環境問題に関心の高い人の中では、家庭で出るCO2を減らすため、そして石炭火力や原発ではなく自然エネルギーを応援するために、自然エネルギーを中心にする新しい電力会社に乗り換える人が増えています。気候変動への危機感が高まる中、いままさに乗り換えを検討しているという人も多いはず。そんな中、新電力の「電気代」上昇のニュース。何が起きているのでしょうか?

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Q. そもそも、何が起きているの?

今、「電力取引価格」が高騰しています。

自然エネルギーの電力会社や地域の電力会社の多くは、自前の発電だけでまかなえないので、電力の卸市場で電気を購入しています。「市場連動型」という、卸価格に応じて電気料金が決まるプランで契約していると、電力取引価格があがれば電気料金が高くなる可能性があります。

なぜ今回、「電力取引価格」が高騰しているのかというと、火力発電の燃料である天然ガスの在庫が足りなくなり、電力不足が懸念されたためです。また、寒波によって電力の需要が高まったこともあると言われています。

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日本は世界最大の天然ガス輸入国です。今回電力取引価格が急激に高騰したのは、日本のエネルギーシステムが、価格高騰のリスクが高い輸入燃料に頼っているから。もし国内で自給できる自然エネルギーがもっと多くて、輸入資源への依存度が低ければ、電力会社はより安定した価格で電気を調達することができたはずです。

Q. 私たちの「電気料金」も高くなるの?

電気料金が高くなるかどうかは、売っている会社によって違うので、それぞれ、契約している電力会社のウェブページなどで、情報をチェックしてください。

そして今、自然エネルギーを扱っている多くの電力会社が、高い取引価格で電力を買いながら、契約者の電気料金は据え置いていたり、値上げ幅を抑えたりしています。

つまり、わたしたちが電気を使えば使うほど、自然エネルギーの電力会社は赤字がでてしまいます。電力取引価格が高騰をしている間は、なお一層の節電をお願いします。もちろん、健康を優先して、必要な暖房は無理せず使ってください。

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2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、電力取引価格が低く、電気代が安い時期もありました。今後どうなるか、現時点で見通すことは難しいですが、少なくとも1月〜2月中は、節電や電気の使い方の工夫が必要になりそうです。

なお、一部うわさがあるような、電力不足のための停電の心配はないようです。

Q. 自然エネルギーの発電は不安定なの?

今回の電気代高騰を伝える多くの記事では、悪天候で太陽光発電が十分に発電できなかったことも、需要と供給のバランスが崩れた原因の一つとしています。

確かに、雪が積もれば太陽光発電では発電できませんし、風が止まれば風力発電はできません。しかし、これは自然エネルギーに限ったことではありません。

天然ガスや石炭などの化石燃料による発電は、資源が足りなければ発電できなくなってしまいますし、火力発電や原子力発電も、天候や事故によって発電できなくなることがあります。また、原子力は冷却が必要な発電方法なので、猛暑や海水温の上昇によって海水が上がりすぎて発電を停止しなければならないことも、近年欧州でありました。気候変動がますます悪化する今、さらに注意しなければならない点です*1

太陽光、風力発電、蓄電池技術など、技術を組み合わせて支え合うインフラが整っていれば、自然エネルギーの安定供給は可能です。

輸入に頼らず、電力供給を安定させるためにも、国内で地域分散型の自然エネルギーインフラを整えることは非常に重要です

菅首相は、1月18日の施政方針演説で、太陽光発電、洋上風力の拡充、蓄電池の低コスト化、送電網の強化を挙げました。これが実現されるように、注視していく必要があります*2

イギリス北海沖の洋上風力発電所。2013年1月

Q. 自然エネルギーの電力会社への乗り換えを検討していたんだけど、どうしたらいいの?

これから自然エネルギーの電力会社に乗り換えようとしていた方は、電力取引価格の高騰がおさまってからにしましょう

それは、自然エネルギーを扱っている会社の多くが、いま、赤字を承知の上で、高い卸電力を買って、契約者に届けているからです。

パワーシフトのウェブサイトで、ゆっくり乗り換え先を考えてみてください。そして、落ち着いたら、ぜひ、自然エネルギーを扱っている電力会社に乗り換えてください。

パワーシフト

2月2日追記:2021年1月、深刻な状況となっていた電力市場価格の高騰ですが、1月最終週から、価格が落ちついてきています。まだ自然エネルギーを扱う電力会社に切り替えをされていない方はどうぞ、切り替えをご検討ください。

Q. 政府が、私たちがすべきことは?

より安定して電気を供給するためには、まず、徹底した省エネルギーで使う量を大胆に減らし、分散型・地産地消の自然エネルギーを増やしていくことです。

取引市場で需要と供給のバランスが崩れて、「電気取引価格」の高騰を招いた大きな原因の1つには、輸入に頼る天然ガス(LNG)の価格が、国際市場で急上昇したこともあります。

国内の自然エネルギー100%で供給を目指す新しい電力会社が成長し、増えることは、国内で電力を自立してまかなうことにつながります。

福島県のコミュニティショップの屋根に設置されるソーラーパネル。2016年1月

そのためには自然エネルギーを扱う電力会社が市場に参入しやすく、そしてどの電力会社にも対等の立場で競争できるような、適切な電力市場設計が必要です。

また、今年改定予定の「エネルギー基本計画」で将来的に自然エネルギー100%の社会を目指して、原子力や石炭火力発電への優遇策をやめ、国のレベルで自然エネルギーを推進すべきです。

こうした動きを引き出すためには、電力取引価格の高騰が落ち着いてから、改めて私たちが自然エネルギーの電力会社を積極的に選び、自然エネルギーの需要を高めることが、とても重要です。

私たちの選択が、将来の電気を安定させる

新型コロナウイルスによって、私たちの家計にも大きな影響を与え、お家で過ごす時間が増える今、電気代はとても気がかりです。

自然エネルギーを扱う電力会社も、消費者の電気代を値上げをするか、どのくらいするか、頭を悩ませています。電気代を上げない場合、電力会社がその値上げ分を赤字として背負い、経営危機に直面する可能性もあります。

自然エネルギーを増やすため、そして安定した自然エネルギーのインフラを整えるために、私たちも、できる範囲で自然エネルギーを応援しましょう!