民が自然エネルギー普及の恩恵を受けることを妨げていることになるのです。

※環境省:我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル
※環境省:再生可能エネルギー導入ポテンシャル(令和元年版)
※次回の解説ブログでは、最近騒がれてる「自然エネルギーのせいで、電気代が上がってしまうの?」という疑問について、お話ししたいと思います。