モーリシャス沖で貨物船が座礁し、1,000トンの燃料がサンゴ礁の美しい海に流出する事故が発生してから半年あまりが過ぎました。燃料油の生態系への影響、人々の暮らしへの影響は、今後何十年にも及ぶことが考えられます。

事故の被害に対して、当時貨物船をチャーターしていた商船三井の池田潤一郎社長は、2020年9月、記者会見で「法的責任は一義的には船主」としつつ、「(商船三井も)社会的責任を負うのは当然で、前面に立って対応する」とし、長期的なモーリシャスの環境や地域社会への貢献として、総額10 億円程度を拠出する方針を打ち出しました[1]。

法的責任の範囲を超え、社会的責任のもとに企業が環境回復に踏み出した背景には、グリーンピースの署名[2]に参加した10,646名の方たちをはじめ、事故直後から国内外から何十万人という人々が、モーリシャスの環境や地元の人びとの暮らしの回復や再発防止を願って声を上げたことが大きく影響していると思います。

今、現地の状況や、再発防止への取り組みはどうなっているのでしょうか。

グリーンピースは、事故後2021 年 1月 19 日、商船三井に対して、事故の調査や現地の状況や再発防止などについて質問書を送り、2月19日に同社から回答がありました。以下に質問と回答のポイントをまとめました。全文は文末のリンク[3]から見ることができます。

事故調査、影響、汚染除去

■ 生態系への影響について:燃料油による汚染の生態系への影響はどのような状態か?

商船三井回答要約: 流出油の直接的な影響は一定程度あったものの、モーリシャス政府は2020 年後半にビーチや環境保護区域を訪問可能な状態にし、ラグーン以外の地域での漁業を再開している。モーリシャス政府と協力して、これらの地域でサンプリング調査を実施するための協議を進めている。(調査のプロセスや結果の)一般情報公開はモーリシャス政府の許可が必要となる為、当社側で判断することが難しい状況。

グリーンピースコメント:多くの人に愛され、希少で脆弱な生態系の宝庫でもあるモーリシャスの海で起きた事故なので、サンプリングの計画から分析結果まで、是非公開してほしいと思います。

■コストについて:長期間にわたると想定される環境や社会的な回復のための総コストや、保険などでカバーされる範囲について

商船三井の回答要約油濁除去および復旧活動には、当社を含め多数の組織が関わっているが、回復にかかる想定総額、および保険額は、当社の知識の範囲外となる

グリーンピースコメント:回復にかかる想定総額、および保険額は、今回はわかりませんでした。なお、同社は汚濁除去作業に直接的には関与しておらず、現場作業のための物資の支援で貢献しているとのことです。

事故を起こした船の状況や処理について:座礁した貨物船「わかしお」号の船首部分の昨年の海洋投棄後、周辺環境のモニタリングがどうなっているのか、また、現地で解体が始まっている船尾について

回答:船尾の船体処理および海没処分された船首のモニタリングに関しては、船主である長鋪汽船株式会社、および本船(船尾・船首)が位置する領海を管轄するモーリシャス政府に決定権がある。(油への曝露による住民の健康への影響調査に関連して)WHOの調査報告書 “Public Health Risk Assessment Wakashio Oil Spill Mauritius”(2021 年1 月)が作成されている。

グリーンピースコメント:WHOの調査報告書についてモーリシャスで報道されているのをグリーンピースでも確認していますが、報告書の内容については情報収集中です。

脆弱な海域の通行

 脆弱な海域を横断するルートの利用:今回事故のあったモーリシャス沖や、北極など、脆弱な海域を横断する危険を避けることや、モーリシャス沖を特に脆弱な海域として国際的に保護するという考え方について

回答:モーリシャス周辺海域は、東西航路の外航船舶が頻繁に航行する最適航路にあたることは事実であり、これを迂回して航行する場合、それにより航海距離が増加することでCO2 排出量も増加し、気候変動問題への悪影響を与えるという側面も否めない

グリーンピースコメント:今、生物多様性の保護と危険な気候変動の回避は、「どちらか」ではなく両方とも、手遅れや失敗が許されないほど差し迫った状況にあります。傷つきやすい生態系の海域を避け、かつ、CO2 排出量を増加させない、を両立させるためにも、海運にも温室効果ガス排出ゼロの達成が強く求められています。このことを、グリーンピースから同社への返信で伝えました。

化石燃料の使用と気候変動

■ 化石燃料の使用と気候変動について:2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロにする(カーボンニュートラル)という日本の方針が打ち出されたことを受け、商船三井ではいまどのような目標や方針をもっているのか

回答:持続可能なネットGHG(温室効果ガス) ゼロエミッション外航船の創出、2050 年までの船からのGHG 排出量50%減、できる限り早期のネットゼロGHG エミッションの実現、という目標」。また、「(中略)さらに重点的にリソースを投入し、海運業界のトップランナーとして脱炭素への取組みを進める」等。脱炭素のロードマップも作成中。

グリーンピースコメント:グリーンピースは、これまでにも公開書簡で、船の燃料を化石燃料から持続可能な再生可能エネルギーへと移行させる重要性を強調してきました。それは、原油流出事故の再発防止のための究極の対策でもあります。

船舶からの温室効果ガス排出量を2050年までに50%減という目標は国際海運業全体の目標[4]と足並みをそろえたものですが、この削減目標はもっと加速すべきだとグリーンピースは考えます。すでにオランダに本社を置く海運大手のMaersk社は、「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」との目標を2018年から掲げています。[5]

日本でもますます多くの国や自治体、企業が2050年に向けたカーボンニュートラルの目標を掲げるようになっている今、海運の脱化石燃料を急ぐ必要性は高まっています。なぜなら、目標達成のためには、原料の調達など、海運を含むサプライチェーンでもカーボンニュートラルが求められるようになっていくからです。

商船三井には、企業理念に掲げるとおり”顧客のニーズと時代の要請を先取り”[6]できるよう、温室効果ガス排出のネットゼロ目標の期限を早め、海運の脱炭素化をリードしてほしいと思います。

企業に求められる責任とは

モーリシャス沖で起こったこの事故は、企業の社会的責任とは何かを、今も問い続けています。

「企業の社会的な責任範囲や内容が進化し、一見、企業にとっての負担が増えるように見えるかもしれません。しかしそれは、それだけ企業に能力があるからであり、その能力を生かせば企業自身がもっとも発展し、さらに可能性が高まっていくということに他なりません」とサステナブル・ブランド・プロデューサーの足立直樹さんは言います。

今回の事故と社会的責任についての足立さんへのインタビューブログブリーフィングペーパーもぜひお読みください。

[1]日本経済新聞「商船三井、モーリシャス支援に10億円 基金設立」2021年9月11日

[2] グリーンピース プレスリリース「モーリシャス油流出事故、署名10,646筆を提出ーー世界海事デーに、海運業の企業責任の徹底を求める」2021年9月24日

[3]グリーンピースの質問と(株)商船三井の回答

[4] 2018年にIMOの海洋環境保護委員会にて採択された温室効果ガス削減戦略。国際海運は国ごとの温室効果ガス削減とは別で、独自の削減目標を設定している。

[5]オルタナ「世界最大海運業者が2050年までにカーボンゼロへ」 2018年12月7日

[6] 商船三井グループの企業理念https://www.mol.co.jp/corporate/principle/index.html より

グリーンピースに寄付する

グリーンピースは政府や企業からの援助をうけず、独立して環境保護にとりくむ国際NGOです。 大切なあなたの寄付が、グリーンピースの明日の活動を支えます。

参加する