菅義偉首相は10月26日、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロとする方針を表明しました。

現在すでに日本を含む世界121カ国、および東京を含む452以上の都市が2050年までにCO2排出実質ゼロを目指し行動することを宣言*1 しています。

学生を中心とした、気候変動への行動を求める世界中の市民の声が届き始めた。(2019年3月撮影)

東京都は国に先駆けて排出実質ゼロを宣言をした自治体の一つ*2ですが、東京都の目標達成には都内の62市区町村全てのコミットメント(責任をもって関わることを公約)が必要です(現段階では葛飾区、多摩市、世田谷区の3つの自治体のみ)。日本では、地方自治法上は都道府県と市町村は上下の関係にあるものではなく同格のため、ゼロエミッション東京の実現は、都内の全62市区町村が協力して取り組まなければ成しえません。

そこで、11月14日、環境エネルギー政策研究所(ISEP)主席研究員の松原弘直さんを迎え、「自治体のCO2削減目標を引き上げるには」というオンラインセミナーを開きました。松原さんは省エネ・エネルギーの効率化、自然エネルギーの活用によって、「ゼロエミッション東京」は実現できると話してくれました。松原さんのお話の内容とグリーンピースが考える脱炭素社会への取り組みをご紹介します。

東京都は自然エネルギー比率全国最下位

日本は電源構成に占める自然エネルギー比率で欧州などに大きな遅れをとっているのが現状ですが、「永続地帯 (sustainable zone)」調査*3によると、都道府県によっては自然エネルギーの割合が高いことがわかっています。ただ、人口が多くエネルギーの消費が多い都市圏は、自然エネルギーの割合が低く、次の表にあるように東京都は最下位となっています。

「永続地帯2019年度版報告書」より

東京都は既に水素ステーションを増設し、都営バスの燃料電池バスを70台まで増やしています。そして、スマートエネルギー都市推進事業*4の一環として、企業の自然エネルギー導入や低炭素電力への切り替えに向けたインセンティブを強化し、今年から削減目標をさらに引き上げています。2019年には、都庁第一本庁舎受電分の再生可能エネルギー100%電力切り替え*5、また参加する世帯が多いほど電気料金が安くなる、自然エネルギー由来の電力の団体購入キャンペーン*6を実施し、1000世帯以上が自然エネルギー電力に切り替えたといわれています。また、都内のエネルギー消費量の約3割を占める家庭部門の省エネルギーを推進していくため、今年から住宅における断熱改修や熱利用機器の設置の際に費用の一部を助成する事業*7も始めています。

そして、都内のエネルギー消費量の現状を見ると、商業施設やビルなの業務部門が突出しています。カギは、業務部門の省エネ、エネルギーの効率化、自然エネルギーの導入拡大です。

松原さんが東京都の「都内の最終エネルギー消費及び温室効果ガス排出量」を元に作成

自治体ができること

東京都のゼロエミッションを実現するため、市区町村ではこんなことができます。カギは、具体的な道筋と目標設定、そして省エネと自然エネルギーです。

  • 国や日本の半数以上の自治体に続き、2050年ネット・ゼロ宣言*8を表明する
  • 100%自然エネルギーでまかなう目標の設定
  • 自治体レベルの「地球温暖化対策計画」や「エネルギー基本計画」などの強化
  • 省エネルギーに関する住民への積極的な情報提供
  • 事業者二酸化炭素排出総量規制
  • 省エネ・高効率化支援制度の拡充
  • 公共施設などを省エネ・高効率化。自然エネルギー利用で「ZEB(ゼブ、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」に
  • 運輸・交通部門の省エネ・高効率化と自然エネルギー利用支援
  • 地域エネルギー事業の立ち上げ(地域熱供給やエネルギー地産地消への取り組み)
  • 公共施設の持続可能な自然エネルギーによる電力の導入
  • 「ゼロエミッション・モビリティ」の拡充
    • 自然エネルギーを利用したEV充電スタンドや水素ステーションの提供
    • 自転車専用通行帯(自転車レーン)や歩行者の交通安全確保などのインフラの改善と拡張

脱炭素社会実現に向けて、私たちにできること

ゼロエミッションを目指すために、私たちにもできることがあります。日本の平均的な生活で出る1年間の温室効果ガスの量は、1人当たりCO2換算で7.6トン*9といわれています。こうした個人の排出量は「”移”・食・住」それぞれの分野で減らすことができます。

  • 大量の温室効果ガスを排出する飛行機の利用を最小限にする
  • 温室効果ガス排出量の少ない公共交通機関や自転車を利用する
  • 肉食を減らす(菜食主義者にならなくても、週に1度ベジタリアンの生活を送ることで何千万トンのCO2排出量を減らすことができる*10といわれている)
  • 使い捨てではない商品を買ったり、ゴミを減らす努力をする(ゴミになるものはすべてCO2排出量の増加につながる)
  • 自然エネルギー100%の電力会社を選ぶ*11ことで、「自然エネルギーを買いたい」という意志表明をする
「パワーシフト・リーフレット」より

「脱炭素化」はあなたの自治体から

そして、自分が住んでいる自治体の取り組みを、草の根で盛り上げていくこともできます。例えば、東京都の港区では、有志のボランティアグループ「ゼロエミッション港を目指す会」が立ち上がり、区の委員会で「ゼロカーボン宣言」が採択されるのに大きく貢献しました。

  • 自治体のCO2削減の取り組みを知る
  • 自治体が2050年CO2排出実質ゼロをめざすように取り組む
  • 自治体が2030年CO2削減目標を引き上げるように取り組む

あなたの自治体の「脱炭素化」のために何ができるか一緒に考えてみませんか?

グリーンピースは100%政府や企業から独立して、個人からの寄付で活動しております。地球温暖化を食い止めるために、1月中にあと100人の月額寄付サポーターが必要です。

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【以下のイベントは終了いたしました。】
グリーンピースでは、12月20日(日) 午後2時〜4時に、「ゼロエミッション東京」オンラインシンポジウムを開催し、ISEPの松原さん、環境省や東京都の担当職員の方々にお話いただくほか、都民のみなさんによるディスカッションなどを行います。前回の勉強会に参加できなかった方も、ぜひ参加してみてください。詳細・お申込みはイベントページをご覧ください。

コロナ禍の影響で、グリーンピースやパワーシフトだけではなく、環境省や経産省の審議会、国連環境計画 (UNEP)のウェビナーなど、誰でもどこからでも参加、勉強できる機会が増えています。行政任せではなく、自分たちの手で地域への働きかけを進めることが大切です。

そして、「脱炭素社会」に向けて、国や自治体の政策やシステムの変革と同時に、私たち個人によるライフスタイルの転換の両方を進めていければ、地球環境を守るための「脱炭素社会」はきっと実現できます。

※11月14日のオンライン勉強会での松原さんのプレゼンテーションはこちらからご覧いただけます。

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