2020年12月15日、グリーンピースは今後大きな拡大が予想される東南アジアの自然エネルギー業界を分析する調査報告書「脱炭素エネルギー投資が求められる東アジアの『ネット・ゼロ』」*1を公表しました。自然エネルギーの投資は具体的にどのような意味を持つのでしょうか?そして、日本とどう関係しているのでしょうか?このブログで、報告書の内容を解説していきます。

日本は、自然エネルギーへの投資機会を見逃し続けるのか?

「史上最も安価なエネルギー」

昨年10月にInternational Energy Agencyが公表しEnergy Outlook*2によると、太陽光発電は「史上最も安価なエネルギー」であり、他のエネルギー源と比べて最も速く拡大していく市場だと予想されてました。長年最も安いエネルギー源だった石炭火力発電は「構造的減少」に入り、未来のエネルギーにおいて、自然エネルギーは大きな役割を果たすことが分かりました。

ただ、世界全体で見ると最も安価と言っても、それぞれの国や地域によって、実情はそれぞれ異なります。自国の産業を守るために化石燃料業界が保護されたり、国有地が太陽光や風力発電に適していなかったりするなどの様々な理由により、「史上最安」はその国の現状に当てはまらない場合があります。

日本は、自然エネルギーへの投資機会を見逃し続けるのか?

東南アジアの5カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)のエネルギー原価を比較してみると、国ごとに差があるとはいえ、大半の場合において自然エネルギーは最も安価となっています。これから化石燃料と自然エネルギーの差額は少しずつ大きくなっていくと考えられます。

有望な自然エネルギー業界に、近隣の経済大国は投資するでしょうか?

石炭投資の歴史

日本、中国、韓国の3カ国は東南アジアのエネルギー市場に長い間、大規模な投融資を行ってきました。

JICA(日本)やCDB(中国)やKEXIM(韓国)などの公的金融機関は、国際開発を名目に、発電所をはじめとしたプロジェクトに資金を提供することで、受取国にとっても投資国にとっても利益を確保することを目指してきました。

石炭への投資の仕組みは?

こうした投融資はどのような仕組みで行われているのでしょうか?

様々な形がありますが、日本のベトナムへの投融資を例に見ていきましょう。

発電所を建設する際、受取国側のベトナムにとっては、たとえ石炭などの燃料が十分にあっても、建設費や高度技術機材の費用などの初期費用が大きな負担となります。その際、投融資をする日本は、建設費の一部を負担したり、必要な機材を値引きして提供したりします。こうして発電所が建設されると、日本は発電所の運転期間中、決まった利益を得ることができます。

この場合、日本の投資によってベトナム側の負担が軽減される一方、日本は発電所が稼働することで利益を得られます。もちろん投融資のあり方はたくさんありますが、このように受取国と投資国双方が、利益を得ることができるのです。

日本は、自然エネルギーへの投資機会を見逃し続けるのか?
韓国の公的金融機関のKDBとKEXIMが融資するインドネシアのスララヤ石炭火力発電所で提供。東南アジアのエネルギー事業において、日中韓の融資は大きな役割を果たす

自然エネルギーは投資のチャンス

沿岸部の浸水など、特に異常気象の影響を受けやすい東南アジアの地域は、自然エネルギーへの切り替えを急ぐ必要があります。日中韓からの資金提供は、その切り替えを加速させることができます。東南アジアでは経済発展が進む一方で、電力の多くを石炭とガスに頼っています。今自然エネルギーへの移行を始めなければ、今後、気候危機による影響はさらに悪化することになるでしょう。

長年にわたって東南アジアに投資してきた日中韓の銀行にとって、拡大する自然エネルギー業界は魅力的な投資先です。本報告書の分析によると、今後10年間にわたって、東南アジアへの投資機会は約2050億米ドル(約21兆円)にのぼります。これは、過去10年の石炭火力発電への投資額の2.6倍にあたります。

日本は、自然エネルギーへの投資機会を見逃し続けるのか?

自然エネルギーへの切替の成功例はすでに出ています。

ベトナムの太陽光発電はそのひとつです。革新的な政策のおかげで、ベトナムの太陽光発電は東南アジア全体の太陽光発電の約4割を占め、2018年の134MWから2019年には5.5GWにまで成長しています。この成長の鍵となったひとつの要因は、FIT制度(固定価格売買制度)の導入によって、投資の魅力を高めたことで、近隣国の自然エネルギー業界もこれから同様に成長していくと期待されます。

温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を宣言する国が増えるとともに、自然エネルギーへの切り替えも加速し、金融機関にとって、自然エネルギーは益々魅力的な投融資先になると期待できます。こうした動きは、新型コロナウィルス感染症拡大による経済不況から、地球環境に配慮した方法で回復をめざす「グリーンリカバリー」にもつながります。

日中韓は、この大きなチャンスを活かすことができるでしょうか?