アメリカの西海岸で猛威をふるう山火事により、避難せざるを得なくなり、家や仕事を失った多くの人にお見舞い申し上げます。

今年、アメリカの西海岸は、歴史上最大の山火事を経験しています。カリフォルニア州では、歴史で最大の火災となった4つの火災のうち、3つが今年起こり、いま同時に燃えています。8月下旬の時点で、7,694カ所にものぼる火災が300万エーカー(12,140平方キロメートル)を燃やし、記録史上最大の広さとなっています。これは、1回の山火事シーズン中に、最も多くの面積が燃えたことになります。

現状、避難者数は10万人にのぼります。これらの山火事や避難は、世界的なパンデミック、記録的な熱波、そして複数回にわたる停電のさなかに起きています。

いくら対処方法や、安全に過ごす方法を知っていたとしても、様々な危機が同時に起きていると、どうしようもないように感じることもあります。このような危機に対応するときには、これらの問題がどのように交差しているのか、状況を悪化させている根本的な問題は何か、どのコミュニティが最も影響を受けるのかを考えることも重要です。

気候危機

まず第一に、カリフォルニア州のニューサム知事自身が呼びかけたように、異常に乾燥した冬や記録的な猛暑など、気候危機が異常気象を助長していることを私たちは認識しなければなりません。

アメリカ西海岸で起きていることは、私たちは一度にひとつの問題の解決に取り組んでいるほど余裕がないという悲しい現実を表しています。

気候変動が山火事を加速させ、そしてその山火事は大気の質を悪化させ、新型コロナ感染症のリスクが最も高い人々の公衆衛生リスクを増加させています。一方で、パンデミックは、州民を山火事の中でも安全に避難させるという州の役割を複雑にしています。

すでに、200万人ものカリフォルニア市民は熱波のさなかで起きた停電を経験しました。このような停電が熱波やパンデミックと同時に起きることは、とても危険です。なぜなら、病気を抱えている人や年配の人々、医療機器が必要な人々にとっては、電気が使えるかどうかが生死を分けることになるからです。

各地で起きた炎や舞い上がる煙によって、ベイエリアの日々の大気状況は、「世界最悪」の状態に何度も達しました。

山火事の煙には、大量の煤(すす)やその他の微粒子が含まれており、喘息や呼吸器系の問題を悪化させる可能性があり、肺炎などの肺感染症リスクを高めることもわかっています。

山火事の煙に接することは、呼吸器疾患、出産結果の悪化、心血管疾患、および早死などとの関連性が指摘されています。新型コロナ感染症は、大気汚染のある地域で暮らす人々にとっては高リスクとなりますが、汚れた空気は深刻な公衆衛生上の緊急事態です。

致死的な大気汚染物質は、火災によって生じる危険な煙によって悪化し、子どもや年配の人々、屋外労働者やホームレス状態にある人々をはじめ、免疫システムが低下している人々、呼吸器や心血管系の既往症を持つ人々を脅かしています

呼吸器疾患に注力した公衆衛生危機に対処している今、私たちが最も避けなければいけないのは、呼吸器疾患をさらに悪化させ、新型コロナウイルスのリスクが偏る黒人などの有色人種のコミュニティ、先住民コミュニティや低所得者層のリスクをさらに高めている汚染が増えることです。

行政はマスクや、安全で密にならない煙シェルターの提供など、他の公衆衛生対応をコミュニティに提供していく必要があります。

化石燃料が、気候危機を加速させ、公衆衛生をさらに危険にしている

安全な避難をしつつ、大気汚染の影響を受けやすい人々を守るといった喫緊のニーズに対処する一方で、気候危機を加速させ、これらの山火事を悪化させ、パンデミックのまっただ中でのさらに健康を脅かす危険な煙をつくっている、その根本的な問題を無視することはできません。

化石燃料の採掘は気候危機を悪化させ、それがカリフォルニアの山火事をさらに大きく、さらに加速させるのと同時に、石油やガス採掘場の周辺に住む人々の公衆衛生リスクを悪化させています。

何十年にもわたって、喘息や呼吸器疾患、早産や高リスク妊娠やガンなど、地域特有の公衆衛生の危機に直面してきた、そこで暮らす人々は、新型コロナ感染症へのリスクもより高くなっています。

高汚染地域にある掘削場の近くに住む180万人のカリフォルニア州民のうち、92%が有色人種のコミュニティです。新型コロナ感染症によって、この公衆衛生の危機は根深い社会的な人種差別を明らかにしました。

気候危機を加速させる主な原因が化石燃料産業だということは周知の事実ですが、カリフォルニアは、アメリカ国内でも有数の石油産出州の1つです。皮肉なことに、ニューサム知事は山火事と気候変動のつながりを迅速に指摘したにもかかわらず、今年に入ってから1,500もの新たな石油やガスの採掘許可を出しています。しかも、カリフォルニアにも感染症が広まった3月から、48ものフラッキング(水圧破砕法)許可を出しています。実際、2020年上半期だけでも、知事は昨年の同時期と比べて90%も多くの石油・ガス採掘許可を出しています。

カリフォルニアが記録的な熱波や破壊的な山火事を経験しているなか、リーダーたちは気候変動に関する科学を信じるだけでは十分ではありません。行動することが必要です。

健康や気候危機を加速させる化石燃料から今すぐシフトし、新しい、安全で、公平なエネルギーシステムに投資をすることです。これには、影響を受ける化石燃料産業に関連する人々の暮らしを守るよう「公正な移行(Just Transition)」の考え方を含める必要があります。

日本も例外ではない

気候危機、人種間の不平等、そして公衆衛生は相互に繋がり合う問題であって、1つ1つ個別に対処している時間はありません。

異常気象と新型コロナ危機に同時に見舞われていること、そして経済や社会的な格差によってそのリスクが偏っている状況は、日本も例外ではありません。感染拡大を押さえながら、台風や豪雨など、激化する異常気象から自分や家族の身を守るためには、身を守る備えを行うこと、そして、その根本原因である気候変動をこれ以上悪化させないために、化石燃料から自然エネルギーへのシフトを加速させるよう、政府に声を伝えることです。

異常気象から命を守るために

■非常事態のための避難の準備をしておく

■気象庁や自治体などによる、台風や豪雨などの気象情報をチェックする

■危険が迫る前に避難する

■備えや避難について、近隣コミュニティに声をかけあう