新型コロナウィルス以外にも、世界で猛威をふるっている感染症があります。ニワトリの間で広がっている鳥インフルエンザです。日本を含むアジアで、またヨーロッパやアフリカ、アメリカで、感染の連鎖が今も止まりません。鳥インフルエンザ拡大の要因は?そして私たちへの影響はあるのでしょうか?

©NPO法人アニマルライツセンター提供

日本では2020年11月、約3年ぶりに香川県でニワトリなどの家禽*(きん)の高病原性鳥インフルエンザが発生しました。その後、関西圏から九州まで広がり、12月には採卵鶏飼育第2位の千葉県に飛び火し、現在までに、鹿児島県から栃木県まで17県51事例にのぼっています。殺処分される鳥は935万羽にものぼるとの見通しで*1*2、過去最高となっています。その大半が卵をとるために飼育されているニワトリ(採卵鶏)です。

世界的な流行は52カ国にも及び、たとえばフランスでは2020年11月の発生から400件あまり、韓国でも約100件にのぼっています。*3

農林水産省資料*4

*家禽(きん):ニワトリなど人が利用するために飼育している鳥

過密な飼育とパンデミック(世界的大流行)

鳥インフルエンザの原因となる病原体は、野鳥からニワトリやアヒルなどの家禽に感染し、それらの間で広がります。

大規模な感染拡大が起こる時、重要な要因のひとつが生産効率を追求する「工業的畜産」です。

日本は、一人あたりの消費量が世界第2位の卵消費大国で、一人がほぼ毎日卵を1個食べている計算になります*5。大量の卵を毎日生産する大多数の養鶏場では、採卵鶏を身動きできないほど狭いケージ(バタリーケージ)に一生閉じ込めて飼育しています。生産性を最優先するために、極限まで密度を高めているのです(一羽あたり辺の面積はB5ノート程度)。

EUでは「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に基づき、こうした極狭のバタリーケージ飼いは2012年に禁止が決まり、国際機関による基準も飼育環境を向上させる方向にあります。しかし、日本では効率を優先する業界の力によって大きく遅れを取っています。
今年1月に元農林水産大臣が収賄罪で起訴された、鶏卵生産大手アキタフーズによる贈賄・接待事件の背景には、国際機関による動物の飼育環境の基準を厳格化する案に日本政府が反対するよう求める、同社からから農水省側への働きかけがあったとされています*6

©NPO法人アニマルライツセンター提供

変異したウィルスが人に感染する危険性

健康よりも生産性を優先して、高密度に飼育する工業的な養鶏場では、ウイルスが繁殖と変異の温床となりやすく、一度に感染する鳥の数も膨大になります。そして、大量に増殖を繰り返す間に、人にも感染する危険なウィルスが発生するリスクも高まっていきます。*7

鳥インフルエンザは、過去にもニワトリから人感染する変異を起こしています(2003年*8、2013年*9)。今回、例を見ない規模で拡大している鳥インフルエンザも、どこで、いつ人に危険な変異を起こすのか、予断をゆるさないのです。今年2月、ロシアで日本で流行中のものと同じ型の鳥インフルエンザで人への感染が世界で初めて報告されました。*10

私たちの日々の食は、このようなリスクと隣合わせの、効率優先の生産システムに頼っています。それは持続可能ではないし、健康的でもありません。

では、どうすればよいのでしょうか?

野生生物の生息地でもあるアマゾンの森を破壊して、次々と飼料向けのトウモロコシやダイズの畑や、肉牛の放牧地がつくられていく。野生生物との接触や持続不可能な方法の農業も、未知のウィルスとの接触、蔓延に関連している。

地球環境と生きものと人の健康は、一体のもの

2020年6月、国連環境計画(UNEP)は、次のパンデミックを防ぐための道筋を提案するレポートを発表しました。*11 レポートでは、人獣共通感染症の発生にかかわる要因として、動物性食品の消費が増えていることや、生態系を破壊する食料生産方法がなされていること、より大きな背景として気候変動など、7つを挙げています。

UNEPのレポートが指摘する、人獣共通感染症の発生に関与する7つの人為的要因:

  1. 人間の動物性タンパク質に対する需要の増加
  2. 持続不可能な農業の強化
  3. 野生生物の利用と搾取の増加
  4. 都市化、土地利用の変化、資源採掘産業によって加速される天然資源の持続不可能な利用
  5. 旅行と輸送の増加
  6. 食糧供給の変化
  7. 気候変動

そして、「地球環境(生態系)と生きものと人の健康は、互いに関連しあう一体のものと考えるべきで、それぞれが健康でないと全体として健全に存続できなない」、として、「それぞれの分野の枠を超えて健全性の回復/維持のために協力するアプローチ(ワン・ヘルス)が役に立つ」等のキーメッセージを紹介しています。

また、「食のサプライチェーン全体で生きた動物(野生動物を含む)の健全性を向上させることや、畜舎や輸送に関するアニマルウェルフェアの基準を採用する必要性」も指摘しています。

つまり、自然破壊をやめ、生物多様性と共存できる農業や資源の利用にシフトし、生きものが健康を保てるようアニマルウェルフェアの水準を引き上げることが、私たちの食や暮らしの健康のためにも必要ということです。

これを私たちの行動に落とし込んでみると、次のパンデミックのリスクを下げるためには、たとえば動物性の食品を植物由来(プラントベース)のものに置き換えたり、地元で生産されたオーガニックの農産物や、平飼いの卵を選んだり、こうした商品が手に入らない場合は、小売店に仕入れてもらえないかお願いしてみることが効果的です。こうした行動によって、温室効果ガスの排出も抑えられます。

地球規模の気候変動への対策には様々な方法がありますが、たとえば、自宅や職場の電気を自然エネルギーを供給する電力会社に変えたり、国や自治体が温室効果ガス削減の効果的な目標を掲げるよう、署名などの取り組みに参加したりすることも大事です。

私たちが地球環境(生態系、気候)や、アニマルウェルフェアを重視した食やライフスタイルを選ぶことは、それらと一体の、私たちの健康を守ることにつながっています。

もう始めている方は、次にできることを考えてアクションをとってみましょう。まだの方は、今日できそうなところから始めましょう。

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